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次の一歩


 どういう訳か判らないまま、異世界にやってきた高校生 双牙 陣。

 彼は、最初の旅を終えてこの鉄工街にたどり着いた。


 ここ、鉄工街はジルコニアを何倍にも大きくしたような街で、科学技術も一歩抜きんでているようだ。

 街中で煙を上げる蒸気機関を目にして、陣はそう考える。


「サイバーパンクとか、近いイメージだったかな」


 機械文明が育っている街に、ファンタジー色全開なフービットが歩いている姿を見て、陣はそんな事を呟く。


「にーさん、ちょいとにーさん」


 ふと、自分を呼んでいるらしき声に、陣は足を止める。


「こっち、こっちさね」


 声の元を探して振り向くと、視線の先に居るのは一人のフービット。

 小学校高学年の子供程度の身長に、深い藍色をしたショートカットの髪、軽装と常に陣に対して正面を向く立ち回り……おそらくレンジャーかスカウトだろう、と予測を立てる。


「アンタ、「勇者と同郷」の人間かい?」

「……どうして、そう思うんです?」


 わずかに声に警戒が混じる。それを感じ取ったのか、フービットはくすくすと笑う。


「そう警戒しなさんな、正解だと答えてるようなもんだヨ?」


 小さな箱の上に乗ると、彼女はまるで教鞭を振るう様に続けた。


「まず、その黒目黒髪、少なくとも、この大陸の東側じゃアタシは見たことは無い、勇者も同じ目の色、髪の色で、世事にも疎そう、これだけ揃ってりゃ、カマの一つもかけてみたくなるさ」


 箱から降りると、目を閉じ、左手の指を振りながら推理を開設して見せる。わずかに、肩が陣を掠めた。


「なるほど、正解は「何言ってるか判らない振りしながら、とりあえずハイと答える」でしたか」

「どうだかね?」

「それで、要件は?」


 今度こそ、彼女は陣に向き直り、真っ直ぐに見上げる。


「神官戦士に、魔術師、支援型の野伏に、精霊付きの弓手」


 パーティーを言い当てられて、陣は僅かに鼻白む。


「アンタ自身は戦士って所だろう?斥候が必要そうだと思ったから、声をかけたのサ」


 なるほど、と陣は考える。

 確かに、現状野外での行動はともかく、遺跡や室内での行動は得意ではない状況ではある。

 ニールの索敵能力は優秀かつ広範囲だが、それはあくまで自由に飛べる空というスペースがあっての事で、閉所でパーティーに先行して罠や敵を探るのには向いていない。


「おっと、変な勘繰りはしないでおくれよ?アタシも頭数が入用でね、たまたま良さそうなヤツが居たから、位の理由さ」


 言いながら、カラカラと笑う。良く言えばあけすけ、という感じだろうか。


「とりあえず、皆と相談して考えたいのですが」

「ま、そこは当然さね、ご一緒しても?」


 言いながら、何かを陣に投げてよこす。

 それは、陣の財布だった。以前ネレッドにスられてから細いワイヤーで繋いでいるのだが、それは見事に断ち切られている。


「……判りました、直に話を聞いた方が皆もやりやすいと思います」


 両手を上げて降参のポーズをとりながら了承する陣。

 それを見て、彼女は満足そうに微笑んだ。


***


「で、結局負けて連れてきた、と」

「まぁそういう事です……」


 事の顛末を聞いてあきれた声を出したのはレティシアだった。


「まー油断してたジンが迂闊っちゃーその通りだわな」

「そこはアタシに一日の長がある、と言ってほしいね」


 似たような経験は何度かあるのだろう、苦笑しながら言うウルリックに、対して、彼女は軽く指を振りながら言う。


「……なんにせよ、スカウトは必要ではある、ね」

「閉所だとどうしても……ね」


 自分の得手不得手は理解しているニールが、アクイラと顔を見合わせて肩をすくめる。


「なら、アタシは役に立つ、と思う訳だけどね」

「しかしな、そうやって売り込んでくる奴ってのは、大体何かしら目当てがあるもんだ」


 座り直し、ウルリックに見つめられているのに気づくと、彼女は「そりゃそうだ」と笑う。


「勿論、アタシにも思惑はある……というより、巻き込んで、助けてほしい事かな」


 彼女はそう前置きすると、改めて口を開いた。


***


「まず、改めて自己紹介させてもらうよ、アタシはマリグナ、見ての通りの斥候さ」


 言いながら、マリグナは自身の装備……軽装で、動きやすさ重視のそれをよく見えるようにくるりと回る。


「アタシがアンタらのパーティーに売り込もうと思ったのは……」


 ここでマリグナは一度言葉を止め、挑戦的な視線を皆に向ける。


「とある遺跡に潜るのに、力を借りられるか、と思ったのさ」

「……戦力が必要って事は、それなりに厄介な所か」

「ご明察、ここから西に行った所に「古の地下都市」なんて呼ばれてる場所があってね、まぁ、もの自体は地下遺跡なんだが……最近、深い場所に降りられる所が見つかってね」

「……で、何かいる形跡があった、調べるにも身を護るにも頭数が欲しい、か」


 ひとしきり話を聞いたウルリックが腕を組んで考える。


「未調査の遺跡か~、確かに魅力は感じるわよね」

「……地の底まで潜って、スカって事も、多々あるよ?」


 それなりに興味のあるらしいニールと、慎重論を述べるアクイラ


『……なぁ、お嬢?これってさ、ドラゴニアの遺跡じゃね?』


 示された位置を地図で確認していたレティシアとリーンヴルムだったが、その位置を確認したリーンヴルムがぽつりと言った。

 それを聞いたアクイラは地図をひったくるようにして位置を確認し、話を持ってきたマリグナさえ、慌てた様にその地図をのぞき込む。


「くっ……ドラグナムの古地図かい……」


 その複雑に書き込まれた地図を見て、マリグナが悔しそうに呟く。


『……説明、リーンヴルム』

『いやな?ここが鉄工街って事は、ここが地竜峠……つまり龍の峰の裾だろ?』


 翼の先で器用に地図を指しながら、リーンヴルムがアクイラに何かを説明する。


『で、龍の峰がここって事は、伝承通りならこの辺りがドラゴニアの範囲ってなるから……』

『端だけど……一応』


 再度、わずかに考える。


「……ジン、くん、私は話、受けてもいい、と、思う……よ?」

「そこになんかあるのね?ドラゴニア絡みの」


 レティシアの問いかけに、アクイラは「多分」と頷く。


「……その、話ぶった切って悪いけど、ドラゴニアって?」

『あぁ……まぁ坊主は知らなくても仕方ないやな、簡単に言やぁ、大昔にこの辺りを牛耳ってた国だよ』


 陣の問いかけに、リーンヴルムが雑な回答をする。

 概ね間違っていないのか、アクイラが複雑そうな表情をしている。


「今のところはそれが判れば、ドラゴニアに関しては十分だよ」

「……遺跡がドラゴニアのものだと仮定するなら、準備が足りないね」


 話を聞いていたマリグナが、がしがしと頭を掻く。


「ともあれ……」


 改めて、陣がマリグナに向き直る。


「遺跡探索、ご一緒させてもらいます」

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