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貫く一撃


 鋭く突き出された穂先は、しかし竜の鱗を貫くことなく弾かれる。


「っ!」


 直ぐに後方へ跳ねる陣の目の前を、一条の雷が貫いた。

 こんな状況下で雷を生み出すからには、魔術の一種なのだろうが、陣は全身に静電気を浴びせられたような衝撃を感じた。


 まずい、と理性ではなく本能が警告する。

 おそらく、あれは「出だし」が魔術で、攻撃に使っているのは天然の雷だ。

 当然のごとく「起点」は手の届くような所にはなく、ほぼ、雷が狙いをつけて落ちてくる状況に舌打ちしつつ、無駄と思いながら距離を取った。


「っ……どうするかな」

「近寄る隙もねぇたぁ、こういうこったな」


 同じく雷の嵐から逃げて後方へ下がったウルリックが陣のボヤきに律儀に答える。


「見てて判ったけど、あいつの雷、あいつの周り……大体自分の腕の長さ位の範囲しか自由に落とせないみたいね、後、範囲を広げると狙いが雑になってるわ」


 他の誰よりも雷による一撃が致命傷となりえるニールが、観察して判った事を簡潔に伝える。


「避け切れないまでも逃げる事は可能、か」

「近接攻撃をするのが余計面倒、ともいえるサね」


 魔術を込めたタリスマンをいくつも放り投げ、簡易的な氷の壁を生み出しながら、マリグナがウルリックの言葉を続ける。

 雷をよけ、ブレスをよけ、爪をよけ、その上で攻撃しなければならず、さらにそこまで近寄ると竜そのものが食いついてくる危険もある。

 体の自由は効かないくせに、隙が無い。


 敵が固まったからか、あるいはただの反応か、ブレスを吐いてくる竜に対して、陣達は再度散らばる事を余儀なくされる。

 まともなダメージソースはアクイラの魔術位だが、攻撃の間隔が恐ろしいほど開いてしまう。

 どうすればダメージを与えられるのか……陣は改めて敵を観察する。

 ぱっと見で判る外に出ている部分は、多分頭部と同じで攻撃は通りが悪いだろう。

 狙いやすそうな胴体は丸々と機械の中に閉じ込められている。

 炉に繋がれた竜は絶えず吠え声を上げており、あれが苦しみ喘ぐ声だとすると若干の哀れを感じなくもないが、それに囚われても仕方ない。


「……あの機械……」


 改めて目に入ったのは、竜の胴体を包み込む金属の炉本体。

 その内部に浮かぶ竜の胴体は、既に内臓が見えて居るほどに腐っており、あれを破壊すればあの竜の命を繋いでいる僅かな部分も巻き添えで破壊されるだろう。


「炉の、胴体が入ってる部分……壊せる?」

「……判らない、けど、やってみる」


 アクイラが杖を構え、集中する。

 その前にウルリックが立ち、守りを固め、陣は再び雷の範囲内に飛び込んだ。

 レティシアとニールが放つ矢と、マリグナの魔術の媒体であるタリスマン、それらを迎撃しながら、陣の接近を防ぐよう雷を落とし続ける竜。


 竜の雷を落とす頻度が下がり、その手に強烈な魔力が集まり始める。

 アクイラが魔術を使う為に集中しているかのような変化に、レティシアが矢を打ち出す速度を速め、ニールが手に攻撃を集中し始める。


「ウル………ゴラァズ………ネェグライド!!」


 唸りにも似た声を上げながら、竜が力を溜めた手を振り下ろす。

 その軌跡に沿って白熱化した力の流れが触るものすべてを焼き尽くしながら近づいてくる。

 無数の雷球が発する高熱により、プラズマ化した空気が襲ってくる。


「精霊達、壁を作って!」


 レティシアの呼びかけに答え、土の精霊達が通路一杯の大きさがある壁を作り出す。

 プラズマ嵐は土の壁を打ち破ろうとして、その動きを強制的に止められる。


 そう、それがただの土の壁ではなく、精霊の力によって作り出された壁であるが故に。

 防御壁に精神力をごっそりと持って行かれたレティシアが膝をつく。すぐにマリグナが駆けよって精神力治癒のため魔石をレティシアの口に放り込んだ。

 レティシアが苦虫と一緒に魔石をかみ砕くのを確認しながら、アクイラが詠唱の詰めに入る。


 竜の放つ攻撃の数と密度は上がり続け、明確にアクイラを狙い始める。


 ウルリックが耐えきれず、その盾が弾かれる。

 ならばこの身を盾としてでも、と両腕を広げ腰を落とすウルリックの前に、陣が飛び出してきた。


「ジン!?」


 直撃。


 竜の放つプラズマ弾がいくつか、陣にぶつかる。

 正確には、陣の突き出したハルバードの切っ先に。


「精霊達、持ってくれ!」


 咄嗟に陣が行った事、それはハルバードの切っ先を媒体として、超低温の状態を作り上げ、プラズマを消し去る事だった。

 無論、事象としてのプラズマがそんなもので消える訳がない。しかし、プラズマの様な形をした魔術であるなら話は別だ。


 ハルバードの刃を覆う様に作り出された水の膜、それがもつ水の属性が、プラズマの火の属性と食い合う。

 ぶつかり合う魔力は強烈な火花にも似た反応を示しながら互いの力を弱める。

 そう、いずれ陣の身を護る水の精霊力も底をつく……そのはずだった。

 ハルバードの刃に取り付く、無数の精霊たちの存在が無ければ。

 水の精霊達から絶えず、水の力が送られ続け、結果として、プラズマが消し去るよりも多くの水の属性が補充される。


「いぃけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 吠えるように陣が叫ぶ。最後に残った巨大なプラズマを文字通り体ごと、という勢いで貫き……アクイラの視界一杯に、狙うべき目標が現れる。


「重ね、束ね、廻り、廻り、廻り、廻れ、其は小さきもの、知られざる者、存在する者、力持つ者」


 アクイラの詠唱が進むたびに、彼女の持つ杖に、螺旋を描く光が浮かぶ。

 それは回転速度を上げ、うっすらと雷鳴を帯びるようになる。


「我は放ち貫く、其は憤怒の雷鳴、大いなる天雷!」


 アクイラが振り下ろす杖が、指し示す様に魔導竜炉を指す。

 その先端から放たれた、螺旋を描く雷の槍が、魔導竜炉の本体……魔導炉を貫いた。

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