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呼び声


 飛び出した陣を、炎が掠める事は無かった。

 打ち出された炎は、陣を焼く前に、次々と消滅する。

 機械はそれに疑問を抱く事はなく、ただ与えられた命令に従い、ターゲットに炎を打ち出し続ける。

 そんな機械に向けて、風を纏った矢が射かけられた。

 放たれた矢は正確に機械と、その奥にある魔導石を貫く。

 沈黙する機械、陣は盾替わりに構えていた金属板を下ろす。


 焼け焦げた通路の真ん中に立つ、無傷の青年……それは、この世界にありながらこの世界の物ではないという「常とは異なる」モノを見た者に感じさせた。


「……」


 たぶん、それを最も感じ取ったのは、アクイラだろう。

 心配そうな、不安そうな、そんな視線を自分に背を向けている陣に向けている。

 見定めたのは自分だ、あれくらいなら余裕で防ぐと確信もしていた。

 けれど、不安は消えない。

 すべては足して零となる。

 大きな力には大きな代償が伴う。

 彼の身を護る「力」は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それがいつになるか、何を起点としてそうなるのか。

 それは神ならぬアクイラには判らない事だった。


***


 遺跡……かつての軍事施設の通路を進む。

 時として細く、時として乱雑に物が積み上げられた通路は、それが外敵の侵入に対して防御を行っていたのか、長い時の流れの中で破損が見られるようになってきたのかは、判り辛いものであった。

 ただ、山と積まれた頑強ながらくたの向こうに魔導射撃型の魔道具がある、という事がだんだんと増えてきている。


「まったく、角一つ毎にあれが付いてるのかい」


 衝撃の魔術をタリスマンに込めたマリグナが、タリスマンを放り投げる。

 放たれた魔術は強烈な衝撃波を生み出し、ターレットの照準をあらぬ方向へ捻じ曲げる。生まれた射撃の隙間を逃さず、ニールとレティシアの放つ矢がターレットを破壊した。


「確かに、だんだん多くなってくるわね」

「奥が近いんじゃない?それか、この先によっぽど行ってほしくない所があるか」


 ニールがここまでマッピングしてきた施設全体の通路を改めて見直す。

 施設全体はコの字をした通路を中心に作られており、片方の端からもう片方の端へと往復しながら降るような作りになっている。

 通路の長さは恐ろしいほどに一定であり、この遺跡が正確な設計の下に作られていることを物語っていた。、

 不意に、アクイラが歩を止めた、においを嗅ぐように、あるいは耳を澄ます様に、目を閉じて何かに集中している。


「……」


 それはリーンヴルムも同じだった、まるで小さな、気を抜けば聞きそびれてしまう音を聞くかのように集中している。


「……どうしたの?リーンヴルム」

『いや、相棒……この先から嫌な声がしたんだ』

「……何も聞こえなかったけど?」


 リーンヴルムの言葉に、レティシアが怪訝そうに返す。


『まー、聞こえるのは俺とお嬢位っていうか……』

「お嬢はやめて……レティシア、確かに声が聞こえた……これは、古代竜語」


 その言葉に、陣を除く全員の動きが止まった。

 最早伝承の中にしかその存在を確認する事も出来ない古代竜(エンシェント)、それがこの遺跡に居るというのか。


「……安心して、生の吠え声じゃない……魂の声音」

「それだって、アタシらには全く安心できない要素サね……まぁ、生きてるよりはマシ……」

「でもねぇぜ、マリグナ……アンデッドかもしれねぇ、ドラゴンそのものにせよ、ドラグニュートにせよ、面倒くせぇ事この上もねぇ」


 マリグナに続いてウルリックがどうしたものかと天を仰ぐ。生憎と見えるのは天井位だが。


「……ともあれ、進もう……実際に見てみないと、なんとも言えない……から」


 それだけ言うと、アクイラが再度歩き出す。

 それに促され、一同は更に歩を進めていく。


***


「アクイラ」


 暫く続く沈黙、それを破ったのは陣の声だった。


「大丈夫?さっき声が聞こえたって言ってから、少し顔色が悪いけど」

「大丈夫……心配、してくれてるの?」


 小さく首をかしげていうアクイラに、陣は答える。


「あぁ」

「ありがと、けど、大丈夫……だよ?」


 細く閉じた様に見える目の端を少し緩めて、アクイラが言う。


「……なら、いいけど」


 陣は心配そうにしながら、それでも大丈夫というアクイラに頷いて見せる。

 実際の所、直ぐにアクイラの表情は少し硬い物に戻り、視線は真っ直ぐに未知の先に待っているであろうものを見据えている。

 まるで、それが見える見えないは関係ないかの如く。


 陣は、それを少し心配に思った。

 その具体的な正体までは判らなかったけれど。


 ほどなく、一行の前にしっかりと閉じられた扉が現れる。

 その横に貼ってあるプレートにはなにやら文字らしきものが書かれていたが、陣はもとより、マリグナをはじめとして読めないものの方が多かった。


「……この、先に……いる、よ」


 普段より言葉少なになっているアクイラが、言う。

 その言葉に、全員が振り返った。


「さっき言ってた、声の主かい?」


 マリグナの言葉に頷く。


「マリグナ……それを開けたら、気を付けて」

「どっちにしても開けなきゃ、進むことは出来ないサね」


 マリグナが扉に張り付き、カギは無いか、トラップの類は仕掛けられていないかと一つ一つを丁寧に確認していく。


「よし、トラップは無し……開けるサね」


 全員がマリグナの言葉に答えて頷く。

 マリグナの指が機構の上を走り、扉がゆっくりと開いた。

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