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強大なる魔導竜炉


 マリグナの開錠が、最後の一押しだったのかもしれない。

 開き始めた扉の向こうから、濃密な、としか言い表せない魔力が「圧」となって押し寄せた。


『ウィル……レェド……ラィグム!!』


 声と同時に、強烈にして純粋な魔力の塊が、吹き荒れた。

 防御など考えるべくもない力、それはまさしく、それこそがこの遺跡のコアともいえる存在であることを示していた。

 唸り声と言葉の中間の様なそれは、間違いなく竜語だと、アクイラは判る。

 しかし、それを発しているもの……

 それを果たして竜と言っていいのか、誰にも答える事は出来なかったはずだ。


 巨大な機械に取り込まれるかのような、灰色の鱗を持つ竜。

 その胴はすっかりと機械に取り込まれ、わずかに覗く頭部は、ある程度までしか動かせない。

 その瞳はもはや何も映してはおらず、ただただ狂気だけが燃える。


「……魔導竜炉」


 混乱と怒りが混ざった声が、聞こえた。


***


「まど……?」

「魔導竜炉……ドラゴンそのものを動力源として組み込んだ魔力の炉さね……ある事は知られてたけど、これまで発見されたのは全て死んだものばっかりサ」


 よりにもよって生きてるとは、とマリグナが舌打ちする。

 生きている限り魔力を産む竜を動力源として取り込み、その魔力を吸い上げる事で施設そのものを動かす。

 生きたまま、死なないギリギリまで魔力を吸い上げられる、その苦痛たるや想像もできぬほどの物だろう。

 ましてそれは全て機械によって、全自動で行われる。

 人も通わない地下で、ただただ機械によって魔力を搾取される。

 その痛みは、屈辱は、怒りは、いかほどの物か。

 三角帽子を深く下げたアクイラの表情は、読み取れない。


「壊しましょう」


 鋭い、有無を言わさぬ声が、彼女の唇から発せられる。


「誇り高きドラグとして、死ぬことでしか、彼は救われない」

「……アクイラ?」

『あぁ……ボウズにゃ判らねぇか、あのドラグ……竜はな、もう死んでるんだよ、魂だけが、死骸に括りつけられている』


 アクイラの代わりに、リーンヴルムが声を発する。


『それでも魔力は生まれる、竜だからな……それが続いた結果、魂が体に固着しちまった』


 その結果があれだ、と言葉を締める。それを受けて改めて観察すると、確かに首や腕の先などの生体部分は一部腐ったようになっており、炉の内部に収められた胴体も、一部骨が露出しているようなありさまだ。


「だから……もう、体ごと壊すしか、ないの」


 どっちにしても、放ってはいけないだろう。どうにかしようにも、無力化する手段は思い浮かばない。

 そして、戦いは避けられない。

 アクイラに集まっていた視線は、それぞれが仲間を一巡し……

 全員が、頷いた。


***


 それは、苦しんでいた。

 死んだ体に、括りつけられた朽ちた魂。

 最早この世に在る事、それ自体が苦痛。

 それでも決して、逃れる事はできない。

 痛みにのたうち、苦しみにあえぎ、叫ぶ。

 そうしてのたうつが故に、痛みは強まり、その痛み故に、のたうち回る。

 救いなどないと知りながら、長い時を滅びの瞬間まで救いを求めて苦しみ続ける。


 不意に、膨れ上がった魔力が指向し、それに幾条もの魔力の矢が放たれた。


「力は、集う、形作る、竜鱗を貫く、見えざる槍!」


 アクイラの詠唱を受け、魔力が収束して巨大な槍を作り出す。

 一つだけでも成人男性の倍はあろうかという大きさの槍を、同時に三つ。

 それが次々と放たれ、竜の首を貫いた。


 無論、その程度で動きとめるようならば竜ではない。

 痛みに、さらに激しくのたうち回り、あたり構わずブレスを吐き出す。

 吹き出された魔力の奔流がアクイラを捉えるよりも早く、ウルリックが盾を構えてアクイラの前に飛び出した。


「神は勇気ある者に盾の加護を与える!」


 短い詠唱の後、ウルリックの構える盾がうっすらと光を放つ。

 抗魔のプリエスティエが発動し、ウルリックの構える盾の範囲よりもはるかに大きな円が竜のブレスを弾く。


「神の御光は邪悪なるものを打つ!」


 続いての詠唱、ウルリックの持つ槌が白い光に包まれる。盾を押すブレスの圧に負けまいと、ウルリックは大きく一歩踏み出した。

 アンデッドである竜からは、浄化の光は忌まわしい物と感じるのだろう、ウルリックに向けられるブレスの力が強くなっていく。

 ともすれば弾き飛ばされそうになる盾をしっかりと握り、ついにウルリックの射程に竜の頭が入った。

 吐き出されるブレスを槌と、それに込められた魔力で押し返しながら、強烈な一撃が竜の顎に叩き込まれる。

 重い一撃の衝撃に、竜の頭が殴られた方向へと大きくかしがる。

 何物をも映していない目に、明確な怒りが浮かんだ。


 大きく、戦いの場を睥睨するように頭を持ち上げ、大口を開け、頭部後方に伸びた襟飾りから伸びる、8本の竜骨の角を雷鳴が這う。


『ゴル……ウォード……レイグ!!』


 戦場全体を覆いつくすようなプラズマ嵐が、その一言で解き放たれた。


「うおっ!?」

「っ……!」


 すぐさま、盾を掲げるウルリックと、その影に隠れるアクイラ。

 それでも、完全にダメージから逃れられるわけではない。


「神よ、癒しの御手もて、傷つきし者に立ち上がる力を!」

「生命の精霊達、おねがい……!」


 ウルリックが癒しの加護を願い回復を図るが、とても間に合うものではない。

 マリグナが竜に向けてタリスマンをいくつも「乱れ打ち」する。その一つ一つが強烈な爆発を起こし、それに竜が怯んだ隙に、レティシアが生命の精霊に語り掛け、ウルリックとアクイラの傷をいやす。


 時間を稼ぐため、マリグナがもう一度タリスマンを取り出し、ニールがマリグナとの十字砲火の為位置取りに走る。

 そして、竜の正面から、陣がハルバードを構えて飛び掛かった。

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