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崩壊の中の脱出


 竜が苦痛に満ちた悲鳴にも近い声を上げる。

 アクイラの魔術が貫いた破砕口から魔力炉内部を満たしていた液体が噴出する。

 響く悲鳴に、アクイラが手を緩めることは無い。間髪入れずに再度の魔術が、今度は別方向から炉を貫通する。

 破砕口から新たに血のように液体が噴出し、竜が苦痛の声を上げる。

 竜が悶え苦しむようにのたうち、口からブレスではなく、真っ黒な血を吐き出す。

 強烈な腐敗臭が、その竜の命がとうの昔に尽きている事を雄弁に物語っている。

 苦し紛れの雷が次々と打ち出されるが、どれも狙いが甘く、おおよそが見当違いな方向へと飛んでいく。


 最早無理に攻撃を仕掛ける事もない。炉内の液体が噴き出る勢いが弱まる頃には、水中で浮いている状態だった内臓を保持する事ができない竜は、その動きを止めていた。


 竜が完全に動かなくなった時、アクイラが竜の頭に手を置き、何事かを呟く。

 それは陣にとって何を言っているか判らない言語であった為、その意味を知る事は出来なかった。


 施設内が一瞬暗くなり、直ぐに灯が戻る。

 魔道竜炉が完全に死に、補助動力に切り替わったのだろう。


 それとほぼ同時に、建物内の明かりが赤いものに切り替わり、警報が鳴り響く。


「こ、今度はなんだい!?」

「判んないけど……やな雰囲気ね」


 素早くマリグナが周囲を見回し、レティシアが矢筒に手を伸ばす。


 不意に、壁の一部が発光し、そこにこの遺跡の地図らしき図が浮かび上がる。

 地図の横に流れる文字、それを読む事の出来るアクイラとリーンヴルムの顔色が青く変わる。


「お、お嬢……こりゃ……!」

「……!」


 飛びつくように近くのクリスタル板に魔力を流し、それを探る。

 しかし、当然のように見つからない。


「ダメ……暗号が解けない」

「おい、アクイラ嬢ちゃん、何が起こってるんだ?」


 尋常でない様子のアクイラに、ウルリックが話しかける。


「……さっきの、終わりの牙、覚えてる?」

「あ、あぁ……」


 どうしようもない、そう理解したアクイラの足から力が抜ける。

 座り込み、呆然と地図の赤く記された部分を見ながら……


「あれが、発射される」


 絶望だけが込められた声音で、そう告げた。


***


 その場の誰もが、その意味を理解できなかった。


「……すまん、いまいち状況が呑み込めないんだが」

「終わりの牙……あれが世界を焼き尽くすほどの力を持つ破壊の為だけの武器である事は、話しました」


 その意味に気付いたものが、ハッとした様に浮かび上がった地図を見る。

 地図は切り替わり、今彼らの居る遺跡と、地図上の一点を線で結んだ。


「終わりの牙自体の力も、弱まってはいるけど……それでも、まだ街一つ消し飛ばす位は容易い……」


 それを耳にした全員が、地図上の線が終わる地点に何があったかを思い出す。

 攻撃地点は、ルーナリア峡谷海の南……


「南街……!」

「っ……!なんとかできないか?あそこは……!」


 その攻撃目標地点に何があるか、それを理解した、理解してしまった。

 この遺跡がまだ遺跡でなかったころ、そこにあったのは反乱軍の拠点。

 おそらくそこを、終わりの牙で根こそぎ焼き尽くすつもりだったのだろう。あるいは、交渉の材料だったのかもしれない。

 しかし今は、ただの大きな街であり、ドラゴニアの存在など知らない人の方が多数だ。

 何か方法は……そう考える陣の耳を、引き攣ったような声が打った。


「ね、ねぇ……アクイラ?さっきから何か、数を数えてるみたいに減ってるんだけど……」


 嫌な予感と、それを認めたくない、という声音が隠し切れない状況で、ニールが動き続ける部分を指さす。


「あ……にげ……ないと……」


 それを見たアクイラが、なんとかという感じで声を紡ぎ出す。


「自壊の魔術が、発動してる……もう、止められない……」

「じ、自壊するならあれも……」

「ダメ……」


 アクイラの言葉に重なるように、振動が遺跡を襲った。


「もう、遅い……」


 地図に浮かんだ光点、それが何を意味するのか全員が理解した。


「と、とにかく、今はここから逃げる事が最優先サね!」

「くっ……」


 何もできない、それを理解して陣は弾道を示し続ける映像を睨みつける。


「アクイラ!立って!」

「ダメ……力が……」


 事態を理解してしまったアクイラは、高度の魔術を連発した疲労感にも襲われ、体に力が入らなくなってしまっている。


「アクイラ、ごめん!」


 それを理解した陣の動きは速かった、座り込んだままのアクイラを横抱きに持ち上げ、膝下に腕を回して安定を確保する。

 更に強烈な揺れがその場を襲う、時間をかけては居られない、とその場の全員が元来た道を走り出した。


***


「あぁっ……!クソ!」


 それを見つけたマリグナが悪態を吐く。


「ま、ここを潰さないって事はないわな」


 ウルリックもまた、判ってはいたが信じたくはないらしい。

 彼らが進んできた通路は、その一部が破壊され、瓦礫の山と化していた。


「くそっ……どうする、何か方法は……!」

「ジン……くん、そこのクリスタル板、近づいて」


 陣に抱き上げられたまま、アクイラが声をかける。

 それに従い、陣が壁に埋め込まれたクリスタル板に近づくと、アクイラの流した魔力に従い、地図が現れる。


「……中央制御室からさらに下って……次の扉、ここに、脱出用の仕掛けがある」


 迷っている余裕などなかった。全員が顔を見合わせて、頷き。

 逃避行が再度始まる。


 彼らを妨害するかのように、金属兵が立ちはだかり、攻撃を繰り返す。

 しかし構っている暇も余力もありはしない。

 ウルリックのシールドチャージで道を切り開き、立ち上がろうとしたところで、レティシアのエレメントスペルが金属兵を拘束する。

 それを足を止める事無く行う。完全な足止めなど望むべくもない、時間が稼げれば良い。


 ほどなく、いくつもの球形の乗り物がある場所へと、全員が転がり込んだ。


「……あれ、一番、大きいの」


 素早く全体を見回したアクイラが、支持を出し、それに従って全員が飛び乗った。

 神の怒りのプリエスティエで金属兵を押し返したウルリックが、入り込むと同時に入り口が閉まる。

 陣に抱えられたままのアクイラが、小さなクリスタル板を操作している。


「皆、衝撃に備えて!」


 返事を待つ時間も有らばこそ、彼らを乗せた球体はすさまじい速度で湖の中に打ち出され、湖面に向かって急上昇していった。

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