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蒼き輪廻の果てに 〜転生したら青い鳥だった件〜  作者: 水猫
第一章 「青い国」
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1話 青い羽を持つ少年

夢を見た。


それはどんな夢だったかはっきりと覚えてない。ただ何となく広い広い海を漂っている夢。不思議なことに海底には沈まなかった。


そこが海だと言うことを少年は理解していた。ああそうだ。これは海だ。潮の香りがするし、空にはウミネコが飛んでいる。


夏の暑い日差しの中、一羽の真っ白なウミネコが降りてくる。そして水面に潜り、その少年の下に潜ろうとしているのか。


「もしかして、助けようとしてくれるのか?無理だよ。それは」


少年がそう言うと、その鳥はどこかへ飛び立っていった。ここでその少年の夢はプッツリと途絶えてしまった。


夢から醒めた。けれど、あの夢は何だったのか?夢にしてはやけに鮮明だった。そしてあの白い鳥は、そしてあの海は一体なんだったのか?


ベッドから起き上がろうとしても、なかなか体が動かない。やっとの思いで動かすと、妙に背中が嵩張る。というか背中に何か違和感を感じるようになった。


部屋を見渡すと、そこは見たことのない部屋だった。ここはどこなんだろう?一面が青と白でできていて西洋の造り。布団も椅子も棚も飾りも全て青と白。まるで御伽の国の世界に来たようだ。


少年は自分の姿、というより背中に何か違和感を感じていたため、近くにあった大きな鏡に姿を覗き込む。そして自分の姿を確認すると、大いに驚いた。そこにはファンタジーに出てくるような、背中に羽が生えた天使のような風貌をした自分が立っていたのだ。

挿絵(By みてみん)


服は全身真っ白な服を着ていたが、髪の色と目の色、そして羽の色が真っ青だった。自分はいったい誰なのか?ここはどこなのか?状況が全く掴めなかった。


次の瞬間、ドアがガチャリと開いて誰かが入ってきた。それは自分と同い年くらいの少女だった。そして髪の色と目の色が真っ白だった。

挿絵(By みてみん)


「おはよう、目が覚めた?あなたここで丸一日眠っていたのよ」


少女がそう話しかけると、後ろからまた誰かが入ってきた。それは人ではなかった。それにしても妙に小さい、ん?ね、猫?


「はじめまして。目が覚められたようですな。私はここの家主のライトと申します。そしてこちらの少女はピュア、どうぞよろしくお願いします」


全身水色をし、腹の部分だけ白い猫が白いハット被り、白い靴と白いマントを携え、ステッキを持もち、帽子を取って叮嚀にお辞儀をするとそう言った。背丈はまったく普通の猫と変わらないのだが、二足で立って歩いている。

挿絵(By みてみん)


「ああ、いきなりごめんね、驚かせちゃったかな。はじめまして。私の名前はピュア。ピュアホワイトの色からとってそう名付けられたの。こっちはライトブルーの猫でライト。青魔族でライトブルーは彼しかいないからライトって名前なの」


「魔族?」


その言葉を聞くと少年は驚いた。魔族?この少女は何を言っているのか?しかし猫が喋っている以上、何か不思議な世界に迷い込んでしまったに違いない。そして自分の背中から羽が生えていることを受け入れるにはこの少女の言うことも妙に納得がいった。


「まずはさ、私とライトであなたの名前を決めなくちゃいけないんだけど、えーとその羽の色はロイヤルブルーに近いからロイヤルかな?」


「いやいや、ピュア、ロイヤルは我が国の王の名前ですぞ。彼は若干ロイヤルブルーとは違う青色です」


ピュアの話にライトが口を挟む、しかし少年はそれを聞いた時、驚きを隠せなかった。


「名前って?え?俺の名前?」


少年は頭を抱えた。ここに来た時、この場所がどこだかわからないだけでなく、自分が誰だったのか、そしてどこから来たのか、そして名前すらわからなかった。


「ああ、驚かせてごめんね。この世界にきたからには、もうあなたは以前のあなたではない。だからこの世界のシキタリにしたがって、あなたに私たちが命名しなくちゃならないの」


そういうと、ピュアはそっとその少年の生えている羽を触ってこう言った。


「綺麗な青色。そうね、これはロイヤルブルーというよりコバルトブルーね。じゃあコバルトにしよう」


「あなたの名前はコバルト」


ピュアに命名されるコバルト。なぜ自分が何も覚えていないのか?そしてなぜ背中から羽が生えているのか?ここはどこなのか?とさっぱりわからなかったが、この世界に来てしまった以上、そのルールに従うしかなかった。


「あ、そうだ。お茶飲む?ちょっと落ち着いたほうがいいかもね。まずはお茶でも飲んでゆっくりしていって」


ピュアがそういうとティーポットとお茶が用意されていた。それは青と白でできていてとても綺麗だった。


ピュアはポットからお茶を注ぐとその色の驚いた。青い!青い色の液体がティーカップに注がれているのだ。


「ああ、驚かせちゃったかな。それはバタフライピーっていう名前のお茶なの。この街で一番採れる名産物なの。みんな好んで飲んでるのよ」


「ここの世界は本当に青いものが多いな。ところでこの世界は一体どこであなたたちは誰?そしてなぜ俺の背中から青い羽が生えているのか?俺は、俺は人間ではないのか?」


お茶を飲んでひと段落すると、ようやくコバルトは口を開いた。自分が誰なのかわからない。ここがどこで一体何が起きているのかもわからない。ただわかることは自分は人間だったはずなのに、今は背中から羽が生えている。


「まずはじめに説明するね。この世界はあなたが元いた世界ではない。ここは魔族しかいない世界。そしてあなたはもう人間ではなく、魔族。背中から羽が生えてるから、鳥族ね。私は悪魔族。ライトは獣族。人間はもういないの。あなたが一体どこから来たのか?それは誰も知らない。けれど、この世界に来てしまった以上はこの世界のルールにしたがって生きなくちゃいけない。だから私はあなたに命名した。コバルトという名前を」


「俺は魔族?人間ではない?そうか、俺はどこか違う世界に来てしまったのか。そういうこと?」


コバルトが俯いてそう話すと、ピュアはそっとコバルトの手を握ってこう言った。


「何も心配しなくていいのよ、コバルト。私とライトがあなたを守るから。だから今は休んで。こっちに来たばかりで疲れているでしょう。ライト、コバルトに何か食べ物を持って来なきゃってあなた!?」


ピュアがそう言って振りかえると、ライトはバタフライピーのお茶を飲んでとても熱がっていた。つまりは猫舌なのだ。


「アチチチチ、ああ、やはり俺にはこの温度のお茶は飲めんな。もっとぬるめに入れてくれや」


「あんたに入れたんじゃなくてコバルトに入れたのに、何勝手に飲んでるのよ!」


ピュアがライトからお茶を取り上げると、ライトは悲しそうな表情を浮かべた。仕方ないので近くにあった水の入った容器を与えるとライトは嬉しそうにペロペロと舐め出した。


「はあ、やっぱり獣族はなかなか理性を保てなくてダメね。目の前になにかあるとすぐにかぶりつく癖があって」


コバルトはそのやりとりを見て少しほっこりした。やはり魔族といっても普通の猫と変わらないのだな。猫が二足歩行でお茶を飲んでるなんて、かわいい。


「じゃあコバルト、食事を用意しておいたから食べてゆっくりしていってね。まだ起きたばかりだけど、羽が体に馴染んでないから今日はここでゆっくり休んで。何かあったらあたしはとなりの部屋にいるからいつでも呼んでね。ほら、ライト行くわよ」



ピュアはそういうとライトを連れて部屋から出ていった。コバルトは見慣れない青と白の部屋と自分の背中に生えている馴染まない青い羽を見て、ぼーっとしていた。


「コバルト・・か」


自分に名前をもらったのが嬉しかったのか、自分がこの世界に来れたのが嬉しかったのか、よくわからないがなんとなくコバルトは少し嬉しい気持ちになって食事にありついた。気づくと窓の外は日が落ちていて夕暮れ時だ。


そしてその一日、自分がこの世界に来てしまった反動があったのか、どっと疲れが出てきて死んだように眠りこけた。こうして鳥族コバルトのこの「青」の世界は幕を開けたのだった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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[良い点] 最近宮沢賢治の児童文学本の朗読にハマっていて次にストーリーはもちろんのこと、朗読も楽しめる本を探していたところこちらの作品に出会いました。1話だけしかまだ読んでいない、いえ、私としては疲れ…
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