100話 黄色い顔料
その日1日、コバルトとピュアとライトは緑の国の住人に挨拶をして回った。あちこちから二人と一匹は敬われた。やはり国を守り、ハンタを救ってくれた英雄だったからだ。
「コバルト様!行ってしまうのですね!どうかお気をつけて!ありがとうございました!」
「ああ、アイビー、無事でよかった。またこの国にきたらよろしくな」
コバルトがアイビーと話していると後ろからエメラルドがやってきた。
「コバルト様、本当に大変お世話になりました。あなたに剣をむけたことをどうかお許しください。あなた様方がご無事でお戻りになられることをお祈り申し上げます」
「ああ、エメラルド、ありがとう。お前ももっと強くなれるよきっと。ハンタのこと、よろしく頼んだ」
コバルトがそういうと、エメラルドは俯いたまま、敬意を表していた。この二人も色々あったが、どうにかうまくやっていけそうだ。
そしてその後、キュルマの街で挨拶が終わると、二人と一匹はヴィフレアの街のエバーの家に行った。何やらミントから話があるようだ。
「ああ、コバルト、ライト、ピュア、挨拶に回ってもらって悪かったね。みんな三人と話したかったみたいだからさ。それでさ、これから黄色い国に行くにあたってなんだけど、あそこは敵国だから転送魔法で送り届けることはできないんだよね。だから直接歩いて向かうしかないんだけど、国境付近から黄色い国の都市まではかなりの距離があるから、途中までライムに乗せてってもらいなよ。流石に敵国の都市に緑魔族が堂々と入るわけにもいかないから途中までだけどね」
「ああ、わざわざ手配してもらってすまなかったなミント、それはかなり助かるよ」
「いやいや、ライト、こちらこそ一緒に行けなくてごめんね。あと今のままだと怪しまれるから変装していくしかないよね。エバー、用意はできてる?」
「はい、もちろんですじゃミント。なかなか御三方の色を作るのが大変でしたが、まあ問題ありませぬ。念のため、余った顔料も持っていかれるといいですじゃ」
変装?顔料?なんのことだ?コバルトとピュアはよく意味がわからなかったが、確かに青魔族が敵国である黄色い国に今のままでいてはまずいことはわかる。しかし変装というのはどういうことなのか?それに顔料とは?
「ところでそちらの白魔族様はなんのお色がよろしいですかな?呼び名は変えない方がよろしいかと思うので、ライトイエローとコバルトイエローは用意しましたが、ピュアイエローというのはありませぬ。申し訳ないのですが」
「え?あの、どういうことですか?」
「ああ、ピュア、コバルト、二人には説明がまだだったね。黄色い国では今の青色のまま潜入すると、敵が来たって混乱を招くからまずは三人の色を変えないといけないんだよ。それで名前まで変えると面倒だから同じ呼び名で呼びやすいように、ライトイエローとコバルトイエローは用意した。それを全身に塗って変装するんだ。魔力顔料だから特殊な薬で剥がそうとしない限り、剥がれないからさ。安心して。ライトは全身に塗らないとね。コバルトは羽と髪だけでいいよね。あと目はカラコンがあるからそれ入れていって。ピュアは呼び名変えないとね。えーと何色がいい?」
「ミント、ちょっと色々と話整理したい。まずは顔料ってなんだ?」
唐突に話を進めるミントにコバルトがとりあえず割って入る。変装するのはわかったが、知識がない彼にはよくわからなかった。
「え?顔料っていうのは着色するために用いられる色料の総称だよ。わかりやすくいうと塗料とかペンキとかああいうのだね。上からコーティングして色を変えるものだよ。似たようなのに染料っていうのがあるけど、こっちは直接染み込ませて染めるものだよ。マニュキュアとか革靴の補修クリームとかだね。こっちは元の色が入れる色より薄くないと入らないんだ」
ミントに染料と顔料の違いを教えてもらうコバルト。なーるほど、美術の授業とかで習えそうな知識だ。色彩の世界では常識なのかもしれない。
「ピュアは真っ白だから染料で染めてもいいかもしれないけど、染料だとうまく染まんないこともあるし、色も落ちちゃうからね。やっぱり永続的にコーティングできる魔力顔料の方がいいね。何色がいいかな?」
ミントがそういうと、ピュアは置いてある黄色い顔料が入った小瓶を見て物色していた。んーどれかいいのあるかな?
その時、ピュアの目に入ったのは、綺麗な薄いクリーム色をした顔料の小瓶だった。ああ、これがいい。これは可愛い色だ。
「ミント、私この色がいいな、これ可愛い」
「ああ、これはクリームイエローだね。白に一番近い色だからピュアには合うかもね。じゃあさ、今からピュアの名前はクリームだね」
ミントがそう言ってそのクリーム色の小瓶を手に取り、器に出す。そして毛染めのクシにしみこませると、ピュアの髪に塗り、瞬く間に色が入る。す、すごい、一瞬にして真っ白だったピュアの髪色はクリーム色に変わってゆく。
そして髪を染め終えると、次にミントは同じ色のカラコンを持ってきてピュアの目に入れた。髪色だけだと怪しまれてしまうため、きちんと目の色も変える必要があった。
「これでよし!今からあなたはクリーム・イエロー・デーモンね!間違っても自分のことをピュアと名乗らないように。白魔族の情報はもう黄色い国に漏れているからね!」
「ああ、ありがとう、ミント」
ピュアは元あった白い色の髪の毛と目の色がクリーム色に変わってしまったのを見て変な感じがした。な、なんだろうこれ?自分がなんだか自分じゃないみたい。
「キャハハハ!くすぐったい!」
次はライトの番だ。ライトがミントに全身を魔力顔料で筆のようなもので塗られている。ライトも瞬く間にライトブルーからライトイエローに変わっていった。す、すごい!体の色が変わるだけでここまで印象が変わるとは。
「これでよし!ライトはそのままライトって名乗ってもいいけど、ライト・ブルー・キャットって言わないようにね。あなたは今日からライト・イエロー・キャットよ!」
ライトが終わると、次にはコバルトだった。コバルトの髪の色、羽の色を黄色に塗っていくミント。そしてカラコンを入れ、コバルトは全身が真っ黄色な姿に変わった。
「これでよし!コバルトもいい感じだね。えーとこの姿で鳥族っていうのは不審がられるから、悪魔族の方がいいかな?そうだね、堕天使のルシファーを名乗った方がいいわ。今日からあなたはコバルト・イエロー・ルシファーね!」
「ルシファー・・・」
コバルトはミントからその言葉を聞くと、何か感慨深いものがあった。ルシファー、確か堕天使の名前だったな。ルシフェルとも言ったはずだった。今からその名前を名乗るのか。
「おーい、ミント、準備は終わった?そろそろ送りに行こうかと」
部屋にハンタが入ってきて二人と一匹を見る。青色と白色からものの見事に黄色に変わっている姿をみて驚いた。そして髪をコバルトを見て、突然こう言った。
「コ、コバルト!なんだその金髪の頭と目は!オラのコバルトちゃんがとうとう不良になっちまっただああ〜」
「いやいやハンタさん、違うんだって。これは魔力顔料で色変えてるだけだって」
ハンタの意味不明な言動に一同が唖然とする中、コバルトは坦々と返してゆく。一体なんだ?これは。多分二人にしか分からない内容なのだろう。
変装が終わり、三人と二匹はエバーの家を出た。そして王宮まで向かうと、そこにスプルースが待っていた。
「お待ちしておりました。皆さま、とうとうこの国を発たれるのですね。この度は我々緑魔族が大変お世話になりました。この御恩は一生忘れません。あなた方にご武運があるようお祈り申し上げております」
「ああ、スプルース、お前にも色々世話になったな。またよろしく」
コバルトがそういうと、スプルースは三人と二匹を魔法陣に乗せて、転送を行った。緑の国と黄色い国の国境付近にある地点まで送り届けるためだ。そして転送が終わると、着いた先はそこは緑の国についた時と同じような小屋の中だった。
「さ、着いたよ。外に出よう。環境や温度がガラッと変わるからみんな気をつけてね」
ミントがそう言って外に出る。なんだ?黄色い国に行くと言ってたが環境がガラッと変わるとはどういうことだ?
そして外に出ると、コバルトはその光景に驚いた。小屋の手前まではずーっと深い森が続いているのに、その先にはうって変わったようにびっしりと黄色い砂が敷き詰められた砂漠が広がっていた。まさに砂漠と森林の境界線だ。
「さ、みんな、ここが国境だよ。砂漠と森林の国境。ちょうどここに結界が張られていて、徒歩ですり抜けるのにも高い魔力が必要になってくるの。だからそう簡単に侵入はできないんだよ。黄魔族もこの結界をすり抜けるのにかなり骨が折れたと思う。あとは黄色い国の都市までライムが連れていってくれるからよろしくね。おーいライム!」
ミントが名前を呼ぶと、森の奥からライムイエローの姿をしたのっしのっしとラクダがやってきた。全身が真っ黄色のラクダだ。あれ?黄魔族なのか?
「はじめまして。わたしはライム・グリーン・キャメルと申します。元はライムグリーンなのですが、今回敵地に遠征ということでライムイエローに変装しています。これから先は黄砂続きですのでわたしが送り届けます。よろしくお願いします」
あーなるほど。このラクダも顔料で変装しているのか。確かに敵地に侵入するのに緑色をしていたら怪しまれるな。
「コバルト、今まで本当にありがとう。あたし、あなたに命救ってもらえこと、本当に感謝してる、きっと戻ってきてね。ピュア、ライト、よろしくね」
「ああ、ハンタ、こちらこそありがとう、色々と世話になったね。きっと戻ってくるよ。クロムとの決着はつけなくちゃいけないし、俺絶対あいつに勝つからさ、またな」
コバルトはハンタとガッチリ握手をすると互いに見つめあった。そして次にピュアのほうに向かうとがっちりと握手をした。
「ピュア、いやクリームだったね今は。コバルトのこと、よろしくね。また帰ってきてたくさん話そう」
「ああ、うん、ハンタ、またよろしくね」
そして二人と一匹はライムにまたがって乗ると、そのまま砂漠の中を進んでいった。ハンタとミントはその姿を見送った。どうか、どうか無事に戻ってきて欲しい。ただただそう祈っていた。
「行っちゃったね、ハンタ、大丈夫だよ。きっとまた会える。きっとあの三人なら黄魔族に勝てるよ!」
「ああうん、ミント。そうだね。みんなを信じよう」
ハンタとミントはそう言って二人と一匹の安否を気遣った。彼らならきっと黄魔族を倒してくれるに違いない。
「いやはや気候が全然違うにゃ。黄色い国は。緑の国は涼しかったけどこっちは暑いにゃ」
「ああ、ライト、緑の国では色々とあったな。そういえばさ、今回、お前だけ一度も戦わなかったな。ピュアですら戦ったぞ」
「ああーもう、それ言わなでくれにゃコバルト。仕方ないだろ今回は機会がなかったんだから」
「ふふふ、ライト、だけどきっと黄色い国ではきっと活躍場面があるわよ!二人ともこれからもよろしくね」
「ああ、これからもよろしくな、ピュア、いや今はクリームか。ライト」
こうして「緑の国」の物語はこれにて終焉した。さてさて、次にコバルト達が向かうのは敵国であり、あのクロム、アプリコットの待つ、「黄色い国」だ。二人と一匹は体色を変え、長い長い砂漠をラクダの魔族ライムに乗って進んでいく。コバルトにとって初の敵地への遠征だ。この先、一体どんな運命が待っているのか。それはだれも知らない。
緑の国の章 完