82話 黄色い尾を持つ少年
一方その頃こちらはハンタ。
コバルト達と別れたのち、颯爽と森の中を駆け抜ける。礼拝堂を目指してまっしぐらだ。
(アイビー、どうか無事であって欲しい。何ごともなく、終わりますように)
ハンタはこれから始まる戦いに対して重い重い不安を感じていた。黄魔族頭首というが、どれ程の実力者なのだろう?あのメイズを従えるくらいなのだから相当なものだろう。だが今はそれ以上にアイビーのことが気がかりでならなかった。
(もう、これ以上仲間を誰も失いたくない。あたしはどうなってもいいからアイビーは。アイビーだけは・・・)
ハンタはメイズとの戦いを避け、逃げ惑う中で他に失ってしまった緑魔族の仲間のことを思っていた。今度は逃げない。絶対に助けてみせる。
そしてとうとう街から森を抜けて礼拝堂にたどり着いた。礼拝堂、初めてきた場所だが、木々が生い茂っている森の中にポツンとそびえ立ち、白いレンガのようなもので建てられている古い建物だ。もう使われていない遺跡で植物のつたがかかってたり、苔が生えていたりした。
そしてその建物の裏からゴールドとレモンが姿を現した。レモンはアイビーをリボンで縛り上げ、その場に二人で佇んでいた。
「約束通り、一人で来たぞ!さあアイビーを解放してもらう!」
「ふむ。どうやら本当にお一人で来られたようですね。そうですね。約束は約束です。レモン、その子を解放してさしあげなさい」
ゴールドがそういうとレモンは縛り上げているリボンをほどき、アイビーを解放した。アイビーは泣きながらハンタに駆け寄る。ハンタはアイビーを抱き抱え優しく頭を撫でた。
「ハンタ様!ハンタ様ぁ〜!」
「アイビー、もう大丈夫だよ。怖い思いさせてごめんね」
「ハンタ様、僕の方こそごめんなさい、ハンタ様を一人でこんなところにこさせて」
「いいのよアイビー、怖かったでしょう?あとはあたしがどうにかするからあなたは街へ戻りなさい。一人で帰れる?」
「はい、帰れます。ハンタ様どうもありがとうございます」
ハンタは念のため魔力ポケットにあったポーションをアイビーに渡すとすぐにアイビーにそこから街へ向かうように指示した。アイビーはすぐさまその場を離れ街へ帰っていった。
「ふむ。こちらはそちらの条件を飲みました。では今度はハンタ様、あなたがこちらの要求を飲んでいただきましょうか。クロム様、おいでください!」
ゴールドがそう叫ぶとなにやら礼拝堂の屋根の上が一瞬ものすごく光った。ハンタがそこを見上げると屋根の上にものすごい禍々しい魔力とオーラを携えた一人の少年が立っていた。
その少年はバリバリに逆立った黄色い髪と目をしており、額には白い鉢巻のようなものを結び、強面の顔をしていた。半袖の黄色いシャツとハンタと同じような茶色いタンクトップと少し膨らんだようなオレンジ色のズボンを履いていた。そしてかなり体格が良く、二の腕からは黄色い虎の毛のようなものが生えていて、黄色と茶色のシマシマ模様の長い長い尾を生やし、両腕に金色の鉤爪をつけていた。
ハンタはその少年を見ると驚いた。な、なんだこの感覚!?これはコバルトと初めて会った時と同じような感覚。そして自分の持っている弓が共鳴している。見上げると、その少年の携えている鉤爪も同じように共鳴しているようだった。
「ククク、貴様が緑魔族頭首だな。良くぞここまで一人で来た。はじめまして。俺はクロム・イエロー・タイガー。黄魔族頭首だ」
「あぁ〜ん♡クロム様ぁ〜♡」
クロムが現れるとレモンがその姿を見て一人で悶えていた。レモンはどうやらこういうワイルドで不良っぽそうな男の子の方が好みのようで姿を見るだけで興奮していた。
クロムが屋根から飛び降りて地面に着地する。すごい身のこなしだ。あんな高い屋根から全く苦にすることもなく平然と着地している。まさに獣だ。
「はじめまして。あたしはハンター・グリーン・アルラウネ。緑魔族頭首だ。よろしくお願いしたします。以後お見知り置きを」
ハンタはクロムに怯えながらもペコっと挨拶をする。ハンタからすればクロムはものすごい実力の持ち主だった。それは魔力の大きさだけでなくプレッシャーからもひしひしと伝わってきた。何しろ自分が逃げ惑っていたあのメイズの上官である。それはつまりメイズ以上の実力者であるということを表しているからんだ。
「ククク、頭首自らたった一人でこちらまで出向いていただくとは。これはこれはお手数をおかけした。ああ、あとそこにいる二人には手出しはさせない。これは国と国の尊厳をかけた一騎討ちである。卑怯な真似はさせないから安心しろ」
「何が卑怯な真似はさせないだ!アイビーをさらったり、ピュアを洗脳しようとしたり!それでもそんなことが言えるのか!」
ハンタがクロムにムキになって叫ぶ。クロムはそれを聞くと少しばかりため息をついてこういった。
「ああ、そんな経緯があったようだな。すまなかったな俺の部下が無能で。もう少し丁寧に依頼すべきだったとは思ったが、しかし貴様がそれを呑んだとしても他の仲間が黙っておるまい」
「うるさい!大体アンタがトップならもっと部下に対する教え方ってもんが・・!」
ハンタがそう言いかけた時、クロムは痺れを切らしたのかものすごい勢いでハンタの方へ向かってきて鉤爪で切り裂いた。ハンタは突然攻撃されたので驚いたが間一髪で後ろに飛び、それをかわした。
「御託はいい。さっさと始めるぞ。我こそは黄魔族頭首、クロム!緑魔族頭首ハンター・グリーン・アルラウネよ!いざ尋常に勝負!」
クロムが戦闘態勢に入り構える。ハンタもこれはもはややるしかないと思い弓を構えた。そう、今回ばかりはもう逃げられない。国と国の命運をかけたトップ同士の一騎討ちだ。
(ミント、ごめん、あたしここで死ぬかもしれない。けど、今回は最後まで戦ってみるよ)
「あたしはハンタ!緑魔族頭首よ!クロム!あなたとの一騎打ち、受けて立つ!覚悟しろ!」
ハンタは弓を構え戦闘態勢に入った。クロムはその様子を見てニヤリと不適な笑みを浮かべた。ものすごく楽しそうだ。そしてハンタにとって初めての同等レベルかそれ以上の敵との本気の命をかけた戦いが始まろうとしていた。




