51話 緑から青からの白
「皆の衆、本日は私のためにわざわざ集まっていただいて感謝する!そして緑の国の民よ、今ここにおられるこの方が、我が緑の国の宗主国、青い国の王、コバルト様である!」
ハンタがそう称えると、そこにいる魔族はわーっと声をあげた。と言いたいところだが、まったくそんなそぶりはなかった。ただシーンとしていてみなハンタの話を真摯に聞いていた。
なんというか、数も少ないし、反応もまったくない。宮殿も青い国に比べたら小さいし、広場も前の時の半分もない。
コバルトは不思議な感覚に包まれていた。青い国の就任式のときはもっと派手に行ったものだが、緑の国はその3分の1も魔族がいなかった。戦った時も同じだ。やはり国土が広く、拠点もたくさん持っているため、一度に大衆を集めるのが難しいのだろう。
「そしてみなも存じ上げているとは思うが、私は昨日の決戦において、こちらのコバルト様に敗れた。よって今この時から正式にすべての緑魔族は青魔族に従うことを義務付ける!ここに緑の国は青い国の従属国となる!異論はないな!」
ハンタがそう叫ぶと大衆はわーっと叫ぶこともせずに、ただ拍手をした。そしてその拍手がとても静かな拍手で盛り上がりにかけた。なんというかしっとりとした布告だなとコバルトは思った。
(それにしてもラピスラズリと同じでハンタはこういうのは得意なんだな。なんというかガサツなところはあるけど人を引っ張っていく力は凄いかも)
コバルトはハンタの演説力に関心を示した。やっぱり国を統治するような存在は、こうやって堂々としているものだなと。
そしてそこで布告は終わり、大衆は解散した。なんというか随分とあっさりした感じだった。この国ではこれが普通なのだろうか?
「それにしてもスプルース、久しぶりだな。元気だったか?結界を張り続けるのも楽じゃないだろう?」
「ライト、お久しぶりです。50年ぶりですね。またお会いできてとても嬉しく思います。そういえばそちらにおられるコバルト様と御一緒におられる白いお方は?」
「はい、はじめまして。私、白魔族のピュアと申します。青魔族にお世話になっているものです。よろしくお願いします」
「し、白魔族様でしたか。これはこれは初めてお目にかからせていただきました。ようこそ緑の国へ。どうぞごゆっくりしていってくださいませ。それでは陛下、私はすべきことがありますのでこれにて失礼します」
「ああ、スプルース、わざわざみなをここに集めておいてくれて悪かったな。またよろしく」
ハンタがそういうとスプルースは王宮の中へと戻っていった。その後一同はまた村に戻り、ハンタが別件で話があるというのでエバーの家に集まった。
「わりと結構しずかな布告だったな。なんというかこの国はみんなおとなしい感じだよな。それにしてもハンタ、結構演説うまいじゃん、俺驚いちゃったよ。それで話って何?」
「んー、あのさ、まあ今更というか会った時から聞きたかったんだけどさ、ピュアとコバルトって付き合ってんの?」
ハンタの突然の質問に、ピュアが飲みかけの木苺のジュースを吹き出してしまった。ゲホゲホ。すごい勢いでむせてしまい、慌ててミントがタオルを持ってくる。そしてコバルトも顔が真っ赤になっていた。
「だ、大丈夫?ピュア?」
「ご、ごめん、ちょっとむせちゃって、というかハンタ!何よ、いきなり!」
タオルでジュースのこぼしたあとを拭くと、コバルトと同じくピュアも顔が真っ赤になった。まさかいきなりこんな質問をされるとは夢にも思っていなかった。
「えーだって二人、初めて見た時から仲よさそうだし、彼氏彼女なのかと思って」
「あ、あのな、ハンタ。俺は青魔族の剣士でピュアは白魔族で」
コバルトが顔を赤くしながら、なんとなくそういって説明する。ただそれ以上言葉が出てこなかった。
「うん、それで?」
ハンタは動じぬ精神で話の続きを待つ。コバルトはそれ以上何も言葉が出てこなかった。否定するのもなんとなく気がひけるものだ。
ライトが冷や汗を流しながら三人の様子を見ていた。ミントはどうなっちゃうのー?と顔を赤くしながら輝かしい目で見ていた。ピュアは顔を真っ赤にしながらもコバルトの言葉を待っていた。コバルトは何も言葉が出ずそのままだった。ハンタは平然として回答を待っていた。
「あー、答えられないってことはとりあえずそうじゃないってことなんだね。よかった!じゃあさ、コバルト、あんたあたしの彼氏になってよ!」
ハンタのどっ直球告白に、そこにいたみんなは凍りついた。コバルトは顔を真っ赤にしてうろたえていて、ミントは両手を口に当てて目を輝かせ、ライトは恐る恐るピュアを見ていた。そして次の瞬間にピュアが両手をテーブルの叩きつけてこう言った。
「ハンタ!いきなり何言ってるのよ!か、彼氏って!コバルトは青魔族の頭首であなたは緑魔族の頭首なんだから!そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
「んー?なんでピュアが口挟むのさ?これはあたしとコバルトの問題なんだからあんたには関係ないじゃん。あんた仲間だけど彼女ってわけじゃなさそうだし」
アイスの時と比較にならないくらい取り乱すピュアの言動に、まったく動じることなくハンタは正論で返していく。ああー、これはまずい。女の嫉妬は鬼より怖い。ライトは飛び火がかからないようにとにかく何も干渉しないことにした。
「とにかくハンタ!そんなことコバルトが承知するわけないでしょ!?いきなりそんなこと言ったって無理よ!」
ピュアがそういうと、ハンタはコバルトに近寄り、ガバッと抱きついて、首辺りに顔を埋めて上目遣いを使い、猫みたいに甘え出した。
「えー、だってぇ、あたしこの世界来てから全然いい男いなくて寂しかったしー、彼氏作るならあたしより強い男がいいしー、それにあたし面食いでかっこいい男じゃないとやだしー、コバルトしかいないんだもん。こんないい男」
ハンタに迫られてタジタジなコバルト。おちょぼ口で甘えるように抱きつかれ、顔を埋めて近づけられ、人差し指で鎖骨のあたりをクリクリしてくる。コバルトは顔が真っ赤になり額から汗が止まらず何も抵抗できなかった。
「ハンタ!もうやめなさいよ!コバルトが嫌がってるでしょ!」
ピュアが二人の間に駆け寄って引き剥がす。そしてなぜかピュアはハンタを引き剥がすのではなく、コバルトをハンタから引き剥がした。まるでコバルトは自分の所有物であるかと言わんばかりに。
「あー、あたしのコバルトに何すんのよ!」
「だ、誰があんたのコバルトよ!」
「じゃあコバルトはピュアのものなの?そうなのコバルト!?」
二人の女によるコバルト争奪戦が始まって以来、コバルトは何も出来ずにただ顔を真っ赤にして意気消沈しかできなかった。ああ、もう何が何やら。
「まあまあ、ハンタ、ピュア、ちょっとその辺にしといたら。これ以上話し合っても埒が明かないし」
ミントが慌てて仲裁に入る。とりあえず落ち着け。このままじゃ居ても立っても居られないだろう。
そんなこと言ったら黙ってろと、もっと飛び火が来るんじゃないかとライトは冷や冷やしていたが、意外にも素直に従った二人。そうね、ちょっと熱くなりすぎたかもと。
「そういえば裏に温泉があったじゃん?とりあえず頭冷やすためにみんなであそこ行きましょ。この街の名産物でもあるのよ」
とりあえずこの場をどうにか収めようと、ミントが温泉を提案する。まあこの場を収めるのはこうやって違う話題を出すしかないだろう。
「あー、いいねいいね、そうそう!みんな来たわけだし、早速みんなで裸の付き合いをしよう!そしてもちろんコバルトはあたしと二人だけで一緒に入ろうね♡」
ハンタが横目で可愛らしくコバルトにウィンクしながらそう言った。コバルトはもう恥ずかしすぎて何も言葉がなかった。ミントとライトはため息をついた。そしてピュアは、今まで見たことのないような怒りの表情を見せ、拳と突き上げこう叫んだ。
「そんなことはたとえ神が許してもこの私が許さーん!!!」
ピュアのあまりの怒りにどうなるかと思いきや、ハンタはヘラヘラ笑いながらこう返した。
「へっへー、ピュア、じゃああたしとコバルトをかけて勝負する?元々あたしあんたと戦ってみたかったんだよね。魔力も高そうだし、骨ありそうだし」
「望むところよハンタ!じゃあ今から早速やるわよ!ライト、ミント、いいでしょ!?」
エバーはなんだが話が長くなっていたので眠りについていた。そしてライトとミントは、ため息をつきながらやれやれという形で二人の決闘を受諾した。コバルトは何がなんだか分からずずっと顔を赤くして佇んでいた。こうしてよく分からないが、コバルトを巡って、ピュアvsハンタの戦いが始まろうとしていた。




