76話 黄絹幼婦
「ハンタ様!ご無事ですか!?」
ヴィフレアの街にライトと向かったエメラルドが再び戻ってきた。
「ああ、エメラルド!無事だったか!よかった!こっちはもうほとんど片付いたよ!あっちはどうだった?ミントやライトは大丈夫?」
「はい、ハンタ様。あちらはもう問題ありません!」
エメラルドは向こうで起こった一部始終をみんなに話した。スプルースが一人で防戦していたがそこをミントが救ったこと、アプリコットが現れたが、ミントとライトでどうにか退けたこと。ミントもスプルースももう戦える状態ではなくなったので、向こうにはライトが残ることを決めたことなどだった。
「そうか!向こうも無事だったか!それはよかった!こちらももうじき方が付くよ。エメラルド、報告ありがとう」
ハンタに笑顔でお礼を言われるとエメラルドはドキッとして照れてしまった。ああ、ハンタ様。やはりお美しい。こんなお美しい方に尽くせて私は幸せです。と言いたくなっていると横からアイビーが口出ししてきた。
「エメラルド、何照れてるんだよ。ははは、お前ハンタ様にこんな感謝されたの初めてだから嬉しいんだろ」
アイビーのからかいの口調にエメラルドは顔を赤くして怒った。子供のくせになんだこいつはと。
「アイビー、おまえまだこんなところにいたのか?早く街まで戻れよ。ここは戦場なんだ」
「ああ、そうだね、向こうも方がついたんならもう安心だな。エメラルド、アイビーを連れて街まで引き上げてよ。こっちももう終わるからさ」
ハンタがエメラルドに指示をだす。レモンもゴールドも降伏した今、もう戦いは終わったようなものだ。それにこちらをひきつけているうちに向こうを落とそうとした策略も失敗に終わったようだしと。
(な、なんだと!?アプリコット様もあちらを落とすのが失敗したというのか?あのハリネズミはそれほどの実力だったのか!?)
ゴールドがそう考えているとレモンもふっと肩の力を抜いたような表情になりゴールドにこう言った。
「どうやらあたし達の完敗のようだね。これ以上たたかってももう勝ち目はない。さて、ここまで来て名残おしいけど退散させていただくことにしよう」
「ああ、そうだな、レモン。我々の手の内はみせた。これで終わりだ」
二人が戦う様子がないことを見て、皆は安心した。どうやらこれで全て終わったようだ。コバルトとハンタは武器を収めた。コバルトはゴールドの策略がピュアを引き抜こうとしたことだとわかり、手の内を明かしたことが失敗に終わり、安心をしていた。
すると次の瞬間、レモンが前に出てきて近づいてきたな、なんだ?またなんか話があるのか?一応敵同士なためにハンタもコバルトも警戒を解かなかった。
「今回はあたし達の負けだよ。そういえば緑魔族の頭首?ハンタって言ったっけ?いやはやごめんねほんと」
「え?ごめんて何が?」
「うーん。せっかくさ、お友達になれそうだったのにひどいことしてごめんて」
「あー、いいよいいよ、仕方ないね。ここは戦場だし。まああなた達も上からの命令だしね。けど、こうやって手を引いてくれるならもう何もしないからさ」
「うん、あなた優しいのね、いい子だね。きっとコバルトのいい彼女になれるよ。ほんとにごめんね」
レモンの表情が緩やかな表情から不気味にニヤリと笑った。その表情にコバルトは危険を感じ取った。まずい!降伏をしたふりをして何か企んでいる!まさか不意打ちをしてくるつもりか!
コバルトが慌てて剣を引き抜き構えるともはや時すでに遅かった。レモンに気を取られていた三人は後ろにいたはずのゴールドが一瞬で移動していたことに気づかなかったのだ。
「わああああ!エ、エメラルド!ハンタ様!」
気がつくとゴールドはコバルトたちの後ろに周り、エメラルドの隣にいたアイビーを攫っていた。ほんの一瞬の間だった。そしてレモンと元の場所に戻ると、レモンがリボンを出し、アイビーを縛り上げた。
「アイビー!」
ハンタが慌てて弓を構え、レモンに狙いを定める。クソ!油断した!まさか戦士でない子供のアイビーを攫うとは!
「動くな!動けばこの樹人族の子供の命はないぞ!大人しく武器をしまえ!」
レモンが悪魔のような形相と声を上げ命令する。アイビーはレモンに縛り上げられ、あまりの恐怖に目から涙を流していた。
コバルトはその一瞬の出来事に呆然としていた。クソ!こいつら戦えない子供を人質にするとはなんと卑怯な!まさかこんなことを企んでいたとは!
「フフフ、戦いというのは一手二手先を読んで戦うものですよ。今ある手がないなら次の手を考える。我々はきちんと用意周到なのです」
ゴールドとレモンのピッタリとあった息に三人は全く対応できなかった。こうして戦いには勝ったものの、三人はほんの一瞬の隙をつかれ、アイビーを人質にとられてしまった。そしてこれこそが今回の黄魔族の本当の狙いだということにこのときコバルトはまだ気づいていなかった。




