99話 緑から黄色へ
しばらくの間、二人はじーっとそのままの姿勢で一緒にいた。一定時間経つとピュアはコバルトの手を肩から落とし、くるりと振り向いてコバルトの目を正面から見つめ、両手を頬に当てながらにっこりと笑ってこう言った。
「少し、落ち着いた?」
「ああ、ピュア、ありがとう」
すると今度はピュアがコバルトをベッドの方に連れて行って二人でそこに座った。そして正面から抱きついて優しく優しくコバルトの頭を撫でながらこういった。
「コバルト、大丈夫、私がいるよ。どんなことがあっても、私があなたを守るから。私が、私があなたのそばにいるからね」
二人はそのまま長い間じーっと抱き合ったまま何も言葉を発さなかった。そして随分と時間が経ち、気がつけばもう陽は落ちて夕方になっていた。
「あ、いけね、もうこんな時間か。とりあえず俺、部屋に戻るわ。ピュア、あの、ありがとう」
コバルトは立ち上がって部屋を出ようとする。ピュアは少し寂しくなって引き止めようかと思ったがそれはできなかった。なんとなく、それも気が引けたのだった。
「コバルト」
「ん?何?」
「またね」
「ああうん、またな」
二人は最後にそう言葉をかわすとそこで別れた。ピュアはその後放心状態になり、突っ立ったままぽーっと考え事をしていたが、ハッと我に帰り、顔が真っ赤になって、ベッドに蹲り、布団に潜り、悶えながら転げ回った。
(コ、コバルトが私のこと、抱きしめてくれた!え?何?何?なんなの?よくわかんないけど向こうからって実は初よね!嬉しい!嬉しい!きゃー!)
ピュアは布団にくるまりながらいてもたってもいられずずっと悶えていた。何が起こったのかよくわからなかったけどとにかく嬉しい!結局その日は作ったキャロットケーキのことも忘れてずっと布団の中で悶え続けていた。
その後夕方になったので皆で集まって夕飯を食べた。と、言いたいところだったが、ピュアもハンタもコバルトも部屋から出てこようとせず、仕方なしにミントが食事と切り分けたケーキを持っていった。そしてエメラルドは長いことハンタといたようだったが、その日は自分の元いたキュルマの街に戻ったようだった。
コバルトもハンタもエメラルドもミントもライトも、それぞれの想いを胸にその日は特にみんなと接点を持たずに1日を終えた。戦いはなかったが、色んな想いが交錯していて、みんな気持ちの整理には時間が必要だったのだ。
次の日
コバルトは朝目覚めると、朝ごはんを食べにエバーのいる家に行った。なんとなくみんなと顔を合わせ辛かった。というのは、ハンタとのデートの後、まだ一度も彼女と対面していなかったからだ。昨日起こった話だったのだがなんとなく気が引けた。
コバルトはドアを開けて部屋に入る。そこにはピュアとライトとハンタとミント、エバーもいた。みんな同じ顔ぶれが揃っていた。ああ、この街に来た時と変わらない。いつも通りの朝だ。
「コバルトおはよう」
「ああ、ハンタ、おはよう」
ハンタがいの一番にコバルトに満遍の笑みを浮かべて話しかける。コバルトはそのまま席に座り、ミントが持ってきた朝食を食べた。ああ、本当に何も変わらない。昨日の出来事がまるで嘘だったかのようだ。
食事を終え、ひと段落つくと、ライトが深刻そうな様子で話を切り出した。
「みんな、今回の戦いは本当によくやってくれた。みんなの功績もあり、誰一人欠けることなく黄魔族の襲来を撃退できた。あとは黄色い国に行くだけだ!」
ライトが張り切ってそういうと、次にミントが少し後ろめたそうな感じでこういった。
「・・・そうね、これは青魔族だけじゃなくて緑魔族にとっても重要なこと。今後、黄魔族の襲来を防ぐためにも、あの国を降伏させるしかないわね。けど、ライトごめん。あたしたちは一緒にはいけない」
ミントが消え入るような声でそう言った。ハンタもそれと同じように暗い表情を浮かべていた。
「今回、ハンタはクロムに、あたしはアプリコットにコテンパンにやられた。今のあたしたちじゃあ一緒に行ってもきっと力になれない。それにもしまたああやって襲撃を受けたときにあたしやハンタがいないとここは守りきれない。だからもうあなたたちに託すしかないわ」
「ミント・・・」
ハンタがミントの消え入るような声を聞いて、涙を堪えるようにギュッと唇を噛んでいた。残念だがそれは正論だった。今の自分たちでは力不足だったのだ。
(それに、今ハンタをコバルトと一緒に行かすことはできない。ハンタにとってそれが一番辛いことだから。ハンタが落ち着くまで、この国で見守ってあげたい)
「ああ、もちろんだ。ミント、この国を頼む。あとのことは俺たちに任せろ!これは青い国と黄色い国の命運をかけた戦いだ!」
コバルトがミントの不安をかき消すかのように言葉を投げかける。事実、もう黄魔族との戦いはあとはコバルトとクロム、ライトとアプリコットが決着をつけるのみとなったのだ。
「コバルト、ありがとう。あとのことはよろしく頼んだ。きっと生きて戻ってきてね」
「ああ、そうと決まればすぐにでも黄色い国へ行こう!この戦いは絶対に負けられないな!」
「ああ、コバルト!頼りにしてるぜ!ピュアももちろんきてくれるよな!」
「うん、ライト、当然じゃない!私もきっと力になってみせるわ!絶対に黄魔族に勝てるわよ!」
ピュアがそういうと、黄色い国に向かうことが決まった。それまで色々な下準備や緑の国の国民に別れの挨拶をしなくてはならないので、出発は明朝となった。
(ああ、ライト、行ってしまうのね。そしてアプリコット、どうか二人とも無事であってほしい。これは私のエゴかもしれないけど、二人にはどちらとも命を落として欲しくないわ)
ミントが心の中でそう思った。ライトが大好きだったけど、今は心にアプリコットのことも浮かんでいた。本当は戦って欲しくなかったけど、違う色の敵同士、戦わなくてはならない時がくるのだ。
(クロム、本当に強かった。コバルト、どうか無事で生きて帰ってきてね。あたし、待ってるからね)
ハンタもクロムの強さを目のあたりにしてコバルトの安否を気遣った。クロムと戦い、彼の強さを知っているハンタはコバルトが心配でならなかった。けれどどうにかやってくれるだろう彼なら。そして彼に寄り添うピュアを見て、ハンタはもう彼のことはやはり諦めなくてはならないのかと自分に言い聞かせるようにこの時なっていたのだった。




