非日常の始まり
目が覚めると1番最初に目にするのは天井だ。だからなんだと自分の感情に対して軽いツッコミを入れながらベッドから起き上がった。窓の外を見ると木の棒を振り回して登校している小学生がいた。元気があってなによりだ。なんて意味の無いことを考えながら俺は下の階に降りていった。
「おはよう。今日は早いのね。」
洗面所から声が聞こえてきた。姉貴だ。
黒色のカラーコンタクトを入れている最中だった。
「あぁ。今日は日直だからな。早く行って仕事をしないといかん。全く面倒だよ。」
俺はため息をつきながら答えた。
「ふぅん。そーなの。」
それで会話は終了だ。
かといって姉貴とは仲が悪い訳では無い。
ただ、これ以上話すことがないだけだ。
「要さ。」
姉貴が珍しく俺の名前を呼んだ。最近は全くなかったことなので少し驚き反応が遅れたが、「ん?」と素っ気なく返答した。
姉貴は、「この目のこと誰かに言った?」と俺に聞いてきた。
「逆に誰かに言ったのか?姉貴は」
俺は答えた。
「いんや。誰にも」
「俺もだ」
「そっか」
そう言うと姉貴は「じゃあ私は行くから。あっ、朝ごはんは食卓の上に置いてるから、勝手に食べといて」と言い残して急ぎ足に家を出ていった。
姉貴は今24歳。職業は…俺もよく分かっていないが確か研究員的なのだった気がする。いや、教師だったか?そう考えながら俺も姉貴と同じように黒色のカラーコンタクトを入れた。
早々と歯磨きと朝食を終わらせ上の階に戻り制服に着替える。時刻は6時半。窓の外を見るとさっき小学生が持っていた木の棒が捨てられていた。可哀想な木の棒だ。俺はどこの木から折れたかも分からない木の棒に同情しながら下の階に降りていった。
靴を履き、外に出ると一気に体が熱くなる。それもそうだ。今は、7月の上旬。梅雨明けで暑さが厳しい頃合いだ。早く夏休みにならないかなぁと考えながら俺は学校に向かった。
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うちの学校はそこそこ名のしれた進学校だ。名前は御白崎高校。俺はその2年7組に属している。俺もその御白崎高校の誇り高き一員であるというわけだ。
学校に着くと俺は職員室に教室の鍵を取りに行った。しかし、行ってみるとそこに教室の鍵は無い。日直の俺より先に来ている人がいるのか?だとしたら相当暇で早起きな奴だな。早く来ているんだったら俺の代わりに日直の仕事をしてくれてはいないかな?と淡い期待を持ちながら俺が教室に向かっていると見覚えのある奴とすれ違った。そいつは両目を金色に染めており、体には見るだけでも痛々しい傷を残している。名前は夢道零。体の傷から分かるようにいじめられているのだ。その理由は至ってシンプル。
ある時からこの世界に生まれるようになった”神眼の加護”を持つ子供。彼はその1人なのだ。その証拠が両目で輝いている金色だ。その異質な眼を人々は”害眼”と呼び、神眼の加護を持つ人々を迫害し続けた。実際のところ、俺と姉貴もその害眼だ。なので俺らは黒色のカラーコンタクトを付け、周りの人間に害眼だとバレないように生きてきた。同じ害眼のものどうし夢道を助けてあげたいのは山々だが俺もそれでいじめに合うのはごめんだ。だから俺は2年生になって3ヶ月、夢道へのいじめを見て見ぬふりをしてきた。最低だというのは分かっているが、俺だって学校での立ち位置がある。申し訳ないが夢道には強く生きてもらいたい。
教室に着くとそこには誰もいなかった。時計を見ると時刻は7時半。そろそろ皆が来る頃だろう。俺は日直の仕事を終わらし、席に着いて1限目の授業の準備を始めた。もう一度時計を見ると時刻は8時になっていた。おかしい。うちの学校は8時半までに登校しないと遅刻になる。しかし、教室にいるのは俺だけだ。それに隣のクラスからも全く声が聞こえてこない。もしかしたら今日は休みだったのか?そう思い後ろに貼ってあるカレンダーを見たが、確かに今日は登校日。祝日でもなんでもない。
「おかしいなぁ」
小さい声で呟きながら俺は何気なく窓の外に目をやった。そこに広がっていた光景に俺は目を疑った。あまりの恐怖に声も出なかった。ただ、俺は窓の前に突っ立って外の光景を眺めていた。
大量の死体が、山のようにそこに転がっていたのだ。