8話 青い猫の憤怒
「コバルト!」
ピュアが客席から中に入って、一目散にコバルトの元へと駆けて行った。ピュアはコバルトを抱き抱え、必死で問いかけた。
「コバルト!コバルト!大丈夫!?ごめん、ごめんね、あたしのために」
ピュアは涙を流し、コバルトを抱き抱えた。コバルトは朦朧とする意識の中で、うっすらと返答をした。
「ピュア、すまん、勝てなかった」
「んーん、いいのいいの、コバルトカッコ良かったよ。これだけ戦えればすごいよ!」
ピュアがコバルトを励ましていると、後ろでネイビーがヘラヘラとしながらこう言った。
「へっ、いきってたわりにはこの程度かコバルト、おい、ピュア、これに懲りたら俺にもう二度と偉そうな口を聞くなよ。やはりこいつがこの国の頭首など不可能なのだ。鳥族の長はこの俺だぞ。今日から二人とも俺に偉そうな口を聞くなよ」
(それにしちゃ、やっと勝ったって感じだったけどな。)
大衆の心の声が共鳴した。よくあの勝ち方であんな偉そうな口が聞けるなと。
ネイビーの偉そうな口調に、今にも飛びかかりそうなピュアだったが、ライトがピュアを抑え、こう言った。
「ネイビー、たしかに今回の件はお前とコバルトの間で同意の上、行われた戦いだ。そしてお前はたしかに勝った。それは事実だ。ただ、ピュアは俺の護衛対象であり、要人だ。そしてコバルトはこの国の頭首となられるお方であり、俺の客人であり、友人だ。その二人を侮辱したと言う行為、俺は貴様を許すことはできんな。今度は俺がお前に戦いを挑むがそれでも構わないか?」
ライトの目がギラリと光る。帽子をとると、耳を逆立て、口を開きシャーと唸る。どうやら本気でネイビーを威嚇しているようだ。その姿にネイビーは恐怖を覚え、ガタガタと震え出した。
「今貴様が手をついて、二人に謝罪するのであれば、俺は戦いを挑まない。当然、敬語で頭を地面に擦り付け、礼儀正しく謝罪しなければ、その時点で問答無用でこれから俺とお前の試合を行う。おい、皆の衆、それで異論はないな!」
ライトが大衆に大声でそう叫んだ。大衆も同意のようで、わーっと盛り上がった。
ネイビーはガタガタと震え出したまま、その場で言われた通り、地面に手をつき、床に頭を擦り付けて二人に謝罪した。
「コ、コバルト様、ピュア様、わ、私の今までの無礼をどうかお許しください。わ、私はこれから貴方達に対する言葉や態度を改めます。どうかお願いいたします」
ネイビーが震えたまま謝罪すると、ピュアは今まで怒りに震えていた態度をふっと緩めて優しい表情になった。ああ、ライト、ありがとう。おかげでスッキリしたわ。
コバルトもその言葉を聞いて、ライトに救われたのかと思い、安心してしまった。そしてガクッと項垂れるとそこで気を失った。
どれくらい気を失っていただろうか?気がつくと、そこは自分が最初にこの世界に来た時と同じライトの家のベッドで寝ていた。もうそろそろ夕方に近い。窓が空いていて沢かやな風が部屋に流れていた。
コバルトは立ち上がろうとすると、ズキンと体を痛みが走った。イタタタ。全身あちこちが痛い。そして包帯や湿布などの手当てがしてあった。
ガチャっと扉が開くと、ピュアとライトが中に入ってきた。
「コバルト!目が覚めた?大丈夫?」
ピュアが一目散にコバルトに駆け寄って手を握った。ああ、ピュアの手、暖かい。コバルトは少し嬉しそうにそうおもった。
「ピュア、ごめん、俺、ピュアがああやって俺のこと庇ってくれたのに、あいつに勝てなかった」
「んーん、いいのいいのコバルト。あたし、コバルトがああやって戦ってくれただけで嬉しかったよ。私こそごめん、私なんかのために。こんな怪我までさせちゃって」
「コバルト、すまなかったな。俺の部下がああも無礼で。鳥族のトップだから、自分より同じ鳥族で評価されているお前が勘に触ったのだ。同じ青魔族で仲間同士なんだが、なかなかうまくいかないこともあるのだよ」
ライトはコバルトと目を合わさず、どこか遠くを見ながらそう言った。そしてどこか寂しげで悲しそうな表情を浮かべていた。
「ああ、いや、ライト、俺こそでしゃばってごめんな。あと最後ああやって言ってくれてありがとう。おかげで負けたけどスッキリしたよ。これからさ、俺、強くなって、またあいつと再戦するよ。今度は負けないよう頑張るからさ」
コバルトはこの世界にきて初めて戦ったが、自分の力を知ることができ、そして模擬戦ではあったが、魔族の戦闘も知ることができた。そしてコバルトは、今度こそ、あのネイビーに自分が勝てるように強くなることを決意するのだった。