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見えざる危機


 陣達が遺跡に向かってから少し後……


 鉄工街のスラムの一角で、不意に空間が揺らぎ、一人の年老いた男が転がり落ちてきた。


「う……ごほっ……ごほっ……!」


 何度も苦しそうにえづき、咳き込む老人に、一人の男が近寄る。


「おい、爺さん、大丈夫か?しっかりしろ」

「ごほっ……ごほっ……!……ごほっ……!」


 発熱と、咳。老人が風邪をひいていると判断した男は、彼を担ぎ上げると施療院へと向かった。


***


 遺跡の地下は、そうとは思えないほどに明るかった。

 上層が抜けた訳ではない。天井が、まるで陽の光を通しているかのように発光している。


「こいつぁ……」

「なんともはや……どう言ったもんかねェ」


 それを見たウルリックとマリグナはそろって困惑の声を上げる。


「……」

「……」


 それを見て頭を抱えたのは、アクイラとリーンヴルムの二人。この状態にだけはなっていてほしくなかった、と言いたげだ。

 他の面子……特に陣は、それを見てまさしく呆然としていたに違いない。


「なんでだよ……」


 分厚い窓の向こうで「発射体制」を整えられたそれは、今は仮初の眠りについている。

 そしてその眠りを覚ます魔術は、とても簡単にかけられるはずだ


「なんで、これがこんな所にあるんだよ……!」


 深く掘り下げられたシャフトの中に、巨大な塔が建てられている。

 陣とアクイラ、リーンヴルムを除く全員がそう思った。


「……これは、終わりの牙」


 呆然としている陣の耳に、アクイラの声が入った。


「ちょっとした機械的な操作だけで、これはここを飛び出し……世界を、焼き尽くす程の破壊の力を振るいます」


***


「ちょっ……アクイラ!?口調!!」

「あ……」


 ニールの言葉に、我に返ったアクイラが「しまった」と言いたげな表情を浮かべる。

 そんな反応が出る辺り、ここに配備された物は彼女の想像以上だった、という事だろう。


「ふーん、ま、そんなこったろうとは思ってたけどネ」


 そこからなにかを察したらしいマリグナが呟く。


「まーいいサ、今気にしても仕方ない……で、ここはどーいう所なんだい?」


 マリグナの促しにどうしようか、と躊躇うアクイラ。

 そんな彼女をフォローするかのように、声が聞こえた。


「その、終わりの牙を打ち出す為の、制御施設、そうでしょう?」


 言葉を紡いだのは、呆然としたまま終わりの牙を見ていた、陣だった。


「ジン……くん?」

「すみません、けど、似たような施設は知識として知ってるので……ここは遥か昔の軍事施設、しかもまだ一部は生きてる……あってますか?」

「……」


 何も言わずに、アクイラが頷く。


「それで、あってる……ここは、ドラゴニアの忌まわしき遺産……その一つ」


***


 ドラゴニア……正確にはドラゴニア中央大陸連邦

 遥か古代、この大陸に覇権を打ち立てた超巨大国家。

 大陸南部を中心に、その独特で特殊な技術を持って君臨した巨大国家がなぜほとんどその痕跡も残さず滅びたのか。

 陣は、その答えの一端が此処に在ると感じた。


「ここは、ジンくんの言った通り、戦いにおいてドラゴニアが不敗を誇った理由の一つ……あれがどういうものかは、最奥を目指すうちに皆にも、判ると思う……よ」


 アクイラはそれについて多くを語らない。

 誰かが何かを言う前に、次の部屋へと進む。その姿は、まるで罠などそこには無い事を知っているようだった。


「……ふ……ん」


 それを見て、何か言いたげながらも直ぐに追いかけるマリグナ


「……リーンヴルム、説明」

『勘弁してくれ相棒……どうしても言えない事ってあるもんだぜ……』


 リーンヴルムに詰め寄るレティシアと、答えられずにたじたじになるリーンヴルム。


「亜人も亜人で、色々あるもんだな」

「あら、動揺しないのね?ウルリックさん」

「ま、30年以上人間やってりゃ似たような事には何度か出くわしてるからな」


 意外、と言いたげなニールに、ウルリックが肩をすくめて見せる。

 全員に共通しているのは、既に歩き始めている事。


「ジン、先、行こうぜ」

「はい、今向かいます」


 陣も、ウルリックに促され、大量破壊兵器と推定されるそれから視線を外し、歩き出す。


 ただ、もしも、を適用するならば……この時彼はそれから決して目を離さず、状況を覚えているべきだっただろう。

 陣が目を離した僅か数秒後、終わりの牙はゆっくりと、しかし明確に移動を始めたのだから。


***


 扉を抜けた次の扉の前で、マリグナが動きを止めた。

 ジェスチャーで全員に音を立てないように伝え、扉の向こうの音と気配に集中する。

 少しして、戻ってきた彼女の手には小さなメモが握られていた。


『足音:重遅1、軽3、機械音』


 おそらくは金属兵、それも防衛の為に装備を施したもの。

 状況が判らない、扉の向こうに何があるか判らないというのが最も厄介だ。

 最良の手は極僅かに開いた扉からアクイラにターゲットの位置を確認してもらい、魔術で無力化する事。

 しかし、下手に爆発でも起こせば室内で何を壊すか判らない。かと言って煙や雲の魔術と言ったものが機械に効くとは思えない。

 さてどうするか……陣は考え込んだ。

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