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遺跡前で


 竜人に、古くから伝わる伝説の国の名があった。

 その国の名は、ドラゴニア。

 大陸全土を支配下に収め、天に輝く月にさえもその支配を広げたと言われている、伝説上の大帝国。

 その巨大国家は、ある日突然、痕跡をほとんど残すことなく姿を消した。


 今は、大陸各所に残る遺跡に、その技術力の高さを誇るだけである……。


 その遺跡が今、陣達の前にそびえたっていた。


***


 それは、間違いなく異彩を放つ建造物だった。

 山間の小さな湖、そのほぼ中央に浮かぶように現れる半球体の建物。

 それが建物だと判るのは、入り口がぽっかりと口を開けているからであり、それがなければその継ぎ目の見えない物体を誰も建物とは思わなかっただろう。

 石というにはくみ上げた後がなく、これを掘り出したとすればどれほどの巨木であればいいのか。


「なんつーか、言葉がないたぁこの事だな」

「ほんと、何をどーやって作ったんだろうねェ」


 思わず漏らすウルリックに、マリグナが相槌を打つ。

 かけられた橋を渡り終えた陣が、その外壁に軽く触れてみる。


(……金属、じゃないな、セラミック?良く判らねぇ)


 軽く叩いてみた感じ、金属や石という感じはしなかった。じゃあ何なのだと言われると陣に答えようがあるはずもない。


「……」

ウォグ……(嘘だろ)ヴォ・ラン……(こいつは)

ネェグ(死んでる事)プラァダ・ディド(祈るしかないです)


 竜語で行われた短いやり取りは、誰にも知られる事無く消えていく。


***


「ともあれ……外から見た感じは聞いたとおりだ、今日明日で壊れる様子もない」

「んじゃ、潜れるな」


 外周をぐるりと見て回った後入り口前にキャンプを張り、全員で作戦会議。


「皆ドラゴニアの遺跡は初めてなんだけど、何か気を付けておくことはある?」


 ニールの言葉に、マリグナが腕を組んで唸る。


「そうさねぇ……基本的に他の遺跡探査とは変わらない、ただ、警備に使われているだろう金属兵ってのがいて、こいつがやっかいだ」

「名前からして、金属でできたゴーレムかなにか?」

「サね……基本的に鉄でできてるんだけど、これが面倒だ。小型のアイアンゴーレムが群れでやってくるって言えば、多少の想像はつくだろうさ」


 その言葉に、陣を除く面々の表情が渋くなる。


「それは、めんどくさい……ね」


 その面倒くささを最も知っている、魔導士のアクイラが思わずつぶやく。

 痛みを感じず、頑強で、命令にどこまでも忠実な鉄の巨人。小型とはいえそれが群れで押し寄せてくるとなれば、その厄介さは相当なものだ。


「なんか対策は?」

「あぁ、ドラゴニアの遺跡に現れる金属兵は、ゴーレムと違って遺跡のどこかにそいつらを制御してる部分があるんだ、そこを見つけて破壊できれば……」

「なーんだ、それならどうにか……」


 ほっと息を吐くレティシアを見ながら、アクイラがそれに異を唱える。


「たぶん、そう、甘くないよ……そういうものがあるなら、それがあるのは大抵一番奥……つまり、ほとんどの金属兵と戦った後に出てくるもの、だよ」

「そうね……」


 そういう制御装置を罠より前に設置しておくわけがない。常識で考えて。


『それも、そこに着くまでにトラップ山盛り、複雑な迷宮もおまけに付くだろうぜ』

「だな……ドラ公もその大きさじゃ、入れそうにないしな」


 遺跡の入り口は二人並んで入れる程度、リーンヴルムの巨体はどうやったって入りそうにない。


『無理だな、ついでに言うと、遺跡に入ると俺ぁマジでなんもできん』

「小さくなると、見た目通りの威力になるからね、リーンヴルムのブレス」


 なぜかぺちぺちとリーンヴルムを叩きながら言うアクイラと、それに反論できず「ぐぬぬ……」と唸るリーンヴルム。

 そんな様子を見ながら、話しは長引きそうだと察したのか、ウルリックが火を起こす。


「なんにしても、潜るのは明日の朝からにしよう、今日の所は、もう少し話を練っていこうぜ」


***


 起こした火を囲んで、背嚢から引き出した携帯食料を温める。

 無論そのまま食べる事もできるものだが、時間と空間に余裕があるなら温かい物を食べたいというのが人間心理というものだ。


 遺跡入り口に対する警戒として、鳴子などの簡易な罠を設置したマリグナが戻ってくるのを見ながら、陣は何となく買っていた釣り竿を振って湖に糸を垂らしていた。

 魚が居るというのは、生命の精霊が動いていることから判っているから、後は釣れるのを待つくらいだ。


「どう?釣れそう?」


 糸を垂らしてじっとしていると、横からニールが声をかけてきた。


「まだ針を入れたばっかりだから、なんとも」

「そか……釣れるの、期待してるわ、温かいスープがあれば嬉しいからね」


 日は沈み始め、三つの月がうすぼんやりと顔を出す。

 そんな中で、陣とニールは何も言わず、竿先の動きを見ていた。


「ねぇ……ジン」

「ん?」


 湖面に目を向けたまま、ニールがぽつりとつぶやく。


「……辛く、ない?」


 その一言には、どれだけの、どんな意味が込められていただろう。

 少なくとも、いくつかの意味を込めてきたのは間違いない。


「そりゃ、ね……けど、皆がいる、だから、寂しくない」

「そか……よかった」


 人は、孤独に長く耐えられない。寒さにも、暑さにも弱く、孤独でいれば時間を待たずに死んでしまう、弱い存在だ。

 だから、誰かが居てくれる今は、色々と辛い事もあるけれど、寂しくはない。


 陣は、そう呟くように答えた。

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