90話 青天霹靂
一方その頃こちらはキュルマの街。
森の中でアイビーと合流したピュアは、一目散に街へ戻り、アイビーをエメラルドに託した。本当はピュアはコバルトの魔力を追い、そのままハンタとコバルトの元へ向かいたかったのだが、やはり子供を一人にさせておくわけにはいかないし、ハンタはコバルトが向かったのだからある程度大丈夫だろうと踏んでいた。
「エメラルド!やっぱり私二人が心配よ!すぐに向かうわ!」
「はい、ピュア。俺もハンタ様が心配です。けどコバルト様の魔力を目印に追いかけていたのに一旦街に戻ってきてしまっては、あの礼拝堂まで緑魔族でないあなたが一人で向かうのは難しいでしょう。やはりここは俺が行きます!」
「私も一緒に行くわ!エメラルド!どうか私を一緒に連れて行って!」
ピュアがエメラルドに懇願する。ここでどちらかがこの街を留守にしてしまうと、この街を守るものが誰もいなくなってしまう。そこでもし奇襲を受ければどうしようもないだろう。ただ今のピュアの様子を見て、エメラルドは断るわけにもいかなかった。
「わかりました。ピュア、仕方ありませんが一緒にいきましょう。黄魔族も退散したのでもうこの街には戻ってこないでしょう。ただ少しでもこの街から魔力反応があればピュアは絶対に先に引き返すこと。そしてこの街を守って欲しいです。それでもいいですか?」
「うん!それでもいいわ!すぐに行きましょう!」
エメラルドはアイビーにすぐ戻ることを伝え、そのままピュアと二人で礼拝堂へ向かった。ピュアはコバルトは心配ない、ハンタがとにかく心配だと言い聞かせていたが、どうも変な胸騒ぎをするのだった。
コバルトはハンタを背負い、剣で地面を突き立てながらヨロヨロと森の中を歩いていた。途中で魔力ポケットからポーションを取り出して飲んだが、火傷や刺し傷にほとんど効果はなく、痛みと体力、魔力の疲弊で気を失う寸前だった。
途中でハンタを下ろして、何度も休みながらハアハアと息を切らして街へ向かった。もはや限界はとうに通り越していた。自分一人で歩くのもやっとなのに、ハンタを背負いながら何キロも歩いていたのだ。
「ハハハ、ハンタ、お前ピュアより重いな。何食ってんだよ。植物は人より軽いんじゃないのかよ。ま、どうにか街まではたどり着きそうだから安心しろよ」
コバルトはそういうと、またハンタを背負ってヨロヨロと歩き出した。火傷と刺し傷が痛い。額から汗が滲んで流れて目に入る。けどここで歩くのをやめてはダメだ。どうにかピュアやエメラルドに見つけてもらえないと共倒れしてしまう。
「・・・コバルト?」
コバルトに背負われていたハンタが気がついて話しかける。え?あたしたしかクロムと戦ってそれで負けて気を失っていたけど、コバルトにおぶってもらって森の中にいる?
「ハ、ハンタ!気がついたか?」
「うん、コバルト。あ、あたしクロムにやられて気を失っていたんだけど、もしかして助けにきてくれたの?」
「ああ、ハンタ!気がついたか。無事でよかった。す、すまんが背負って歩くのは辛いんだ。お前、歩けるか?」
「・・・・ごめんコバルト、あたし歩くどころか立ち上がることもできなそう。体が動かないんだ」
とりあえず、コバルトはハンタを下ろし、一部始終を話した。クロムがハンタをさらおうとしていたから助けたこと。クロム達は戦うことなくそのまま退散したこと。その後にシグナルが現れて戦って倒したこと。倒すことはできたが全身に火傷と刺し傷を負ったこと。
「・・そう、コバルト・・そんなになってまで助けにきてくれたんだね。ありがとう。あたしのために」
「な、何言ってんだよ。俺たち仲間だろう?助けるの当たり前じゃないか。気にすんなって。きっと街までは体力もつからさ」
ハンタは、コバルトに背負われているだけで何もできない自分の無力さを思い知った。そして目からは涙が滲んでいた。ああ、コバルト、すごいダメージで全身痛そう。それなのにこんな無理してあたしを背負って歩いてくれてる。
「コバルト、あたしはいいからここに置いて行って。あたしよりあなたの方がきっと重症だよ。あたしを背負ったままじゃ辛いでしょ?きっと一人なら街まで戻れるよ」
「な、何言ってんだよ。こんなところでお前を置いて行ったら他の緑魔族に怒られちまうよ。大丈夫、大丈夫、もうずいぶん歩いたし、きっと街までそんな遠くないよ」
コバルトはハンタの忠告を無視してそのまま歩き続けた。幸いなことに、ハンタが目覚めてくれたので方角だけは間違っていなかった。しかし半分くらいの距離を歩いたところで、そろそろ限界が近づいていた。
(クソ、だめだ。もうこれ以上俺も体が言うことを聞きそうにない。ハンタと一緒にここで共倒れすんのか?俺は。ピュア・・・)
コバルトは命の危機を感じとった。どうにかヨロヨロと歩き続けたが、もう限界で自分一人で歩くことすら困難だった。そして死が脳裏をよぎった。ああ、俺はここで死ぬのかと。
(ピュア、最後に一目、君に会いたかった。ごめんな。もしかしたら俺はここまでかもしれない。けど、俺がいなくなってもどうかこの世界で生きて行って欲しい)
コバルトがピュアのことを考えてヨロヨロとしていると、とうとうがくんとそこに崩れ落ちた。もう限界はとっくに超えていた。そして歩くことはおろか、立ち上がることも出来なかった。
「ハンタ様!」
朦朧とする意識の中、誰かの声が聞こえてきた。コバルトはその声の先を見つめると、そこには緑色の髪をした少年の姿があった。コバルトはもはや視界がまともに定まらず、誰だか認識できなかった。ただハンタの名前を呼んだし、緑色をしていたからきっと味方だと思った。そして味方が見つけてくれたと安心すると、その場でそのまま気を失った。




