トリックのナゾ解き
恵太郎……中学生ながら天才的な推理力を持つ。
ヒトミ……大学生。恵太郎の姉。
鳥羽……新米刑事。ヒトミとは恋人同士。
服部……警部。鳥羽の直属の上司。
柴崎……老教授。密室でナゾの死をとげる。
大平……助教授。柴崎教授の助手。
食堂の店主……朝日食堂の主人。
野仲……助教授。大平と同僚。
空いてる取調室。
先ほどから服部警部を前に、鳥羽は昨日の捜査で判明したことを報告していた。
「あとは密室トリックだけです」
「あと二日だぞ、それでわかるのか?」
「今日、教授の家にもう一度行ってみます。それでもわからなければ奥の手を使います」
「なんだ、その奥の手というのは?」
服部がいぶかしげな表情をする。
「すでにトリックを解いてる者がいるんです。いざとなれば彼に教えてもらいますので」
「だれだ、そいつは?」
「知り合いの弟です。まだ中学生ですが、こうした推理に関しては天才的なんです。さっき警部に話したことも、じつはみんな彼からの受け売りでして」
「中学生の少年が? 現場も見てないんだろ、信じられんな」
「彼に会って話を聞けば、きっと警部も信じると思います」
「だったら、なんでオマエに教えんのだ? その密室トリックとやらをな」
「彼なりに気をつかってなんです。ボクのプライドを傷つけまいと」
「プライド? いったいなんのプライドだ」
「もちろん刑事としての」
「そんなものがオマエにあったのか」
服部が高笑いする。
「まあ、少しは……」
「なにはともあれ、悪いヤツは許しておけん。あと二日、しっかりがんばってみろ」
「わかりました」
鳥羽は報告をすませると、さっそく教授の家に向かった。
鳥羽が署を出たあと。
取調室ではしばらく、熊のごとくノシノシと歩きまわる服部の姿があった。
――えらいことになるかもしれんぞ。そうなりゃ、警察のメンツはまるつぶれだな。だが、そんなことは言っておれんし……。
捜査結果がひっくり返るかも知れない。
服部は真剣にそう考え始めていたのだ。
鳥羽は別棟のテラスに立っていた。
どうやって密室に入れたのか?
さらに出たあと、どうやって密室にしたのか?
いくら考えてもわからない。
鳥羽はしばらく現場にとどまっていたが、ついにあきらめて現場をあとにした。
続いて朝日食堂に行く。
昼食時にまだ時間があるせいか、この日の店内はがらんとして客がいなかった。店主に声をかけると、昨日同様に愛想のいい顔を出してくれる。
鳥羽は問題の車の件を問いただしてみた。
「ええ、そのおりでして。大平さんの車を使えば良かったと、あとになって気がついたんです」
店主の返答はヒトミの推理どおりだった。
ただこの店主も、教授の部屋の電話を使うところまでは、さすがに思いが至らなかったようだ。
その足で、鳥羽は大学に向かった。
車のこともわかった。
そのことで今日は、大平にゆさぶりをかけてみようと思ったのだ。
相手がボロを出すことを期待して……。
大学の教授棟。
鳥羽は大平の部屋に真っすぐ向かった。
だが残念なことに、この日の大平は不在であった。
――講義かもな?
部屋の前で待っていると、廊下を歩いてきた男に声をかけられた。
「大平先生なら会えませんよ」
「講義ですか?」
「いいえ、出張なんです。今日はもう、ここには帰ってきませんが」
「失礼ですが、こちらの先生ですか?」
「そうですが、おたくは?」
男はたずねてから、鳥羽を頭のてっぺんからつま先までなめるように見た。
「こういう者です」
鳥羽はあわてて警察手帳を見せた。
「警察の人でしたか。私は野仲といいまして、大平先生と同じ助教授をしております。彼とは死んだ柴崎教授の研究室で一緒だったんですよ。そうだ、私の部屋に寄りませんか。少し、お話ししたいことがありますので」
野仲は導くように廊下を歩き、鳥羽を自分の部屋へと招き入れた。
鳥羽にお茶を出してから、野仲が興味深そうな顔で話を切り出す。
「柴崎教授、自殺じゃなかったんですか? でなけりゃ警察の方が、こうしてわざわざ大学まで……」
「今日は捜査じゃありません。先日の捜査のとき、大平先生には大変お世話になりましたので」
鳥羽はウソでとりつくろった。
「では、やはり病気を苦にして。それに息子さん夫婦との関係で、教授はずいぶん悩んでいたようですからね。研究室ではそのことで、よくグチをこぼしていましたよ。まあ、心労が重なったんでしょうね」
「そのようでしたね。で、野仲先生、私になにかお話があったのでは?」
「いえね、刑事さん。もしかしたらって思ったもんですから」
「なんでしょう?」
「じつはですね。教授が自殺するちょっと前のことなんですが……。大平先生、研究の一部をある企業に横流しをしましてね。それで教授に、ひどく責められたことがあったんですよ」
「横流しと言いますと?」
「研究の成果を売ったんですよ。かなりの金を受け取ったらしくて……。大平先生、もしそのことが上層部に知れたら大学をクビになります。研究費は大学から出てますからね」
「で、クビになってないのは?」
「二度としないんなら報告しないって。まあ、教授はそう言いましてね、見逃してあげたんですよ。ですが大平先生、心配だったんじゃないですか。教授の気持ちが、いつ変わるか知れませんものね。それにギャンブルで、借金があったらしくて」
「借金ですか?」
「研究室のほかの者も、かげでは同じことをうわさしてますよ。でも自殺であれば、そんなの関係ないことですよね。まあ、この話は刑事さん、どうかここだけということで」
「もちろんです」
「すみませんねえ、変な話をお聞かせして。ええ、もう忘れてください。大平先生に迷惑をかけてしまいますので」
「ええ、そうします」
鳥羽はなにくわぬ顔でうなずいたが、内心では大変な収穫だと思っていた。
プレゼントをもらった気分で、鳥羽は大学をあとにしたのだった。




