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侵入


 そこは、かつての地下都市であったと考えられている。

 なぜ、湖の更に地下という場所に都市を作ったのかは誰にも理解できることでは無かった。

 ある者は「ドゥビットの作った都市だ」と結論付け。

 ある者は「なんらかの災害から逃げのびる為に作られた避難所だ」と言い切った。

 多くの意見が紛糾しながら、結局のところ誰もがそれが作られた理由など知らず、知ろうとも思わない。


 だから、それが作られた、そこにある理由は……時の流れと共に忘れ去られた。


***


「……」


 薄暗い空間を、フービットの斥候が進む。ある程度道を確認して罠がないと判断すると、ランタンのシャッターを二度素早く開閉。

 それを見た仲間達がその後を追って進んでくる。


「暫くは似たような感じだし、罠の類はなさそうさネ」

「判りました、リーンヴルム」

『あいよ、任されたぜ、相棒』


 レティシアの声に応えて、今度はリーンヴルムがふわふわと通路を移動して先に危険な生物がいないかを確認する。

 小型化しているリーンヴルムは攻撃能力こそ喪失するが、飛行能力はほぼそのままであり、さらに閉所でもある程度以上に自由に飛び回る有利を得る事ができる。

 それがどれだけの優位かと言えば、小型ドローンで周囲の索敵が出来る、と表現すれば優位性は感じ取る事ができるだろう。

 リーンヴルムが戻るまでの間、周辺警戒は陣とウルリック、ニールの役割だ。


『道を抜けると部屋になってるな、とりあえず、攻撃してきそうなもんは見当たらないぜ』


 精霊の囁きはある程度の距離を超えて伝わる。リーンヴルムの情報は陣達全員に共有されていた。


「じゃあ、前進……だね」


 アクイラの言葉に、一同が頷く。

 安全を確保し、退路を確保しながら、遺跡探索は進んでいった。


***


 1階にはそれほど見るべきものはなく、一同はある扉の前に立っていた。


「とりあえず、こいつがスライドドアになっていて……落とし穴の類にしては変な位置にあると思われてたんだが……実は下がある事が判ったんだ、それが、探索が再開された故サ」

「……しかし、えらく深いな」


 開いた扉から下をのぞき込みつつ、ウルリックが呟く。試しに落とした石がいつまでも落着の音を立てない事に、流石に不安げな呟きを漏らす。

 一方、周りを探っていた陣は開いた扉の傍に下向きのボタン……スイッチを見つけて文字通り複雑な表情を浮かべる。もしそうだとしたらもうこの遺跡の「動力」は死んでいるのだろう、と目星は立てられたが……。


「……どうしたの?ジン、くん……」

「ん……あぁ、ボタン押しても動かないみたいだし、完全に死んでるのかな、って」

「……頼むから目に付いたものホイホイと触るのはやめておくれヨ?」


 何事も無いのは判っていたが、「とりあえず」感覚で正体不明のボタンを押したらしい陣の行動に、マリグナが苦笑しつつ釘をさす。


「しっかし……まいったねェ……降りるのにロープでも下ろしたい所だが、巻きつけられそうな所が見当たらない」


 彼女の言う通り、周辺にはロープを巻き付けられそうなものが何もなく、かと言って飛び降りるにはあの縦穴は高すぎる。


「……ちょっと、頑張って、みる」


 声を上げたのはアクイラ、杖を掲げ、詠唱を始める。


「其は歪み、曲がり、存在を変える」


 魔力に包まれたスライドドアが、見えない巨大な手に捻じ曲げられるように形を変え、ロープを巻き付けるのに丁度いい細さになる。


「……便利だねぇェ、魔導魔術」

「やっぱ、そう思う?」


 マリグナの言葉に、ニールが同意を示す。


「少し、太さも変えて……勝手に動かないようにした、よ」

「お疲れ様、ありがと、アクイラさん」


 ふんす、と胸を張るアクイラの頭を撫でて、陣が労う。

 それをされるアクイラは恥ずかし気にしながらもまんざらでもなさそうだ。

 それはそれ、という感じでマリグナがさくさくとロープを結びつける。一通り面子を見回すと……


「ニール、悪いけどお願いできるかい?」

「ま、私が最適よね、任せて。あの二人の雰囲気に充てられるのも辛いし」


 ロープの端を持って、ふわりと縦穴にニールが飛び込む。

 大きくシャッターを開いたランタンの光が、ゆっくりと縦穴を下って行った。


「よ……っと」


 少し後、一度大きく羽ばたくとニールはそこに降り立った。

 縦穴一杯に広がる床と、その真ん中にある戸口らしき違和感。

 ランタンの光が上から見えるように持ち直し、2度続けてシャッターを開閉する。

 直ぐに、ロープが大きく揺れ始めた。上から誰かが降りてくる。


***


 最初に降りたのはウルリックだ。重たい鎧に身を固めていた彼は、一度鎧を脱ぎ、身一つでロープを伝って降りてきた。


「いや、毎度のことながらこの手の降り方はこれが不便だな」

「ウルリックさん、落下するのとどっちがいい?」

「……こっちのがはるかにマシだぜ」


 両手を上げて反対意見は無い事を示していると、ニールが再度、ランタンのシャッターを開け閉めする。

 一度ロープが引き上げられ、ウルリックの鎧が結び付けられ、もう一度下ろされた。

 同じように他のメンバーも下に降りてくる。


 ここからが探索の本番だ。


 そう言いたげなマリグナの目に、全員が頷いた。

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