70話 緑の武士道
ライトの怒り狂って迫ってくる形相を見てアプリコットは悟った。ああ、もはやこれまでか。ミントとの激闘の末に手負いの傷を負った状態で相手がこのライトではなす術はない。
アプリコットは刀を鞘に納め深く深呼吸をした。ああ、緑の国の爽やかな風が吹いている。素晴らしい空気だ。死ぬ前にこんな素晴らしい世界を感じれたことにただただ感謝しかなかった。
(クロム様、申し訳ありません。俺はここまでのようです。最後までお仕え出来ず遺憾です。御武運をお祈り申し上げます)
アプリコットが肩の力を抜き、ふっと感傷に浸った。
ザワザワザワザワ。
あたりに強い風が吹き、木々が揺れ、木の葉が舞った。アプリコットは目を閉じて風を感じた。風情なものだ。
ライトが怒り狂って斬りかかりそうになった時、スプルースに抱えられて、もう立ち上がることすらできないミントが這いつくばりながら二匹の方へ向かって言い放った。
「ライト!待って!」
後ろからミントの声が響いた。ライトはくるりと振りかえるとそこにはもはや歩くこともできないミントが這いつくばりながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「ミ、ミント!お前・・・?」
ライトが唖然とした表情でその様子を見ていると、アプリコットは目を開き、その様子を確認した。ああ、ミント、もう立ち上がることすらできないのに、どうしたのだ一体?
「ライト!彼はあたしとの戦いで手負いの状態で戦うことはおろか、立ち上がるのもやっとのはずよ!そんな相手に同じ剣士であるあなたが戦いを挑むなんて卑怯だわ!やめて!」
「ミント、だけど、お前、その傷・・・!」
「アプリコットはあたしと正々堂々一騎討ちで戦ったわ!そして彼はあたしとの戦いでこれ以上戦えないからここで手を引くって約束してあたしの命を奪わなかった!敵とはいえ敬意を払うべき相手よ!ライト、お願い!」
ミントは必死になってライトに懇願する。自分の命を救ってくれたアプリコットをどうにかして守ろうと思ったのだ。しかしライトはそれを聞く様子はなかった。
「ミント、ここは戦場なんだよ。生きるか死ぬかの生死をかけた戦いなんだ。それにこの黄魔族たちはキュルマの街を襲撃しつつ、隙を伺ってこちらも落とすつもりだったんだ!俺やお前が来なかったら何人もの魔族が犠牲になってたかも知れないんだぞ!こいつをここで今仕留めておかないと、今後の被害もきっと増える!俺が今ここで止めを刺す!」
ライトがそう言ってアプリコットに再び近寄ろうとした瞬間、ミントが倒れながら腰に持っている刀を抜いて自分の首に構えてこう言った。
「ライト!今あなたが彼に止めを刺すと言うなら、あたしはここで自分の首を切って死ぬ!」
ミントの突然の行いにライトもそうだが、アプリコットもスプルースも大いに驚いた。ミント、いったいどうしたのだと?
「ライト!敵とはいえ剣士たるもの、相手に正々堂々全力を尽くした相手にこんな形で決着をつけようというなら、もうあたしはあなたにはついていけない!そしてアプリコットは剣士としての礼儀を最後まで全うした立派な魔族よ!あたしは勝負では引き分けたかも知れないけど生死の戦いには彼に負けた!けど今のあたしの命があるのは彼の剣士としての誇りによるものよ!それならばあたしはもう命はいらない!潔くここで死ぬわ!」
「ミント・・・」
ライトがミントの様子を見てステッキを腰にしまうと彼女の近くまで駆け寄った。そして抱き抱えると、ミントの刀を取り上げて、鞘にしまった。
「わかった、ミント。すまん、俺は剣士としての誇りを失うところだった。お前が気付かせてくれた。ありがとう」
「ライト・・・」
ミントは涙を流してライトを見ていた。スプルースが飛んできて、ミントを抱えるとライトはゆっくりとアプリコットの方へ歩いて行った。
(ミ、ミント。お、俺の命を救ってくれたのか?)
アプリコットが驚いていると、ライトはアプリコットの前に行って、魔力ポケットからポーションを取り出して、それを渡した。
「これは特別なポーションだ。お前が黄色い国に戻るまでの体力くらいは回復してくれるだろう。アプリコット、ミントに免じて今は手を引こう。しかしいずれ決着はつけるぞ」
「ああ、お前とはいつか戦わなければならないと思っていた。50年前は一度だけ剣を交えたことがあったが、最後まで決着をつけられなかったな。ライト、黄色い国へこい!そこで決着をつけよう」
「ああ、望むところだアプリコット、勝負は預けよう」
アプリコットはライトから受け取ったポーションを飲むと体力が回復し、退散して行った。ミントはその様子を見てほっとした。よかった。ライト、ちゃんとあたしの気持ち汲んでくれた。そしてアプリコットの命も守れた。ミントはまたいつか会えるといいなとおもっていた。
そしてアプリコットは帰路に着くと、ずっとミントのことばかり考えていた。命拾いした。ミント、あそこまで体を張って俺を救ってくれた。いつか、いつかまた会って二人だけで話がしたいとアプリコットはそんな事を考えていた。




