81話 緑の悪魔vs青い鳥〜エメラルド・グリーン・インキュバスvsコバルト・ブルー・ピジョン〜
「うおおおぉぉぉ!」
エメラルドが泣きながら再びコバルトに斬りかかる。コバルトは再び剣を受け止め振り抜く。そしてエメラルドはそこから数メールとも吹っ飛んだ。
「グッ!クソ、クソ!お、俺は負けるわけにはいかないんだ!風の魔力よ!我に力を!エメラルドダブルクローン!」
エメラルドがそう叫ぶと後ろからエメラルドとそっくりなクローンが二体出現した。分身の術を使えるようだ。
「分身の術を使うのか、これは驚いた」
コバルトが関心していると、エメラルドは三体でコバルトに向かって斬りかかった。コバルトは羽を使って宙に舞うと、宙から最初に向かってくる二体に向けて斬撃を放った。
「水乱斬り!」
コバルトが剣から放った斬撃で、クローンの二体は真っ二つに切り刻まれてそこから消失した。エメラルドのそのコバルトの攻撃に唖然としていた。
「闇雲に切りかかっても無駄だ。パワー、スピード、魔力指数の全てが違いすぎる。それが通用する相手に使うことだな」
「なんだと!偉そうに!俺の術を一度破っただけでもう勝ったつもりか!」
エメラルドは再び分身の術を使うと三者でコバルトに向かって構えた。コバルトはやれやれという顔をして仕方なしに再び剣を構えた。
「疾風乱舞」
コバルトがそう叫ぶと目にも止まらぬ早さで移動した。エメラルドはあまりのスピードに全くついていけなかった。
(な、なんだこの技は!?速い!速すぎる!)
コバルトの一瞬の攻撃にまたもやエメラルドの分身は斬られて消失した。コバルトは地上に降り立つと、エメラルドに向かって一瞬で移動し、柄の部分をエメラルドの溝落ちに突き立てた。
「ぐはあ!」
コバルトの目にも留まらぬ攻撃にエメラルドは吹っ飛んだ。こうして二人の戦いはコバルトの圧勝で終わった。
(コバルト、ハンタと戦った時よりもずっと速くそして強くなってる!な、なんて成長なの!?)
ピュアがその様子を見て驚いた。エメラルドは決して弱い魔族ではなかった。緑魔族の中ではスプルースに次ぐ三位の実力者だった。ただ相手が悪すぎだ。
「エメラルド、大丈夫か?手加減しておいたから少し休めば立てるだろう」
コバルトがエメラルドの元に行き手を差し伸べる。エメラルドはその手を弾いて涙を流しながら仰向けのままこう言った。
「同情なんていらないぞ!俺にとってお前は宿敵だ!もちろん俺はお前には敵わない。けど、けどハンタ様だけは俺が守るんだ!」
コバルトはそういうとまたやれやれという顔で見ていた。ピュアがエメラルドに駆け寄って慌てて回復魔法をかける。
「エメラルド!大丈夫!?あなたコバルト相手にいくらなんでも無茶よ!」
ピュアに回復魔法をかけられエメラルドは泣きながら蹲っている。ああ、負けた上にこうやって傷の手当てもしてもらうなんてこんなみっともないことはない。
「エメラルド、お前がハンタをどう思ってるのか理解できたが、悔しかったら俺より強くなって守れるようになることだな。あと言葉や態度にはこれから気を付けろ。ピュア、そいつがある程度動けるようになったらアイビーを迎えにピュアが一緒に来てくれ。もうこの街を襲ってくる黄魔族もいないだろうからピュアがここで守りをしなくても大丈夫だろう」
「コバルト・・・。そんな言い方って!」
「ん?なんだ?先に喧嘩をふっかけてきたのはそっちだぞ?俺はハンタが心配だからハンタの元へ向かうな。アイビーを受け取ったらどこかで落ち合おう」
コバルトはそういうと森の奥に颯爽といってしまった。そしてそこにはピュアと倒れているエメラルドが残されていた。
「エメラルド!今回の件は完全にあなたが悪いわ!あれじゃあコバルトが怒るのも無理ないわ!それでもこうやって手加減してくれたのは彼の優しさよ!いくら自分の力が不甲斐ないからって彼に八つ当たりすることないじゃない!」
「・・ああ、そうだな。すまなかった」
エメラルドが首を横にがくんと項垂れながら涙を流していた。そしてピュアはその様子を見てとてもいたたまれない気持ちになっていた。自分が誰よりも慕っている相手が他のものに夢中であり、そして自分がそれに敵わないのであればどれだけ辛いかが痛いほどわかるからだ。
(エメラルド、あなた、そこまでハンタのことを・・・、私、気持ちわかるなあ)
ピュアはコバルトが悪くない、悪いのは全部このエメラルドだと分かっていても彼に同情の気持ちが湧いて仕方なかった。そして回復魔法をかけ終わると、エメラルドはヨロヨロと立ち上がることができた。
「ピュア、こんな俺に回復魔法をかけてくれてありがとうございます。今回の件は全て俺が悪いです。御迷惑をおかけしました」
「いいのよ、気にしないで。それよりもあなたまだ戦える?私アイビーが心配でコバルトに言われた通りやっぱり迎えにいかなきゃって思ってるからあなたはこの街を守って欲しいの」
「はい、戦えます。あ、いえ、それなら俺が行きます」
「いや、やめておいた方がいいわ。今コバルトはあなたに嫌悪を抱いているから鉢合わせれば協力することは難しいとおもう。行くのは私に任せて」
「はい、すみません」
エメラルドががくんと項垂れると深く反省した様子をピュアに見せた。緑魔族の戦士である自分が宗主国の青魔族の頭首になんと失礼なことをしてしまったんだと。それにしてもあまりの強さに手も足も出なかった。
(あのお方、あそこまで強かったのだな。なるほど。あれではハンタ様ですら敵わないだろう)
エメラルドはがくんとうなだれたままそんなことを考えていた。そして初めて戦った上位魔族との圧倒的な実力差と、自分が誰よりも慕っている存在への届かない思いの不甲斐なさでその場で憔悴しきっていた。




