46話 緑の猛攻
(とにかく間合いだ、相手が弓でこちらが剣であるなら間合いに入れば)
コバルトはそう考え、氷の壁から上に飛び出して宙に舞った。
ハンタは氷から出てきたコバルトに狙いをさだめると矢を放った。コバルトは一瞬で移動してハンタのすぐ真後ろの地面に降り立ち、しゃがんだ。
(よし!間合いに入った!これなら!)
コバルトがそう思ったその瞬間、後ろをとられたはずのハンタが後ろを目で見ることもせず強力な回し蹴りをコバルトの顔にお見舞いしてきた。
「そこぉ!!」
ハンタの回し蹴りがコバルトの顔面に入る!コバルトはとっさに剣の柄の部分で防ぐが威力が凄まじく、受け身を取ったまま数メールも吹っ飛んだ。
「くそ!」
受け身をとってどうにか立ち上がるコバルト。間合いにさえ入れば弓を使えずこっちのものだと思ったが、至近距離であの動き、そして女の蹴りの威力じゃない。
「ふっふん、間合いにさえ入ればどうにかなると思った?残念だね、あたしは格闘にも精通しててね、武器がなくても普通に戦えるのよ。距離をとってるときは弓矢で攻撃して、間合いに入られれば打撃で応戦すればいいのよ。それともあたしのパンツ見たかったのかな?残念、スカート履いてれば覗けたかもね」
コバルトは剣を構えながらこれは厄介な相手だと思った。近づくことができても反応スピードも早すぎる。いったいどうしたら。
「ま、こんなもんかな、ライト、思ったより早く勝負つきそうだったね。どっちが強いかこれで一目瞭然だね。コバルト、本当にあれでメイズを倒したの?」
ミントがライトにえへんとドヤ顔でそう話す。ライトはミントの言葉に耳も傾けずじーっとコバルトを見つめていた。
「あ、あの、ライト、コバルトどうしちゃったのかな?」
「ああ、ピュア、多分遠慮してる。全力で戦えてない。ハンタははじめから本気で戦えてるけどコバルトはどうにかハンタを傷つけないように考えながら戦ってるんだ。そりゃ防戦一方になるわけだ」
ライトはコバルトの異変に気づく。本来なら実力はコバルトの方が上。ただ、相手の力がわからないうちは距離をとって戦う定石を守っていたが、ハンタの初めっから手の内を全て曝け出すスタイルにコバルトはまんまとやられてしまったのだ。
「全力で戦えてない?負け惜しみはやめてよね、ライト。これが実力の差なんだよ。だって理由はどうであれハンタが押してるんじゃん。能力の相性、地形や場所、その日の体調なんかによっても勝負は左右されるもんだよ。つまりは強いものが勝つのではなく、勝ったものが強いんだよ。それくらいわかってるはずだよ」
ミントがライトに正論を突きつける。そうなのだ。ここは戦場。勝つか負けるかが全てで調子が出ないなどの言い訳は通用しない。
「ああ、その通りだなミント、コバルトは実はものすごく弱いのだよ。俺も知っている。あいつは一人じゃ何もできなんだ。メイズのときだって、俺やピュアがいなければきっと負けていたと思う」
「ふーん、じゃあなんでそんな彼の肩を持つのかな?弱いって認めてるなら勝ち目はないじゃん。ハンタは強いよ。戦闘向きの性格してるからね。魔力や身体能力だけじゃなくて、精神力だって立派なステータスの一つだよ」
ミントがそういうと、ライトは立ち上がってコバルトにこう叫んだ。
「コバルト!相手が女だと思って手を抜くな!これは国と国の命運をかけた戦いだ!お前が負ければ青い国は緑の国の協力を得れない!これを模擬戦のような戦いだと思うな!全力で戦え!」
ライトが客席から激を飛ばす。どうにかしてコバルトをメイズと戦ったときのように全力にさせなければ、下手をすれば負けるかもしれない。
コバルトはそう言われると、自分でも知らず知らずのうちに手を抜いていることを悟った。ああそうだ、相手は女の子だし味方だ。だから傷つけてはいけない。そんな思いが心のどこかにあったのかもしれない。
「何!?女だと思って手を抜いてる?コバルト?あんたそうなの!?いったいどうゆうつもり!?」
ハンタが半キレしたようにコバルトに問い詰める。コバルトはハンタのその怒りに満ちた表情に焦りを隠せなかった。
「いや、そういうわけでは」
コバルトが必死に弁解しようとした瞬間、ハンタの口からそれをはるかに早廻る汚い言葉が飛び交った。
「そうだよねー、手を抜いてるわけないよねー。それがさ、あんたの実力なんだよ。相手が誰であろうと、状況がどうであろうと、今あんたはあたしに手も足も出ない。これが現実。仲間だとか女だとかそんな言い訳して戦い抜いていけるほど、甘くないんだよ。あんたそれで本当にメイズを倒したの?なんかあたし肩すかし食らっちゃったね」
ハンタがそう言って弓をしまう。そして呆れた様子でエバーにこう言った。
「ね、エバー、もういいじゃん。こんな戦い意味ないって。実力はあるんだろうけど、実際に戦うと弱い例もあるしね。あたし、こんな弱い頭首に従うのやだよ。もうこれで終わりにしよ。コバルトの不戦勝ってことで」
「ちょっと待ってよ!」
客席からピュアが叫ぶ。
「ハンタ、あんたコバルトのこと何も知らないくせに偉そうなこと言わないで!コバルトはこの世界に来て、色んなことを経験しながらも必死に戦ってるのよ!コバルトがないくちゃ今の私たちはないんだから!コバルトはあんたなんかよりずーっと強いんだから!」
ピュアの激を聞くとハンタは思わず笑みが溢れた。ふーんあっちの方が骨がありそうじゃん、あっちと戦ってみたいなと。
「ピュア・・・」
コバルトはピュアの激を聞いて目が覚めた。ああ、そうだ、これはただの戦いではない。頭首同士の国と国の威厳をかけた戦いなのだ。ここで俺が負ければ青い国は緑の国の下につくことになる。そんなことで王である自分が他のものに顔向けができるのだろうか?
コバルトは剣を一旦鞘にしまうと、落ち着いた様子でハンタの方を見てこう言った。
「ハンタ、すまんな、はっきり言っておく。君は俺よりずっと強いよ。実は俺、全然強くないんだ。メイズの時も、ピュアに守られて物陰で震えていただけの臆病者なんだよ」
「ああ、そうだろうね。少し戦ってそれは思ったよ。あんた全然強くないって」
ハンタが鼻で笑ったかのようにコバルトを見下しながら返事をする。コバルトの下手にでた言い方に全く態度を変えようともせずに。
「俺は一人じゃ弱い。何にもできないんだ。けどピュアやライト、その他たくさんの青魔族がいたからメイズにも勝つことができた。俺は一人じゃ何もできない。けどこの戦いは俺一人で戦ってるわけじゃない。俺一人だけのための戦いじゃない。それに気づいたよ。後ろにみんながいて俺を支えてくれてるんだ」
コバルトは鞘から剣を抜くと再び構えた。そして真剣な眼差しでハンタを睨むとこう言った。
「俺は一人じゃ何もできない。けどみんなが俺を支えてくれてる。だから俺はこんなところで君に負けるわけにはいかない!すまんな、ハンタ、今まで全力になれなくて。ここからは俺も全力でやらせてもらう!」
コバルがそういうと顔つきが変わった。ああ、これでようやく本気になったか。面白そうじゃんとハンタも弓を構える。
「そうこなくっちゃ!第二ラウンドの始まりだね。本気で殺す気でかかってきな!」
ハンタの表情が生き生きとした。あのメイズを倒した青魔族の頭首、いったいどんな戦いを見せてくれるのかと。




