突破の為に
遺跡の守護者たる金属兵がその本領を発揮してきたのはそこからだった。
「くそっ……近づけねぇ」
「……ウルリック、さん……大きいので、薙ぎ払う、から……盾、お願い」
「合図は?」
「蹴っ飛ばす」
「そりゃいいや……しかしタイミングが……」
狭い通路一杯に盾の役割に特化した金属兵が陣取り、その合間から射撃戦に特化したタイプが文字通り矢嵐を起こす。
「風の精霊達、壁を作って」
それがごく普通の矢だと気づいたレティシアが、精霊達に呼びかけ通路の真ん中に強烈な風の壁を生み出す。
生み出された分厚い空気の壁を貫けるほどの勢いを持つ矢は無かった、生み出された隙を逃さず、ウルリックが盾を構えて通路に躍り出る。
その背後に移動したアクイラが杖を掲げて詠唱を始める。空気が揺らぎ、風の壁が消えようとしている。
打ち出される矢は、ウルリックの掲げる盾に阻まれ、アクイラまで届くことは無い。
すぐに、打ち出される矢の軌道に変化が生まれた、ウルリックを飛び越えるように、放物線を描く形に。
それに気づいたマリグナが、手元のタリスマンに魔力を込めて投擲する。
発動した魔術は、炎。狙った相手は、前衛の「盾」
投擲された青い炎が金属兵の足を歪め、鉄壁の防御に隙間を作り出す。
ほぼ同時に、詠唱を完了したアクイラがウルリックの右足を外から蹴る、それに合わせて、彼は左へと大きく飛んで遮蔽の中に逃げる。
「雷鳴の、嵐」
最後の一言が発せられると同時に、通路全体をプラズマの嵐が覆った。
***
魔術の効果が収まった時、金属兵達は全てその機能を停止していた。
アクイラが構えていた杖を下ろし、軽く息を吐く。
「終わった、よ」
「相変わらず、おっそろしいわねそれ」
恐ろしいまでの威力に硬直している他のメンバーよりも、まだ慣れているニールが呟く。
「これでも、手加減した、よ?」
「やめて、かえって怖くなる事言わないで」
きょとんとするアクイラに突っ込み入れつつ、ニールは形を保ったまま、内部を焼かれて機能停止している金属兵達を見る。
最早金属塊と化したそれをマリグナが調べていた。
只管真剣な表情で、外装を外し、胴体内に不味い仕掛けが無いかを確認する。
「随分、念入りだな」
「こいつらの中に、死んだ後でタイミングよく爆発して、周り一帯を引き裂く奴がいたりするサね」
おぉ、怖い怖い、とウルリックが大げさに怖がって見せる。
しかし、マリグナは至極真面目だ
「総金属製の鎧を着こんだ戦士が、鎧ごとずたずたにされてた事もあったサね」
「そりゃ……半端ないな」
まさかそれほどとは思っていなかったようだ。
それを横目に、マリグナが続ける。
「こいつらはほんと、油断ならないサね」
一通り、胴の装甲を外して、仕込みが無い事を確認するとマリグナは息を吐く。
「……そこまでしなくても、そんな仕込みがあったら、魔術の効果時間内で爆発してる……よ」
呆れた様な口調で、アクイラが言う。
「そうかい?けど、万に一つって事もあるサね」
「斥候は用心深いもの、ですか?」
陣の言葉に、マリグナが「へぇ」と目を細める。
「なかなか洒落た事を言うじゃないか?」
そんなマリグナの言葉に、陣は「ただの受け売りですよ」と苦笑して見せた。
***
遺跡はさらに深く、旅人たちをいざなっていく。
その内に「破滅」を秘めた古代の軍事施設……。
しかし、より最悪は既に世界に放たれていた。
それをまだ、誰も知らない。
遺跡探索も最奥近く、陣達はその扉の前で足止めを受けていた。
「ったく……いくらドラゴニアの遺跡だからって、見た事も聞いたこともないのはやめてほしいもんサね」
「形は見た事無くても、やってくる事は既知ですよ……かなりハデですけどね」
直線の通路の反対側、天井に張り付けられた機械から、絶え間なく炎が噴き出し、炎の弾丸が打ち出されてくる。
(ターレット……どんな文明でも同じような設計思想のモノは出てくるって事か)
射線から逃れた状態で、どうするか、と陣は考える。
どうにもこの世界のターレットは、弾切れを期待する事はできなさそうだ。
マシンガン並の速度で、3分近く打ち続けられれば、それくらいの察しは付く。
そしてこれまでの傾向を考えれば……
たまたま近くに転がっていた金属兵の装甲に対魔術の防御札を一枚張り付けて、射線に突き出してみる。
1発だけ炎の弾を弱体化させ、金属兵の装甲は弾き飛ばされた。
(なら、後は……)
アクイラと目があった、彼女は心配そうに陣を見ている。
次に目が合ったのはレティシア、こちらは「どうする?」と視線が訪ねてきていた。
「突っ込みます、レティシアさん、相手の攻撃をひきつけるので、通路奥の仕掛けを狙ってください」
「判ったわ、無茶しないで」
「無茶せずに変えられる状況じゃないです」
盾替わりに金属兵の装甲を一枚構え、胸と頭、腹を守ると……
陣は、ターレットの放つ炎の中へと飛び込んだ。