98話 青色と白色〜コバルトブルーとピュアホワイト〜
ヴィフレアの街に戻ると、そこにはミントとライトが待ち構えていた。そしてハンタはミントを見ると、すぐさま自分の部屋に戻っていった。ミントとライトがコバルトを見つけると物凄く申し訳なさそうにこう言った。
「コバルト、今日はあなたを騙してごめんなさい。わかってると思うけど、本当は行事なんてなかったの。あの、いつもならこんなわがまま聞かないんだけど、今回はハンタがどうしてもかわいそうで」
「コバルト、俺もわかっていながら黙っていてすまなかった。ミントきっての頼みだからどうしても断れなかったんだ。お前に事前に話しておこうと思ったんだけど、それもやめて欲しいって言われたから。あと、今日のことはピュアには黙っていて欲しい」
二匹は頭を下げてコバルトに深く謝罪をした。コバルトはその様子をみて、全てを悟った。ああ、やはりこれは初めからハンタのわがままを通すため繕いだったのかと。
「いや、別にいい。気にしないでくれ。むしろ今回のことで少し自分の気持ちに整理がついたかもしれない。これも二人のおかげだ、ありがとう」
コバルトはそういうと二匹を後にして自分の部屋に戻って行った。そして部屋の中でベッドに仰向けに倒れると、天井をボーッと見つめていた。
(ハンタ、そんなにも俺の事を・・・。けど、けど、俺は!)
コバルトは少しの間ボーッとした後にすぐさま起き上がると、そのまま部屋を出た。そして何かを確信したようにどこかに向かっていった。
一方こちらはミント。
コンコンとドアをノックする。当然だが中から返事はない。ミントは思い切ってドア越しに声をかける。
「ハンタ、入るよ」
ミントはそう言ってドアノブを握りしめ、思い切ってドアを開けた。そして中には昼間だというのに窓も全て閉め切ってベッドの上に座り込んで下を見ながらすごく落ち込んでいるハンタの姿があった。
「あ、あの、ハンタ・・・」
「ミント、あたし・・・振られ・・・ちゃった・・・」
ハンタが涙を流しながら今にも消え入りそうな声で呟いた。その声はとても弱々しく、いつも振る舞っているハンタとは大違いだった。ミントは部屋のドアを閉めると、ハンタの前に行き、ただがくんとうなだれていた。
(ハンタ、かわいそう・・・。この世界に来てからずっと頭首ってあがめられて、国を守るために必死で戦ってきて、いつもみんなに頼られてばかりで・・・。ハンタだって女の子だもんね、誰か強い男の子に自分を守って欲しいよね。あたしにはライトがいるからいいけど、ハンタには誰もいないもんね。自分より強い人も、守ってくれる人も)
ミントは涙ぐんでハンタを見ていた。そしてそっとハンタの膝下に駆け寄ってハンタをギュッと抱きしめた。
「ハンタ、辛かったね、苦しかったね。けど、勇気を出してコバルトに言ったんだね。偉い偉い、本当は今コバルトと一緒にいたかったよね。ごめんね、今一緒にいてあげられるのがあたしで」
「ううん、ミント、ありがとう。あなたはいつでもあたしのこと考えて、あたしの心配してくれるよね。それだけであたし、救われてるよ。どうもありがとう」
ハンタとミントは互いに抱きしめ合いながら涙を流していた。と言いたいところだがハリネズミの背中の針が手に刺さっては困るのでハンタは抱きしめなかった。けど、今は誰かに自分を抱きしめて、そして一緒にいてくれる存在があるだけでハンタには救いになった。
少しの間、ハンタと一緒にいると、ハンタが一人になりたそうな空気を醸し出したのでミントは何も言わずにそっと部屋から出た。そして外に出てうなだれていると、そこにはなんとエメラルドの姿があった。
「ミント、ハンタ様はどうしたんだ?何かあったのか?」
「いや、エメラルド、何もないよ。ちょっと気分が悪いってだけ。だからそっとしておいてやって」
「ミント、本当のことを言ってくれ。俺にはわかる。ハンタ様は、ハンタ様は・・・!」
エメラルドはそれ以上何もミントに問いたださなかった。そしてミントに何も告げずにそのままハンタの部屋に向かった。ミントは驚いて止めようかと思ったが、エメラルドの真剣な表情に声をかけることができなかった。
コンコン。
「ハンタ様、失礼いたします」
中から何も返事がない。だがエメラルドはドアを何も躊躇することなく開き、中に入った。そこには相変わらずも、暗い部屋の中でベッドに座ったまま俯いているハンタの姿があった。
エメラルドはハンタに近づき、その場に跪いた。そして手を震わせながら両手でハンタの両手を掴み、ギュッと強く握り締めながらこう言った。
「ハンタ様、恐れ多くも言わせていただきます。あなた様と御一緒にいられるのが私では駄目でしょうか?私は、私では力不足かもしれません。私ではあなた様をお守りすることはできないかもしれません。けど、けど私があなたをお守りします。私があなたとずっと御一緒いたします。私はどんな時も、どんなことがあってもあなたを守ってみせます!」
「エメラルド・・・」
ハンタは顔を上げ、片手でぐしっと涙を拭うとエメラルドを見つめた。その真剣なエメラルドの瞳に、ハンタはただただ救いになった。
「エメラルド、ありがとう」
ハンタはそういうとそのままエメラルドと抱擁をした。エメラルドに対して想いはなかったのだが、この時の彼の気持ちを彼女はただただ嬉しく思った。ああ、こんな自分にも想ってくれる、守ってくれると言ってくれる存在がある。それだけで彼女は救われた。
一方こちらはコバルト。
部屋の前で長い間、彼は戸惑っていた。今自分がしていることはおかしいことではないのか?用件もなく訪ねてもいいのだろうか?けれど彼は自分が感じるままに行動していたのだ。
コンコンとノックをする。中からどうぞと声がしたのでドアノブを開け、中に入った。そこには何やら部屋にあるキッチンで何かを作っているピュアの姿があった。
(ピュア・・・)
「あ、コバルトお帰りなさい!どうだった?行事は?やっぱり王様二人でみんなに挨拶したりするのは大変だったでしょ?お疲れ様!今さ、キャロットケーキ作ってるところなんだ!ミントがいい材料くれてね!行事終わった後に二人に食べてもらおうと思って!」
ピュアが嬉しそうにエプロンをつけながら出来上がったケーキを切り分けている。ツーンと部屋中に甘い香りが漂った。そして二人分のケーキを皿に盛っている。ああ、きっと自分とハンタの分だ。
コバルトはその時何も言わずに、ケーキを盛っているピュアを後ろから抱きしめた。あすなろ抱きだ。突然の事にピュアはものすごくびっくりしてどう反応していいかわからなかった。
「え!?コバルト!ど、どうしたの!?」
「ああごめんピュア、少し、このままでいいかな・・・?ほんの・・・少しだけ・・・」
『コバルト、あたしね、最初あなたに負けた時、あなたに対する憧れしかなかった。けど今は違う!あなたはあたしを命懸けで助けてくれた。今のあたしがあるのはあなたのおかげ。だから最後まであたしのこと守って!あたしを誰よりも一番大事にして!あたし、あなたとずっと一緒にいたい!あなたのためなら何でもする!あなたがこの世界で一番大好き!』
『コバルト!あたしのこと、助けてくれたでしょ?なら最後まで責任を持ってあたしを守ってよ!これから先も他の誰よりも、あたしを一番大事に守って!あたしを、あたしをコバルトの一番大事な人にして!』
『わかった。言えてよかった。あのね、もし彼女欲しくなったらいつでも言ってね。あたしいつまでもコバルトのこと待ってるから。コバルトが辛かったり悲しくなったらあたしがいつでもそばにいるからね。あ、あとひとつだけお願い聞いてもらっていい?』
『あたし、ファーストキスはコバルトがいい。んーん、コバルトじゃないとやだ。コバルトはピュアともうキスした?』
『へっへー、コバルトのファーストキスいただき!今回はバードキスだったけど次回はディープキスでもいいよ!』
『ピュアには内緒・・・』
ハンタの声がコバルトの脳内に響き渡る。コバルトはハンタの想いに応えることができない。ハンタも自分にとって大切な人だ。どうにか彼女のために自分ができる事なら応えてあげたい。けれど自分の気持ちがよくわかっていない今では、それはできなかった。
「コバルト・・・。うん、いいよ・・・」
ピュアはコバルトにそれ以上何も聞かなかった。そしてただただ彼のお願いを受け入れ、彼の手をギューっと握り締めながらそのままじーっとしていた。コバルトはピュアに寄り掛かったまま浅い呼吸を続けていた。
(ピュア・・・ピュア・・・俺は、俺は君が・・・)
コバルトは心の中でなにか呟いたが、それ以上は自分でも何も答えを出せなかった。自分でもよくわからない感情がずっと彼の心の中で渦巻いていた。ただ彼にとって、ピュアと一緒にいるその時間だけがそれを少しだけ忘れさせてくれるような、そんな気がしたのだった。




