破滅
「ねぇA子聞いた?」
廊下を歩いていたら生徒会の書記を勤めるS美が話しかけてくる。私は適当に生返事を返す。
「そんな場合じゃないよ。JKが逮捕されるって。それも未成年者へのわいせつ行為で」
驚いて声を出そうとした瞬間にS美が私の口を抑えた。JKとは純澤薫の略だ。
とりあえず、私とS美は廊下の端に移動してひそひそ話を開始する。
「声がデカイって……まだ教師と生徒会に関連してる生徒くらいしか知らないんだから」
「でもあいつは……」
私は辺りを見渡しながら先を続ける。
「体重100kgの豚だよね?」
目上の人間に言うのも何だが奴の容姿があれなのは事実だ。その一言にS美が頷く。
「あんなのに触られたりされたらおぞましいね。私だったら金縛りになるわ」
教師にしてはすぐにパニックになったり金切り声を上げるのでみんなが気味悪がっていた。あんなのでよく教師が務まるなと影で散々に言われていた。
噂では誰かの愛人じゃないかとボロクソに言われているを私も聞いている。それが校長だったり教頭だったり教育委員会の会長だったりと──
「そうそう。キメェキメェ」
S美はヤギみたいにキメェキメェと連呼する。語彙力が皆無なので話を進めさせる。
「でさ、相手は誰なの?」
「それがさ、柔道部のD崎らしいよ」
私は言葉を失う。D崎なんて80kg以上ある熊だ。同じ熊ならご当地マスコットの方が可愛げがある。
「酷い趣味ね。でもあいつモテてたし生徒会の誰かと付き合ってるとか噂なかった?」
私とS美は行き交う生徒たちに聞かれないように途切れ途切れに話を続ける。
「あった。と言うか生徒会長よ。しかも本当に付き合ってたらしいのよ」
私が疑問を口にしようとする前にS美は先に口を開いた。
「あの美人の生徒会長を差し置いてJKと付き合う訳ないと思うでしょう?」
「普通はね」
デブ専の可能性も考慮して私はS美が続きを話すをのを待つ。
「簡単な事よ。生徒会長との事をネタに脅していたらしいわ」
その一言を聞いて私は言葉を失った。教師が生徒を脅迫するのかと。
「付き合ってるだけじゃネタとしては弱いわね。突っぱねたら良かったのに」
そこまで口にしてもう一つの可能性に思い至った。
「生徒会長が妊娠でもしたの?」
私の一言にS美が無言で頷く。同時にみんなが窓の外、校庭の方へと視線を向けている。
視線を移すとJKが複数の警察官に囲まれながらパトカーへと乗り込んでいた。こりゃ明日からマスコミが押しかけたりするのだろうと頭が痛くなった。
逆に言うとそんな程度の事しか考えてなかったのだ。