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呪われた宝玉


 それは、その神を崇める者たちから宝珠と呼ばれていた。

 魂を喰らいその内に貯め込んで力と輝きを増すそれを、その神の信徒たちは神の宝珠と崇め奉った。

 宝珠と対面し、その深奥をのぞき込んだ者は皆、美しい緋色の目を見たという。



 それが何か、語る事のできるものは、まだいない。


***


 破られ、使い物にならなくなったローブの代わりに、陣のマントを体に巻き付けただけのアクイラが、ぴったりと陣に寄り添って歩く。

 そのアクイラが転ばないように支えながら歩く陣、二人を見ながらとても複雑そうな表情を浮かべているのはニールだ。


「まぁ、立場上心配よね」

「……古い友人としてもね、あの子、基本ぼーっとしてるから」


 ある程度の情報の共有をしたが、基本的な立ち位置は変えていないニールが、今まで通りの口調でレティシアに答える。一応こっちが素という事で、喋るのは楽らしい。


「……生きててくれて良かったって、心から思ってるわ」


 そういうニールの言葉と態度に、嘘の色は見られない。

 本当に、アクイラの長い友人でもあるのだろう、とレティシアは一人思う。


 二人で黙って陣とアクイラを見ていると、その背後からウルリックが声をかけた。


「ニール、レティシア、ちょいと良いか?」

「どうしたの?ウルリックさん」


 振り返った二人に、ウルリックは言葉を続ける。


「この辺りの建物、エイグリズドの聖印が書かれている物が多い……注意してくれ、万一、という可能性は十分にある」

「判ったわ」

『となると、お嬢と坊主をも少しこっちに引っ張り寄せたほうが良いな』


 レティシアを補足するように、リーンヴルムが呟く。

 気を使っているのか別の理由か、アクイラにあまり強く出れない陣は割とアクイラに引っ張られるままになっており、その追随をするニールとレティシアは意外な苦労を強いられた。

 リーンヴルムが居なければ、下手をすると見失っていたかもしれない。


『おーい、坊主、お嬢ともーちょいこっち寄ってくれ』

「判った、リーンヴルム」


 アクイラの手を引いて、陣が離れた場所から戻ってくる。

 つなぐ手に、小さな温もりと確かな質量を感じて。

 陣はそこに、自分と同じ痛みを分かつ人が居ると感じていた。


***


「魂食いの宝珠?」

「うん、エイグリズドの秘宝の一つでね、死んだ人間の魂を取り込み、閉じ込める宝珠」


 一度全員で集まり、レティシアとニールが感じた違和感と、そこから予測されるものを皆に伝える。

 やはり何のことだか判らない陣に、アクイラが横から説明を入れる様を見ながら、レティシアがもう少し、と説明を続けることにした。


「……そんなことして、なんになるんだ?」

「色々あるみたいだけど、一番はゾラの生成さね」


 嫌なものの存在の可能性を聞いた、とばかりにマリグナが渋い顔を隠そうともせずに答える。


「ゾラ?」

「あいつらの隠語さね、正確に言うならゾーリン・クリスタリウム……人の魂を集めて、固めて作り出す、莫大な魔力を持ったクリスタルだよ」

「……魂から、鉱石を?」

「正確には鉱石じゃねぇな、結晶化した魂を圧縮して、一塊にしたもんだ」


 役職柄、「製造過程」に出くわしたこともあるのだろう。

 ウルリックが渋面を隠そうともせずに続ける。


「とにかく沢山の魂を、鋳つぶすみてぇに一塊にして、固めるんだ……とにかく、気持ちのいいもんじゃないぜ」

「そしてそうやって作られたクリスタルは、とんでもない力を長期間に渡って放出するようになるの……そして、その莫大な力を一気に噴出させる仕組みと組み合わせれば……」


 それは、人の魂を媒体に使った魔術的な爆弾となる。

 その可能性に思い当って、陣は知らぬうちに手を握りしめていた。

 動力としても、兵器としても非の打ち所がない宝石となるのだろう。

 となると、この誰もが死んだ街にその製造機を持ってエイグリズドの使徒が居るというのは、酷く現実的なものに思えた。


「……生成を妨害するには、どうすれば?」

「簡単さね、宝珠を破壊するか、思いっきり魔力をぶつけてやればいい」


 陣の言葉に、マリグナがさらりと返す。

 対策が判りやすい、という事は、おおよその場合その妨害もされている、と考えるべきだ。

 陣の頭の中が思考で満たされる。

 ともあれ、その宝珠を見つけない事にはなにも始まらないというものだが、それは同時に相手の懐深くに飛び込む事にもなる。


「それに、サ……そういうのを持っているのは、たいていの場合そこに居る集団の首魁、ってもんサね」


 軽く指を振りつつ、マリグナがそう締めた。


「首魁」

「あぁ、ともすれば……」


 あんたの探してたコの魂を弄ぶ連中に、復讐の一撃を入れる事も、できるかもしれないネェ

 そう呟いたマリグナの言葉は、なぜか陣の耳に残った。


「ジン……くん……」


 不安そうに握るアクイラの小さな手が、陣の中の何かを繋いでいる。

 それを知る者は、他に居ただろうか。

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