80話 緑玉の少年
「ハンタ、いっちまったな。どうか無事だといいんだが。あ、そうだ、エメラルド、緑魔族はあんな深い森の中で迷わないのか?ミントが言ってたけどどういうことなんだ?」
「・・・そんなの、緑魔族の直感に決まってるだろ。魔力感知ではなく、その国で生まれた魔族は結界の中では拠点や遺跡の位置はほとんど直感のようなもので把握できるんだ。お前も青い国では一度訪れた場所は忘れないだろう?」
エメラルドがかなり刺々しい言い方でコバルトに答える。コバルトはなぜこんな口の聞き方をするのか?なぜこんなに機嫌が悪いのかどうも理解に苦しんだが、それは聞かずにそのまま続けた。
「そうか、なら安心だ。ではアイビーはこの街に戻ってくるのに迷うことはなさそうだな。だけど一人でこの距離を歩かせるのも心配だから俺と一緒に行って三人で合流しよう。それから俺は礼拝堂に行って、ハンタの様子を見てくる。黄魔族も気になるしな。お前はアイビーと一緒に街に戻ってくれ。ピュアはその間街を守ってくれ。それが一番いいだろう」
「・・・うるさい」
「ん?なんか言ったか?」
「うるさい!貴様が俺に命令するな!」
エメラルドがすごい剣幕でコバルトに食ってかかる。コバルトはその様子を見てすごく驚いていた。一体どうしたというのだ?と。
「ん?エメラルド?どうした?なんでそんなに怒ってるんだよ?」
「黙れ!元々ハンタ様がこんな危険なことにさらされることになったのは貴様の責任ではないか!貴様があの時レモンにとどめを刺していればアイビーだってさらわれずに済んだ!それに貴様は青魔族の頭首とはいえどこの国の住人ではない!偉そうにこの国のことで俺に指図するな!」
エメラルドの敵意が剥き出しなその言動に冷静なコバルトも流石に腹が立った。なんだこいつは?俺が誰のためにここまで来たと思っているのだ?と。
「ちょっと!あなたいきなりなに言ってるのよ!アイビーがさらわれたのはコバルトのせいだっていうの?あなただってあそこにいたし、一番あの子の近くにいたじゃない!そんな言い草ないわ!」
「うるさい!お前だってあのフェニックスにとどめを刺さなかっただろう!だからこうなったんだ!ハンタ様はこの国で一番偉いんだぞ!そのハンタ様をこんな危険な目に合わせて恥ずかしくないのか!」
ピュアにまで食ってかかるエメラルド。その言動に流石のコバルトも腹が立ちその場でエメラルドの胸ぐらを掴み睨みつけた。
「おい、エメラルド、貴様いい加減にしろ。お前が緑の国の住人だかなんだか知らないがピュアにまで八つ当たりする気か。それならなぜ俺たちが戦う前にお前が一人であいつらを殲滅しなかった。仲間同士助け合うって精神がお前にはないのか」
コバルトに睨みつけられてもエメラルドが屈することなくその手を振り解いた。そして距離をとるとものすごい殺意をコバルトに向けて剣を抜き、威嚇した。
「ハンタ様は、ハンタ様は!俺が絶対に守るんだ!なにがあっても!お前なんかにハンタ様のなにがわかる!俺はお前よりも長くあの方の側にいてお慕い申し上げているのだぞ!」
エメラルドの目から涙がポロリと溢れた。ああ、ハンタ様。俺ではあなたを守れない。そしてこの青魔族の頭首にも敵わない。あなたはこの者をお慕いしているのですね。なぜ、なぜ俺ではないのですか?と。
「剣を抜いたということは、俺に決闘を申し込んだということでいいんだな?エメラルド」
コバルトが剣を抜き、エメラルドを睨み付ける。エメラルドはガタガタと震え、汗を出しながらもコバルトを睨みつけた。どうやら本気で戦いを受けるようだ。
「ちょっと!コバルト!味方同士でこんな争いをしてる場合じゃないわ!それにいくらなんでもあなた相手に彼が戦えるわけないじゃない!」
ピュアが慌てて仲裁に入る。コバルト、こんな年下で格下の相手に本気で戦うつもり?ネイビーと戦った時と同じ。手加減というものを知らない彼にとってこの戦いは危険すぎる。
「ピュア、相手がここまで本気で決闘の意を示しているんだ。剣士としてこれを受けないのは失礼に値する。俺は彼との戦いを受けるよ」
「ちょっと!コバルト!やめてよ!今はハンタが戦いに出ている状況なのよ?一人でも戦力が欠ければそれだけこちらに分がなくなるのよ!仲間同士助け合う時じゃない!」
「ああ、大丈夫だ。こいつは戦力には入らない」
コバルトが剣を抜いて構える。それに応戦してエメラルドは剣を構えながらガタガタと震えたままだった。
「ほざけ!!我こそはエメラルド・グリーン・インキュバス!貴様に正々堂々勝負を挑む!」
エメラルドが大声をあげながらコバルトに斬りかかる。コバルトはその攻撃を剣で受け止めた。ギン!という音と共にエメラルドは押し返され倒れ込んだ。
(クソ!クソ!こいつなんて力だ!お、俺が相手になるわけがない。けど、けど逃げるわけにはいかない!こいつを超えなくちゃ、ハンタ様には届かないんだ!)
エメラルドが涙を流しながら立ち上がって再び剣を構える。コバルトも本気でその姿勢に対して剣を構える。こうして味方同士ではあったが、コバルトvsエメラルドの戦いの火蓋が切って落とされた。




