41話 緑の国
転送魔法が成功し、最初に二人と一匹が辿り着いた場所は山奥の小屋だった。
まず、二人と一匹は小屋から出ると、周囲を見回した。そこは断崖絶壁の岬の上にあるポツンとした小屋で、広い広い海が広がっていて、陸側には深い深い森林が広がっていた。
「ここが緑の国?」
コバルトが周囲を見渡すとそこにはなにもなかった。ただ岬に小屋が一つあるだけで遠くには大きな島が見えた。
「ああ、これから先、とりあえず一番近い村に向かう。まあそこに頭首がいるかどうかはわからないがな。あるいは誰もいないかもしれない。」
「え?ライト、それはどういうこと!?」
「緑の国は青い国と違って広いんだよ。そして青い国は島国だから海を越えられる魔族しか侵入ができないのさ。だから何キロも陸地から飛んで行かなくちゃ行けないから転送魔法で侵入する場合、結界を破って入るしかないのだ。ほら、あそこに青の国があるだろう?」
ライトがそう言って岬から海の方へ指を刺す。その先には遥か彼方に大きな島が見えた。なるほど、あれが青の国か。
「結界を破ることができなくても、陸続きなら直接歩いて国に侵入できるのさ。けど島国だとそれができないから転送魔法で侵入するしかない。けれどそれを結界が邪魔している。そうすると青の国に一人づつ海を渡って侵入するしかない。けれどそれは大変だ。だからメイズは陛下が張っていた結界を破って侵入してきたんだろう。」
「けど、それだったら、青の国じゃなくて緑の国を先に襲撃すればいいんじゃないか?」
コバルトは不思議がってライトに尋ねた。
「そう、そこなんだ。緑魔族の厄介なところは。青魔族と違って国が広く、国土のほとんどが森林に覆われているのを利用していくつもの拠点を持ってるのさ。だから結界を破るのではなく、敵が徒歩ですり抜けて侵入してきても、拠点を移して皆で逃げるんだ。黄魔族も魔力感知を使っていてもそう簡単に本拠地を見つけられないんだよ。多分黄魔族もなんとか集落を見つけてももの抜けのからだったりするからね。これは緑魔族の隠れ戦術なのさ」
なるほど。かつてナポレオンがロシアに敗れたときと同じ戦術のようなものか。と思った。あれ?ナポレオン?ロシア?それなんだっけ?とコバルトは思った。
「ただ、そうすると、青魔族が接触に来ても会えない確率は高いな。だから互いに魔力感知を使ってこちらが来たってことを彼らに知らせるしかないんだよな。まあなかなか難しいだろうけど」
ライトはそういうと、森林に足を踏み入れた。すごい、それはどこまでも広く続いていそうな深い深い大森林で、本当にあたり一面緑模様だった。青の国にも森林はあったけどここまで深く生い茂っている森は見たことがない。
「えーとたしかここから北に何キロか歩いたところに村があった気がするな」
「おいおい、ライト、気がするなって大丈夫か?」
「んー、すまんなコバルト、なんせ50年ぶりなもんで明確な位置を忘れてしまったのだよ。まあこっちであってると思うんだけど」
ライトに連れられて二人と一匹は深い深い森の奥へと入っていった。す、すごい、本当にすごく深い森だ。まるで北欧に来たみたいだ。それに青の国と違って少し寒い。やはり違う国に来たからだろうか?
二人と一匹は森の中を散策すると、次第に楽しくなってきた。ああ、青の国にはなかったこの深い森、木々の隙間から日光がさし、木漏れ日がきれいだ。あちこちで鳥のさえずりが聞こえるし、柔らかな風が吹いている。
何キロか森の中を歩いて抜けるととうとうライトの言っていた村にたどり着いた。すごい!そこはまるで童話に出てくるような森の中にあるログハウスが密集して連なっている村で家の色は全て緑色だった。これが緑の国の集落か?
「うわーすごい!かわいいお家!いいないいな、こんなところに住んでるなんて素敵!」
ピュアが咄嗟に走り出すとライトは何やら不穏な気配を感じ、呼び止めた。
「ピュア!待て!何があるかわからないぞ!いきなり入るな!」
ライトが入った時にはもはや時すでに遅し。ピュアは村の入り口あたりに足を踏み入れると、足元からメリメリと音がして穴に落ちた。落とし穴だ。
「ピュア!」
コバルトが咄嗟に魔力を使いピュアの元に駆け寄り、手を掴んだ。そして引き上げるとその穴はかなり深く掘ってあり、そこが見えなかった。
「ブービートラップだ。それにしても村の入り口に掘るとは!それに表面が全くわからなかった。二人とも気を付けろ!」
ライトがそう言って注意を促すと、木の上から突然笑い声がした。
「あっはっはっは!ごめんごめん!驚いた!?なーんだ味方か、あたし、黄魔族が攻めてきたのかと思って、咄嗟に穴を用意したんだ!」
二人と一匹が上を見上げると木の枝に腰をかけて座っている一人の少女がいた。年齢はコバルトとピュアと同じくらいで人間でいう17歳くらいだろうか?緑色の少し癖っ毛で肩にかかるくらいの長さの髪と緑色の瞳。そして緑の服に茶色のチョッキのようなものを着ていて緑色のハーフパンツを履いていた。そして髪の後ろに大きな葉のようなものを身につけていた。
コバルトはその少女を見たとき、不思議な感覚に陥った。な、何だこの感じ。そう、これはたしか初めてロイヤル国王にあったときと同じ感じ、なんというか、只者ではないこいつは。
そしてコバルトの剣が輝きを放っている。ん?なんだ?共鳴している?あの少女の背中に携えている何かの武器と。
少女はその木から飛び降りて、二匹と一匹の前にやってきた。そしてペコリとお辞儀をするとこう言った。
「ようこそ、緑の国へ。貴方達、青魔族だよね?待ってたよ。色々とさ、話したいことがあるから是非村に来てください」
コバルトはそう言われると、その少女を見つめた。そして目が合うと、ロイヤルと出会ったときと同じように、その瞳に吸い込まれるようになっていくのを感じ取ったのだった。




