13話 青い兎
その後、コバルトは最初に剣で証明されたもう一つの属性。つまり水属性だけでなく氷属性の魔力を使い、剣をコーティングすることもできた。すごい、なにか自分の中にもう一つの違う色の魔力があり、それを引き出すこともできる。
ただ、もう一つの魔力、氷属性は水属性に比べて、難易度が高かった。そして魔力の多くを消耗するようだ。普段は水を使い、いざという時に氷を使ったほうが良さそうだ。
そしてその後、コバルトはシアンと何度か、魔力を使い打ち合った。魔力を体や羽に平気で込めることや、操れることができるようになったコバルトが相手では、シアンも本気でコバルトを殺しにいくくらいの気持ちで戦わないといけなかった。あまりの上達ぶりにシアンが途中でギブアップしてしまった。
「まいった。まいった。コバルト。これ以上やったら俺がお前に殺されちまうよ。お前、一体何者なんだよ!?」
「俺も、自分でもわからないんだ。何か体から力が溢れ出てくるようで」
コバルトは今なら誰にも負けるような気がしなかった。シアンはこの国でライトに次ぐ実力者だった。だから王宮はライトが護衛しているが、街はシアンが守っているのだ。それくらいシアンは信頼されているこの国の竜族の長だった。
「ふむ、シアンでもこれだけになるならもう問題ないな。おいコバルト、今度はお前が手加減してやれよ。王宮にいくぞ。」
ライトがそういうと、ピュアとコバルトとシアン、三人と一匹で王宮に向かった。そうすると、そこには色々な兵がいた中で当然ネイビーの姿もあった。
ネイビーはライトを見ると、ガタガタと震えだした。そして頭を下げるととても腰を低くして挨拶をした。
「コバルト様、ピュア様、これはこれはおはようございます。本日も王宮にこられたのですね」
急に腰が低くなり、二人に頭が上がらなくなったネイビーを見て、やれやれと思った。ネイビーにとってライトはそれほど恐怖だったのだ。
「ああ、ネイビー、お前に用があるのだが、その前にラピスラズリはいるか?」
「ラピスラズリ?あいつなら奥で結界の維持をしているが。ラ、ライト、ところで俺に何の用だ?」
「再びまたコバルトがネイビーに再戦を挑むと言っているのだが、今回は俺ではなく、ラピスラズリに仲介をしてほしいのだ」
(再戦を挑む?つい昨日俺に敗れたものが一体なにを言っているのか?再びまたあの大衆の前で恥をかかすつもりか?ライト?)
ライトの突然の発言にネイビーは驚いた。そしてそれは他の三人も同じだったが、ライトとシアンはそれはそれは本当の意味でいい考えだと思った。そして審判はライトの役目だが、ライトがやってしまうとネイビーが怖がってしまうので、他のものに頼むのだろう。これもライトの思惑だった。
「また俺に再戦を挑むつもりか?ライト?お前がそう決めたのか?それなら今回はそちら側が俺に言ってきたのだから俺がどんな態度で望もうとも文句はないな?」
「ああ、別に構わない。お前がコバルトに勝ちさえすればな。もしコバルトが負ければ俺は今後お前の言いなりになろう。一切お前に偉そうなことは言わない。それを約束する」
そういうとネイビーはこれは面白いとヘラヘラ笑った。王国一の戦士がこの俺の言いなりになる。ということは今後このライトにすら俺はビビらなくてすむ。またこいつを言いなりにすることができれば誰もこの国で自分に歯向かうものや文句を言うものはいなくなる。これは面白い。そして絶好のチャンスだと。
「なるほど。だから今回はお前でなく、ラピスラズリを使うのだな。そうだな。戦いが終わったあとに突然大衆の前で俺の言いなりにされるのは気が引けるものだな、ライト」
「そんなことはどうでもいい。とにかくラピスラズリはいるのか?」
ネイビーはそう言われると、陛下が前に王の間から現れた部屋に入って、ラピスラズリをよんできた。そしてラピスラズリが皆の前に姿を現した。
それはライトと同じく獣族だった。ウサギのようだ。白いジャケットのようなものを羽織り、全身はラピスラズリ色をしていて、両目が金色に光っていた。
「はじめましてコバルト様、私はラピスラズリ・ブルー・ラビットと申します。本日はライトに代わり、私が審判を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
ラピスラズリはペコっとコバルトにお辞儀をした。ライトが時折見せるように礼儀正しい獣族だった。しかし不思議なことに、このラピスラズリはどんな状況でも無表情だった。
(なにやら変わった魔族だな。感情がないのか?)
コバルトはラピスラズリをみてそう思った。まるでピーターラビットのような見た目をしているが、全く喜怒哀楽がなさそうだ。ん?ピーターラビットってなんだっけ?
こうしてライトではなく、ラピスラズリが仲介を務める中、ネイビーvsコバルトの再戦が行われることになった。