91話 白川夜船
夢を見た。
まただ。またあの夢だ。この世界に来る前によく見た夢。ただ何となく広い広い海を漂っている夢。潮の香りがするし、空にはウミネコが飛んでいる。
そしてその白い鳥が、自分のところに舞い降りてきた。ああ、またあの夢だ。けど海底には沈まないのはなぜなんだろう?
そして今回の夢は不思議なことに、なかなか目が覚めなかった。そして今までは何度も飛び去って行ったそのウミネコは、前と違い、助ける様子もなく、海の上に浮かびただただコバルトの近くにいた。まるで見守るかのように。
「もしかして、ずっとここにいてくれるのかい?俺が寂しがり屋だから?」
コバルトが話しかけるが、そのウミネコは何も反応をしない。ただただ見守ってくれているようだ。
そして長い長い夢を終えると、コバルトはようやく目を覚ました。また同じ夢か。それにしても今回はなぜだろう?
目を覚ますと、そこは緑の国に来てからよく目にしたログハウスだった。そして誰かに手を握られているのに気がつき、そちらを見ると、そこには泣き疲れたように涙を流したままベッドに蹲って眠っているピュアの姿があった。
「ピュア・・・」
コバルトはピュアを見ると安心した。ああよかった。命はどうやら助かったみたいだ。そして街に戻ってこれたんだな。あの時、誰かが見つけてくれてきっとそれで一命を取り留められたんだ。けどあれは誰だったんだろう?あとでお礼を言っておかなきゃ。
ガチャリと音がすると、誰かが部屋に入ってきた。ライトとミントだ。コバルトは二匹を見るととても懐かしい感じがした。
「コバルト!」
「コバルト!目が覚めたのね!よかった!よかったホントに!」
ミントが涙目になってコバルトに飛びついた。珍しい。ミントがここまで自分に寄り添ってくれるなんて、よほど嬉しかったのだろうか?
「ああ、ライト、ミント、俺助かったみたいだな。とりあえずよかった。えーっと俺どれくらい気を失ってたんだ?」
コバルトは立ち上がると体に違和感を覚えた。ん?羽と太ももに大怪我をしていたはずなのに痛くない。傷が完全に塞がって治ってるし、火傷の後もない。それどころか体がどこも痛くない。体は普通に動く。万全の状態だ。
「ああ、コバルト。丸二日眠っていたんだよ。お前、全身に火傷を負っていて、医者の見立てではもう助からない、助かっても戦うことはおろかもう歩けないだろうって言われてたんだ」
ライトがそういうとコバルトは不思議な感じがした。戦えない?歩けない?ベッドから起き上がると全身痛みどころか全く疲労感もない。傷跡もひとつもない。どういうことなのだろう?
「歩けないどころか普通に今でも戦えるぞ?全身大火傷を負っていたはずなのに、どういうことだ?あ、そうだ!ハンタはどうなった!?あいつも重症だっただろう?無事だったのか?」
「ああ、コバルト、ハンタはあなたよりずっと軽傷だったよ。たしかに骨折したりかなりダメージが蓄積されていたけど樹人族だし、命に別状はないから安心して。普通にまた戦えるようになるってさ」
「そっかー!ミント!それはよかった!これでみんな無事だったな。俺の方が重症だったのか。それにしてもじゃあなんで俺こんな体動くんだ?鳥族は樹人族より治りが早いのか?」
「えと、それはその」
ライトが後ろめたそうにピュアの方を見つめていた。そういうえばピュアはなんでこんな涙を流しながら眠っているんだ?それに魔力もほとんど感じない。
「もしかして、ピュア・・・?」
コバルトが問いただすと、ライトはものすごく後ろめたそうにこれまでの経緯を話し出した。
森の中で倒れていたコバルトとハンタを、ピュアとエメラルドが見つけて連れて帰って治療したけれど、コバルトが本当に危険な状態で命が助かるか危ういくらいだったということ。
そしてピュアが、ものすごく取り乱して、泣きながらずっとコバルトに回復魔法をかけていたこと。
ライトやミントが何度もピュアを止めて休むように言ったけど、ピュアはコバルトが目覚めるまで絶対にやめないと言い張っていたこと。
魔力が尽きても、少しでも戻ったらまたコバルトに回復魔法をかけ続けていたこと。そして、コバルトが死んだら自分も死ぬと泣きながら叫んでいたということ。
(ピュア、そこまでして俺のこと・・・)
コバルトはあれだけの重傷を負っていたにもかかわらず、なぜ自分の体がここまで動くのか傷がないのか不思議でたまらなかったが、その理由がわかった。きっとピュアが魔力が尽きるまで回復魔法をかけ続けてくれていたんだ。
「コバルト、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「ん?何だよライト?」
「多分さ、ピュアはもうそろそろ目が覚めると思うんだよ。二日間ずっと寝てなくて、今日の朝方からようやく寝出したんだ。今はもう昼時だろ?それで今までの長い時間結構眠っていたから、多分そろそろ目が覚める頃だと思う。その時多分一番最初に会いたいのはお前だと思うからさ、一緒にいてあげてほしい」
ライトが真摯な表情でコバルトにお願いをする。ミントも同じようにペコリと頭をさげる。コバルトはふっと優しい表情になってそれをうけいれた。
「ああ、俺の命が助かったのもピュアのおかげだ。俺またピュアに助けられちゃったな。わかった。俺もいの一番にピュアにお礼言いたいし、ピュアが目覚めるまで俺はここにいるよ」
コバルトがそういうと、二匹はにっこりと笑って部屋を出て行った。そういえば二日も何も食べてなかったから、随分お腹が空いていたのでミントが食事を持ってきてくれた。コバルトは食事にガツガツとありつき、満腹になった後にピュアの方を眺めていた。
(ピュア、ずっと俺のこと見守ってくれてたんだな。ありがとう。今度は俺が君のぞばにいるから)
コバルトはそう思い、ベッドに蹲っているピュアを抱き抱えてベッドに置いた。そして近くに座ると、ピュアの手をそっと握った。そして、ピュアが目覚めるまでずっとこの手を握っていようと、この時決意したのだった。




