エピローグ
「朝一番、大平が自首してきたよ」
鳥羽はヒトミの部屋を訪れるなり、こぼれんばかりの笑顔で言った。
「やったじゃない!」
ヒトミも笑顔を返す。
二人の声を聞きつけ、恵太郎がズカズカとヒトミの部屋に入ってきた。
さっそくコタツに陣取る。
「鳥羽ちゃんも座って」
ヒトミは鳥羽をうながしてから、自分も鳥羽に寄り添うように座った。
「恵太郎君には、あらためてお礼を言うよ」
「よかったね。でも計画の最後の部分は、かなりのカケだったんだ。だって自首するかどうかは、本人が決めることでしょ」
恵太郎はコタツに両手をつっこみ、台の上にあごの先をのせていた。
おなじみのポーズだ。
「まあー、カケだなんて。恵太郎! あなた、大平に居直られたら、どうするつもりだったのよ?」
ヒトミが顔しかめ、恵太郎の耳たぶをおもいきり引っ張る。
「痛いよ、おねえちゃん」
「痛いじゃ、すまないわよ。鳥羽ちゃん、クビになってたかもしれないのよ」
「逮捕状をとるのは無理だって。鳥羽ちゃんが、そう言うもんだから」
「まあ、いいわ。クビにならなかったから」
すぐに機嫌をなおすのも、ヒトミだった。
「それに大平の場合、自首をする確率が高いと思ったんだよ」
「頭のいいヤツは先を読むからね。おっと、これも恵太郎君からの受け売りだったな」
鳥羽が恵太郎の言葉に説明を添える。
「罪が軽くなるって考えたのかしら?」
「それもあるだろうけど、逃げられないとカンネンしたんだと思うよ」
「でも、よかったわ」
ヒトミがうれしそうに鳥羽の腕を取る。
「そうだ、服部警部が感心してたよ。逮捕状なしに逮捕する計画なんて、オレにはとうてい思いつかないってね。恵太郎君って、ほんとにすごいよ」
「あまりほめない方がいいわ。この子、すぐつけあがるんだから」
「それって、おねえちゃんだろ。鳥羽ちゃんも気をつけた方がいいよ」
恵太郎も言い返す。
「もう、ほんとにかわいくないんだから」
「今度の捜査、上司には秘密だっただろ。それに証拠もなかったしね。逮捕状のとれる状況じゃなかったんだ。自首してくれてホッとしたよ」
「教授を殺した動機って、やっぱりお金のことだったの?」
ヒトミが興味深げに聞く。
「じつは二人の共同研究の成果を、教授が自分だけの功績として学会に発表していたそうだ。大平は、それが不満だったんだな。助手とはいえ、科学者としてのプライドがあるからね」
「プライドねえ」
ヒトミが首をかしげる。
「不満を教授に訴えたら反対に、助手のくせにとバカにされたらしい。それでハライセに、研究成果を企業に売ったんだ。するとさらに、そのことでひどく責められたそうだよ」
「でも、お金にもこまってたんじゃないの?」
「いや、借金の件はうわさだけのようでね。こうしてみると、教授の方もどうかと思うよな」
「でも、プライドだけで人を殺すなんて」
「ヒトミさん、安心してもいいよ。その点、オレはだいじょうぶだから」
刑事としてのプライドのなさを、鳥羽は胸をはって自慢した。
「そうみたいね」
ヒトミは笑って、コタツから立ち上がった。
「なんだかむなしくなってきたわ。鳥羽ちゃん、コーヒーでも飲む?」
「おねえちゃん、ボクにも。それにケーキも」
この注文が終わらないうちに……。
「痛いっ!」
特大のゲンコツをもらった恵太郎であった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
密室トリック、解けましたでしょうか?




