96話 緑の教会
「ねえねえ、コバルト、次あそこ行こっ!」
ハンタに手を引かれ街を回るコバルト。ハンタはすごく嬉しそうだ。そして時間も経ち、お昼になったので昼食を食べにレストランに入った。
そのレストランはすごくおしゃれなビュッフェだった。主に洋食を扱っていたが、スイーツもドリンクもあり、様々な種類の料理が並んでいて選び放題だった。
「うわぁ、すごいおしゃれな店だなあ。バイキングとか懐かしい!俺スイパラが好きだったな!」
「ウンウン!バイキングいいよねー!というかコバルト、スイパラ好きなんだ!甘いもの好きなんだね、意外ー!って、スイパラって何だっけ?」
「ああ、スイパラってスイーツパラダイスだけど、ええとなんかさスイーツより料理の方がうまいって感じの店だったよな」
二人はなぜか互いに共有している情報で首を傾げた。あれれ?何だっけスイパラって。昔の記憶だろうか?ハンタも覚えてるってことは有名なお店だったんだな。
そんなこんなでビュッフェを楽しむ二人。コバルトは食べ放題のお店に入ってなぜか昔を懐かしんだ。ああ、何だろうこの感じ。よくこんなお店に入って楽しく食事していた気がする。
昼食を終えると二人は再び街に繰り出した。あいも変わらずハンタはコバルトと腕を組み、とても嬉しそうだ。
「ねえねえ、次、どこいこっか?あたし二人でプリクラ撮りたいんだけど流石になさそうだし、カラオケかボーリングでも行きたいけどこの世界じゃねえ、いろんなお店回ったし、ほかに行きたいところある?」
カラオケ?ボーリング?プリクラ?ああ、なんか昔あった遊びだったな。何となく覚えてる。たしかカラオケは歌を歌う場所でボーリングはピンを倒すゲームでプリクラは写真を撮る機械だ。
「いやあのさ、ハンタそれよりもさ、この街に来る前に言ってた行事っていうのは」
「あーそうそう!そうだったね。もうお昼も回ってるし、じゃあそろそろいこっか」
ハンタはそういうと何か思い出したかのようにどこかへ向かった。中心街から離れ、木々が生い茂った森林の道を歩いて行った。どこへ向かっているんだ?コバルトは不思議がったが何となく察しがついた。きっとこのケークスの街にも王宮があり、それはきっと街の中心ではなく、こういった離れにあるのだろうと。
街から離れ、森林の小道を抜けると、森の中にポツンとひっそりと寂しく聳え立っている緑色の教会にたどり着いた。クロム達と出会った礼拝堂と違って、管理が行き届いていて寂れていない。こ綺麗でこじんまりとしている。そしてそのまま中に入った。
中に入ると、全体が緑色と白で作られている以外はごく普通の教会だ。そして祭壇に行くとそこには一枚の大きな絵が飾られていた。
その絵は背中から白い羽の生えている天使のような風貌をした、自分より一回り若い少年の絵が飾られていた。
「なんだかすごいところだな。まるでシスティーナ礼拝堂にある絵だな。ネロとパトラッシュが最後を遂げた場所みたいな」
「ははは、コバルト、違う違う、それはアントワープ聖母大聖堂だよ。あれはかわいそうだったね。けど最後天使が迎えにきてくれるからそれがいいよね」
コバルトのよくわからない質問にハンタはそのまま疑問に思うことなく返す。あれ?なんだ?自分でもまた変なこと言ったけどハンタはそのまま返してきた。ハンタ、俺が言ったことわかるのか?
「ところで、あの男の子は?」
「ああ、あれ、なんかこの世界の神様って言われてるみたい。実際にいるかどうかはわからないけど、名前はレインっていうんだって」
「レイン?へえ、少年の神様ねえ」
コバルトがそういうと、ハンタはそのまま神様の絵を見たまま手を合わせて拝んでいた。コバルトもなんとなくハンタに習い、手を合わせて拝んだ。
「あのさ、コバルト、何かお願いした?」
「ん?いや、別に。けど、こういう場ではなんかさ拝んだほうがいいかなって」
「ふーん、あのさ、コバルト、神様って信じる?」
「うーんそうだな。前は信じてなかったけど、多分いる気がするな。だって俺がここにいるってことはきっと神様が引き寄せたんだろうし。まあ会ったことないからなんともいえないけど」
「へぇーコバルトって絶対そういうの信じないタチだと思ってたけどそういうところあるんだ!かわいいじゃん!」
「な、なんだよいきなり!ところでハンタはどうなんだよ?」
「あたし?あたしは信じてるよ。神様はきっといるって。だからさ、神様にお願いしてそれを信じてれば、いつかきっとそれは叶うってそう信じてる」
ハンタはコバルトの方を見ず、飾られている絵を眺めながらそう答えた。その瞳は憂の中にどこか寂しげで悲しそうな様子も伺えた。
「そういえばハンタ、行事って、ここで何かするのか?まずはこの絵を拝むことがはじめなのか?ここの教会、誰もいないみたいだけど」
「あーうん、ここまで連れてきちゃってごめんね、とりあえず、外に出よっか」
二人はそのまま教会から外に出た。何だ?ハンタ、今度はどこに行くんだろう?教会の中で何かするわけじゃないのか?
外に出ると、時間はお昼を回っていて夕方に近かった。そして柔らかな風が吹いていて二人を優しく包んでいた。
「もう、夏も終わりだね」
「ああ、すっかり秋だな。初秋って感じだな。この世界にも四季はあるみたいだな、ところでハンタ、それはいいんだけど行事は」
コバルトがハンタにそう言いかけたその時、突然風がドゥーっと吹いた。そしてあたりの木々がざわざわざわと揺れ、至るところに木の葉が舞った。
コバルトは突然の大きな風に一瞬怯み、目を閉じたがハンタはコバルトの方をじーっと見つめていた。
次の瞬間、ハンタはコバルトに向かって一直線に走り出し、そのまま胸に飛び込んだ。そして胸のシャツを両手でギュッと掴み、胸に顔を埋めたままじーっとしていた。
「え?ハンタ、あ、あの」
「ねえ、コバルト、ピュアのこと、好き?」
ハンタはコバルトの胸に顔を埋めながらそっとそう問いかけた。その声はとても消え入るような小さな小さな声で、いつものハンタが発するような元気いっぱいの声ではなかった。そしてその両手は小刻みに震えていて、とても弱々しかった。
(ハ、ハンタ、お前・・・)
コバルトは突然のことにとても驚いたが、ハンタの問いかけに何も答えることができなかった。そしてコバルトは、ハンタが発したその言葉よりも、まるで子羊のように震えていて、ものすごく弱々しそうに自分にすがってくる彼女に、心底驚きを隠せなかった。




