7話 青い鳥貴族
コバルトが先手を入れたことによって場は大いに盛り上がった。番狂わせだ。まさか昨日今日来たばかりの者が鳥族の長に一撃を入れるとは。
ネイビーはよろよろと立ち上がると、突然叫んだ。
「おい、ライト!あんなのありか!卑怯だぞ!」
審判であるライトは、ネイビーの啖呵に首を傾げた。こいつは何を言っているのだろうと。
「ネイビー、模擬戦のルールは『渡された武器以外は使ってはならない』というのがルールであり、何も武器で攻撃しなくてはならないとは言っていない。よって別に今のは反則にはならない」
ライトは冷静にそう答えると、ネイビーは痺れを切らし、コバルトに一直線に向かっていった。逆上し、先ほどまでコバルトがやっていた戦い方。何も考えずにただ突っ込んでいった。
ネイビーがコバルトに斬りかかる。コバルトはその剣を同じ剣で受け止める。ギン!と剣と剣が弾く音が響き、両者対峙する。
(な、何だコイツ、なんて力だ。本当に鳥族なのか?)
ネイビーはコバルトの腕の力に押し返される。その後斬り合いを続けたが、コバルトの圧倒的なパワーにネイビーは防戦一方となった。
「ネイビーが明らかに押されてる!?勝負はすぐにつくと思ったけど、コバルト、まさかあそこまで強いとはね」
「ああ、あれは明らかに鳥族のパワーではないな。そしてあの冷静な戦術も同様。なるほど、陛下が通りでお目をかけられたわけだ」
セレストとシアンの会話を聞いて、ピュアは高揚した。コバルト、すごい!強いじゃん!頑張れ頑張れ!ネイビーなんてやっつけちゃえ!と。
しばらく打ち合いを続けていたが、とうとう、ネイビーがコバルトに力負けをし、倒れ込んだ。ネイビーは後ろに下がると悔しそうに立ち上がり、コバルトを睨みつけこう言った。
「き、貴様一体何者だ!?なぜろくに戦闘訓練も受けたわけでないのにここまで戦えるのだ!?」
「知らないな。俺もここまで戦えるとは思ってはいなかった。思ったより、体は動くものだな」
コバルトは、背中の羽が意外と邪魔にならないで戦えることに気づいた。ああ、意外と体は動くものだ。人間だった時の記憶はないが、前よりかなり動くような気がした。これも魔族になった恩恵だろうか?
「クソ、クソ、なぜだ!?なぜこの俺が!俺はただの鳥族ではない、鳥族の長だぞ!俺は鳥貴族なのだぞ!」
「鳥貴族?焼き鳥屋か?」
コバルトの意味不明な言葉にライトとネイビーは唖然とした。焼き鳥屋?何を言っているのだ?そしてコバルトも自分で言っておきながらそう思った。なんか焼き鳥屋のような感じがあったのだが、なぜだろう?
そしてネイビーは、コバルトのその言葉が侮辱しているものだと勘違いをし、とうとう本気で怒った。
「焼き鳥屋だと!?この俺にそんなことを言うとはいい度胸だ!貴様!どうやら俺を本気にさせたようだな」
「いやそうじゃなくて、299円で全部食べれたような。あれ?」
また、コバルトは自分で変なことを言っているなとおもった。しかしさっきから何を言っているのか?
「疾風乱舞」
ネイビーがそう言うと、突然、背中の羽を使い、空中に飛び上がった。そして言葉の通り、疾風のように宙を駆け、柱や地面を踏み台にして空中を動き回った。
「おい、ネイビーがあれをやったぞ!」
場内がざわついた。あの技はネイビーが本気を出したときにしか出さない技だ。そう、本当に疾風の如く宙を駆け巡る疾風乱舞に。
「ネイビーのやつ、あれを出したぞ、よっぽど追い詰められていたんだな」
「ほんとねえ、相手にならず、すぐに決着がつくかとおもったけど、まさかここまで番狂わせが生じるとはね。コバルト、大丈夫かしら?」
シアンとセレストの会話をよそに、ピュアの脳裏には不安がよぎった。コバルト、あんなすごい技受けて大丈夫?
ネイビーの疾風のような素早い動きに、コバルトは全くついていけなかった。速すぎる。なんだこれは!?
そして次の瞬間、コバルトの右腕に剣が当たり、コバルトは剣を落とした。もちろん、本当に斬れる剣ではなく、模擬戦のための模造刀だが、とうとうコバルトは一撃を食らった。
「クソ、ダメだ、速い、速すぎる」
コバルトは、動きに反応することも目で追うこともできず防戦一方だった。そしてどんどんダメージは蓄積されていき、最後にとうとうネイビーがコバルトの懐に剣を突き立て、コバルトは吹き飛び、倒れ込んだ。
「ぐはあ!」
コバルトが倒れ込むと、ネイビーはその動きを終わらせた。かなり体力を消耗したようで、ハアハアと息を切らしていた。
「コバルト!」
ピュアが我を忘れたように叫ぶと、ライトは慌ててコバルトの様子を見に行った。そして意識はあるが、どうやら立ち上がることができないようで、この戦いは終わった。
「コバルト、戦闘不能によりネイビーの勝利!」
こうしてコバルトの初陣は、一矢報いたものの敗北で終わったのだった。