4話 青い剣
「はじめまして。私の名はコバルト。こちらにいるピュアに名付けていただきました。お初にお目にかかります王様、どうぞよろしくお願いします」
コバルトは礼儀正しく王に挨拶をした。王はにっこりと笑いこう答えた。
「まあまあ、そんなにお堅くならずに。どうぞ肩の荷をおろしてください。あなたは客人なのですから。」
王がそういうと、やはりという感情がコバルトを貫いた。ここでは自分は客人であった。ではいったいなぜ自分はここに招かれたのか?
「まず、この世界のことは一通りそこにいるピュアに聞いておりますね?この世界は青魔族の住む『青』の世界。そしてあなたはこの世界に招かれたのです」
「はい、私はなぜこの世界に来たのかも、元は誰だったのかも、この先どうなるのかも何もわからないのです。」
王の問いに冷静に答えるコバルト。王は話を続けた。
「この世界には五種類の魔族が住んでいます。一つは我々青魔族。そして我々の同盟であり、我が国の守護国である緑魔族。その緑魔族と対峙している黄魔族。そしてその黄魔族の宗主国であり、我々の長年の宿敵である赤魔族。そしてどちらにも属さず中立の立場を貫く紫魔族」
「そして魔族には大きく分けて五種族存在します。一つは貴方様のような鳥族、そこにいるライトのような獣族、あとは街でお会いになられたかと思いますが、竜族と樹人族。そして、私やピュアのように限りなく人間に近い見た目をしている悪魔族」
「こちらの5つの種族は、同じ種族同士で集まっているのではなく、同じ色同士で暮らしているのです。種族が同じでも色が違えば共存はできないのです」
王の説明を真剣になって聞く。そのような世界なのか。しかしここで一つの疑問が浮かんできた。
「王様、一つお聞きしたいことがあります。では、ピュアはなぜ青くはないのですか?」
「よくぞ聞いてくださいました。コバルト様。そちらにいるピュアは実は白魔族なのです。白魔族は、唯一この五種類の魔族の間を行き来できる能力を持っているのです」
王は話を続けた。
「その昔、我々五種類の魔族の他に、もう三種類の魔族がいました。白魔族、黒魔族、そして灰魔族。しかし、いつからかこの三種の魔族は力が弱まり、ほとんど姿を表さなくなりました」
「そしてあるとき、世界を引き裂く大きな地震があり、世界は人間族と魔族の2つに別れたと言われています。なので我々の世界の裏側に人間界は存在します。しかし互いに干渉は絶たれ、誰も行き来ができなくなりました。そしてこの三種類の魔族は姿形を変え、人間界に存在することになったと言います」
「ピュアはある日こちらの国にひょっこりと訪れました。もともとは人間界で人間と共存していたのだが、ある日突然こちらの世界に来てしまったと。しかし白魔族が我々の世界に来たということは、これは我々にとって転機である。だから護衛にライトをつけることにしたのです」
「護衛に?ライトを?」
護衛ということは、ライトがピュアを守っているということか。ライトはピュアが飼っている猫ではなく、戦士ということなのか?
えへんという態度とドヤ顔をしながら、ライトがこちらに視線を向けてくる。あのどうしようもなかった猫が、ピュアに飼われているだけかと思っていたあの猫が護衛?
「では、王様、私も同じく異世界からこちらに召喚された存在だということなのですか?だとしたら、私は一体、何のために?」
コバルトがそう問いただすと、王は一度俯き、大きなため息をついた。どうやら何か言いにくそうな事情があるようだった。
「申し上げにくいのですが・・・」
重苦しい雰囲気の中、王は口を開いた。コバルトは覚悟をしていたが、大きな不安が胸を覆い尽くしてた。
「実は貴方はピュアとは違い、転生者なのです。元はおそらくは人間。そしてこの世界に招かれるべくして招かれたのです」
自分が転生者だと聞いて驚くコバルト。そういえば最初に見たあの夢は何だったのか?あれは、あれは自分がまだこの世界に来る前にいたときの、自分?
「そして私は貴方にお願いがあります。どうぞこの国をお救いください。今この国はもはや窮地にあるのです。貴方様が最後の希望なのです」
コバルトはそう聞くと、驚きを隠せなかった。何を言われるか、ある程度は予想と覚悟はしていたものの、まさか国を救えと言われるとは思われなかった。
「王様、救うとはいったいどういうことですか?私に血を流せということでしょうか?」
「その通りです、コバルト様、我々には貴方のお力が必要なのです。どうかこの国の頭首となっていただきたい。この国のために戦って欲しいのです」
「王様、私は戦ったことはありません、戦い方もわかりません、元は誰であったか、記憶すらないのです。その私に戦えというのは・・」
コバルトが意気消沈をし、消え入るような声でそう答えた。
「陛下、私は反対ですね。」
突然誰かが口を挟んだ。こういう場合、反対者が出るのはお決まりのパターンだろう。
「そちらの少年は私と同じく鳥族ですが、見るからに戦闘には向いていない。私にはわかります。おそらく武器どころか、羽の使い方もまともにできないでしょう」
全身紺色をした、鋭い嘴を持った鷹のような姿をした魔族が話しかけてくる。そして青い槍を持っていた。
「ネイビー、当たり前じゃない!コバルトはまだこっちの世界に来たばかりで何も知らないのよ!」
ピュアがその鳥族に返す。どうやら紺色からとってネイビーという名前のようだ。
「ピュア、それはわかる。だが自分たちより弱い、戦うことのできないものに我々がついていくということはできないだろう。もうじき始まる戦いの中でそのものに何を期待しろと?」
もうじき戦いが始まる?何か重大なことがこの世界でおころうとしているのか?コバルトは不安に駆られながらも彼らの話に強い興味を示した。
「陛下、もしこの者がこの国の頭首となる器であるというのならば、それを証明していただきたいです。でなければ我々は納得がいきません。」
ネイビーがそう強くいうと、王はうなずいた。
「ふむ、それも一理あるな。ではライト、あれをこちらへ持ってくるが良い」
「かしこまりました。陛下」
ライトは、奥から何やらキラキラと輝いた宝石箱のような長い箱を持ってきた。そしてその箱を開けると、中に漫画でしか見たことのないような美しい青い短剣が入っていた。
「コバルト様、こちらは代々この国の頭首のみが扱うことを許されている、伝説の青い剣です。そして魔力属性を測る剣とも言われています。もし塚の部分が光れば氷属性、刃の部分が光れば水属性です。ささ、どうぞ手にお取りください」
ライトがそう言って、箱を差し出す。属性?いったいどういうことなのだろう?
「我が国の戦士は、みなこの二種類の属性どちらかに分別されます。ちなみに氷属性は陛下と私ライトのみです。あとはみな水属性。そしてどちらも光らなかった場合は、戦闘向きではないということで、魔器は持てず、戦士としての素質がないことになります」
「ふん、どうせどちらも光りはしないさ。この者がこの国に召喚されたのは何かの間違いだ」
ネイビーがそう言ってコバルトを蔑んだ。しかしコバルトはそんなネイビーの声も耳に入らず、その剣をじっと見つめていた。
そして箱に手を入れ、剣を手にした。すごい、何かすごい力を秘めている。そしてその力が自分の体に流れ込んでくるようだった。
次の瞬間、剣が光った。一瞬、あまりにも眩しく光ったのでどちらだかわからなかったが、よく見ると全体が光っている。
「ライト、これはどういうことだ?両方光るとは。このような事例は見たことがない」
「は、陛下。おそらく彼は未知なる力を秘めています。おそらく両方光ったということは、二つの属性を持っているとしか」
「二つの属性だと!?氷属性と水属性、どちらも使えるということか!?」
こうしてコバルトは、この国で戦士として戦えることが証明された。そして、それは今までにないくらい、大きな力を秘めているということが証明されたのだった。