19話 黄色い悪魔
一方こちらは戦場。
王宮やキアノスの街は南側に位置するのだが、その逆の北側の海辺で青魔族と結界を破って侵入してきた黄魔族の戦いが始まっていた。この青の国は全体が島で覆われているのだが、敵国の魔族の侵入を防ぐために陛下とラピスラズリで強力な結界を張っていたのだ。そしてそれが陛下の魔力低下によって破られたのだ。
「疾風乱舞!」
最前線でネイビーが戦っている。黄魔族の歩兵は最初は押していたのだが、途中から槍を武器にしているネイビーの参戦によって、次々に倒されていった。模擬戦の時は剣を使っていたが、ネイビーの本来の武器は槍だった。
「ネイビー!ありがとう、助かるわ。みんな大丈夫!?」
セレストが負傷した兵の手当をしている。ポーションや毒消など調合した薬を与えて、どうにか命をつなぎとめていた。セレストは戦士ではなかったが、薬学に精通しており、自分で薬を調合することができた。
ネイビーが参戦してからかなり形成は良くなったのだが、それでも敵の数がかなり多く、青魔族は劣勢に追い込まれていた。しかしそこにシアンとピュア、そしてコバルトが参戦し、逆転したのだった。
「青竜刀、水乱斬り!」
シアンが青竜刀を振りかざすと、水による二刀流の巨大な斬撃が黄魔族を貫いた。そしてあっという間に武器を持っていた黄魔族は劣勢に追い込まれ、どんどん倒されていった。
「ひ、ひぃぃ、な、なんだあの鳥とリザードマンは!強い!強すぎる。あんな強い兵に我々一般兵が敵うわけがない!」
黄色い姿形をした魔族たちは青魔族の猛攻に怯えてどんどん退却していった。これによって、青魔族はこの戦闘に勝てると踏んだのだが、次の瞬間、一つの閃光のようなものが飛んできて、ネイビーの肩を貫いた。
「ネイビー!」
シアンがそう叫ぶと、ネイビーは貫かれた肩から血を流し、そこに倒れ込んだ。ピュアが慌てて駆け寄り、傷を調べた。
「ネイビー、ネイビー、大丈夫?しっかりして!」
「ピュアか、すまん、俺としたことが、油断したようだ」
「もう喋らないで、ネイビー!今、傷を塞ぐから」
ピュアはそういうと、両手をネイビーの傷口に当てて魔力を込めた。ポウっと白く光り、ネイビーの傷口は塞がった。
そう、これが白魔族の能力。回復魔法や防御魔法など他の魔族には持っていない、特別な魔力を持っているのだ。
「ピュア、ありがとう、おかげで助かった」
「よかった!ネイビー無事で!」
「ピュア、前に俺はお前やコバルトにあれだけ酷いことをしておきながら、救ってもらってすまない。俺はお前たちにあわせる顔がない」
「何言ってるのよネイビー!仲間じゃない!今はそんなこと言ってる場合じゃないわ!」
ピュアの純粋な優しさにネイビーはただただ涙した。ああ、こいつ、なんて優しくていい子なんだ。俺はこんないい子にあんな酷いことを言ったのか。と思うとネイビーはただただ自分が恥ずかしくなった。
「そうだ、ネイビー、今はそんなことを言ってる場合ではない。お前は青魔族として戦ってくれている」
「コバルトか。お前にも随分、酷いことをした。すまなかった。お前が次期党首となるのに、俺は恥ずかしい。まあ俺はもうお前に手も足もでんがな」
ネイビーがそういうとガクッと気を失った。それにしても今の攻撃はなんだ?ネイビーを一撃で倒すかのような閃光を放つものがいるとは、一体誰なのだ?
「いったい誰だ!姿をあらわせ!」
シアンがそう叫ぶと、そこにたくさんの兵の中から一人の魔族が姿を現した。
「おやおや、みなさんだらしがないですねえ、もう少し役に立つとは思ったのですが」
その魔族はそういうと、手に分厚い辞書のようなものを持ち、少し薄い黄色い髪と黄色い目、そしてヤギのような黄色いツノを生やし、黄色い法服のようなものを着ていてそこに姿を現した。悪魔族だ。
「貴様か!今ネイビーを撃ったのは!」
「はい、その通りでございます。部下が不甲斐なく申し訳ありません。私、私は黄魔族であり、悪魔族の長、プリムローズ・イエロー・デビルと申します。クククク。以後お見知り置きを」
プリムローズがそう言ってぺこりと挨拶をすると、一同緊張が走った。こいつか、こいつが今回攻めてきた黄魔族のトップか。そこにいるみんなはその魔力の高さに大いに警戒していた。