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技術の痕跡


 かつて、大陸南部に存在した巨大国家があった。

 国の名はドラゴニア。

 今の各国家では到底模倣もできないような正体不明の技術を持ち、その力を持って覇権を称えた歴史上最強の国。


「ま、それも滅んで今は歴史の中の物語って奴サ」

「実在したことははっきりしている、伝説上の国家ですか」


 頷きながら、マリグナが続ける。


「如何なる強者とて、その力を誇示し続ける事は不可能、その最たるものサ」


 歴史の中で、多くの国が興り、滅んでいった。

 命数を使い果たしたかのように静かに滅んだ国もあれば、生命の最後の輝きとばかりに歴史に名を遺す大惨事を引き起こして滅んだ国もあった。

 ドラゴニアも、その例外にはなれず、長い時の果てに滅びを迎えた。


「まぁ、そんな事は例外なく何度も繰り返されてる、間が悪い事にそのタイミングに出くわさなきゃどうでもいい事サ」


 言いながら、肩をすくめる。

 実際問題、そのタイミングに出くわすかどうかは運に過ぎない、と言われればその通りだ。

 ……仮に出くわしたら笑えない一言だろうが。


「ともあれ、その時代の遺跡、となれば何が起こるかなんて誰にもわからない」


 故に、準備には相応の時間がかかる。

 これがもっと若い遺跡なら、普通に遺跡に潜る準備位で良いのだが。


「数日は閉じ込められる積りで用意しないとね」


 あんたも、しっかり準備しなよと言いながら、マリグナは店が軒を連ねる商店街へと消えてゆく。


***


 路地裏の、人目に付きづらい一角にやってきたマリグナが、小さな露店の前でしゃがみ込む。


「……どういう事だい、目的地がドラグナムの遺跡の可能性があるだなんて聞いてないよ?」

「そりゃ、俺は未確認の遺跡、としか知らないからな……というか、よくそんな目星つけられたな?」

「色々あんだよこっちにも」


 露店の主……情報屋に軽く愚痴ってから、ちらと周囲を見回し、声を潜める。


「ともあれ、潜り込んだ、暫くはこっちの判断で動く」

「判った……神の祝福あれ」


 聖印を握り、祈りをささげる。

 女神教のものとは、デザインも祈り方も違うそれ。

 マリグナも同じように印を切り、その場を離れた。


***


 マリグナと別れた陣は、鉄工街の自由市を見て回っていた。

 南街やジルコニアの市とはまた違う、ハンドメイドと工業製品が混じり合うそれは、陣の知るフリーマーケットの雰囲気に近かった。

 最も大きな違いは、鍛冶師たちが自前の武器を堂々と軒先に並べている事だろう。

 また、機械弓、クロスボウの類はよく見るが、銃は未だにこの世界で見ていない。

 これに関しては、魔術が発達しているからだろう、とおおよその検討を付けている。

 弓だって、長弓は作られていても、その運用はあくまでも魔術師の補佐、という色が強い。


 ともあれ、使わない武器の事を考えていても仕方がない。補助武器として刺しているショートソードの刃研ぎを近くの鍛冶屋で依頼し、その間どうするかと自由市をぶらつき始めただけに、なんら目的をもって見ているわけではない。

 歩きながら周りを見回すと、ある露店が目に入った。

 周りが歩きゆく人に愛想よく声をかけ続ける中、不機嫌そうな表情を隠す事もなく、店を広げている場所も人の目に付かなさそうな隅の所。

 いくつかの剣を並べている所から、彼が鍛冶師かその弟子であろう事は予測がついた。

 そこに寄って、少し置いてあるものを見る。陣にはまだ刀剣の良し悪しは判らない、ただ他の店の物に比べて装飾は少なく頑丈そうで、実戦を見越して作られているものだろうという事は判った。


「……」


 そんな陣を睨むように見ていた店主が、ふいと視線を横に向ける。

 陣が釣られてそちらを見ると、そこにはナイフ、ダガーの類が置いてあった。

 さして時間をかけずに作ったように見える、雑な短刀。

 お前にはそれが精々だ、と言わんばかりの店主の態度。

 多くの客は機嫌を悪くしてその場を離れるだろう。

 実際、店主は既に陣に対して興味を無くしたかのように手元の作業に戻っている。


「……え」


 それを改めて見た陣が思わず声を漏らした。

 それは店主が指し示した、安物の、かける時間すら惜しんで適当に作ったようなナイフの一本。

 刃先から握りまで全て金属で作っているという、人を小馬鹿にしたかのような一品。


「す、すみません!」


 思わぬ大きさの声が出て、自分自身がびっくりしたが、それは相手の方も同様らしい。

 手を止めて、陣に視線を向ける。


「あ、あの……これ……!」

「あんたにゃぴったりの安物だ、1本で銀貨1枚」

「いやそうじゃなくて!金属一体加工!あなたが作ったんですか!?」


 陣の口から飛び出した言葉に、店主の眉がぴくりと動いた。


「……俺の技術じゃない、師匠の師匠、そのまた師匠から受け継いだ」

「その方は?」

「師匠が見習いだった時には引退間近だったそうだ、鍛冶屋だというのに槌は使わず、秘伝の機械で一日中金属を研いでる変人だったそうだが」


 ぐい、と体を乗り出して聞いてくる陣の勢いに飲まれたか、店主が押され気味になりながらも答える。

 この場所では安物のナイフ……多分元を辿れば金属で刃先から手元まで全て作った包丁。

 もしかしたら、同じ、あるいは似たような世界から来た人が技術を残そうとしたのだろう。

 プレス機も、グラインダーもない世界で。


「……そうですか、すみません、驚かせてしまい」

「いや、いい……それが完成品だと見抜いたやつは、あんたを含めて何人もいない」


 ようやく離れた陣に安心したのか、店主が苦笑しながらナイフを1本鞘に納め、陣に差し出す。


「気が変わった、こいつは持って行け……それと、あんたの使ってる得物、槍か何かか、気が向いたら持ってくると良い、見れる範囲で見てやるよ」

「ありがとうございます……なんで、槍だと?」


 素直にナイフを受け取りながら訪ねる陣に、ようやく、ある種の笑みを浮かべながら店主が答える。


「体つきと筋肉の付き方を見れば凡その察しは付く」


 だから、お前の武器にはそれなりに興味も沸いた、と店主は締めくくった。

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