獣が哭く、双子の罠
血の匂いに、焼けた肉の匂い、倒壊した建物、そこから起ち上がる黒煙。
眼前には幼さを残す少女のような女、オリーブのような暗い緑の髪。その手に持つおよそ女には似つかわしくない大きな銃口が私を狙いを定める。
「まぁ、アレだね。相手が悪かったと思いなよ」
屈託のない笑みを浮かべ、少女はためらいもなく引き金を引いた。
今からおよそ一ヶ月前、ある一人の女がある島へ渡ってきた。
その女は多種多様な獣を喚び出し、島は殺戮の舞台となった。
私はその島の唯一の生き残りと言ってもいいだろう。
島が外敵に襲われる以前に、風のうわさで聞いたことがある。
ある辺境な土地に世界最高の狩人いると・・・。
そいつはどんな怪物でも狩り殺すのだと・・・。
「ようこそ、お客様。主が上でお待ちですよ」
金髪碧眼の女性、顔に大きな傷がある。本来なら女性の顔に傷などもってのほかなのだが、不覚にも私はその傷がこの女性の宝飾品のように思えた。
「え・・・、あ。はい」
世界最高の狩人、いったいどんな人物なのか・・・。噂で聞く分には相当に怖い人物なのに違いない。
そう思っていた私は、狩人を目の当たりにして拍子抜けしてしまった。
「私に獣狩りをしてもらいたいんだって?」
狩人は女だった。女性にしては大柄ではあるが、紛れもなく女性。
それもかなりの美人だった。
私の第一印象は「この女が狩人?」である。
それほどまでに普通だ。普通だった。髪の色が紫色という珍しさはあるものの、完全に普通。
「おや、随分と期待を裏切ってしまったかな?よく言われるんだよね~。こんな女に獣が狩れるのか~?ってね」
赤い瞳が私を捉える。
明るい調子、しかし、何故だろう・・・。この女から不気味な印象を受ける。
私は話した。今回の依頼を、そして島の現状を。これは私が狩人と出会った話。