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賭けの前提


「……どうか、されましたか?」

「いえ、何でもないです」


 レネットが小首をかしげて尋ねるのに対して、陣は軽く目をそらして答えた。


「いずれにせよ、夢の中に入り込み、夢魔をレティシアさんの夢から引きはがして、戻ってくる……それが出来る方法を探さなくてはいけない」


 改めて、とアルフが必要な要素を纏めている。


「なぁ、シャルル……と言ったか?例えばの話だが、夢同士を繋げて夢だけで接触する事はできないのか?」

『夢を繋げること自体は可能ですが、それで何かしらの接触を行うというのは難しいですね、夢は所詮夢ですので』

「そうか……確か、夢魔は夢自体を弄る事が出来るんだったな?」


 不意に、アルフが顎に手を当てて考え始める。


「シャルル、ナイトメアには、嫌いな夢とか、好まない夢なんてのもあるのか?」

『ナイトメアとは文字通り悪夢です、善き夢はそう多く受け入れられず、逃げ出すかと』

「なら、その善き夢でナイトメアの隠れている夢を塗り替える事は?」

『……!それなら、恐らくできるでしょう、夢を繋げて夢同士が接触すれば、互いに侵食し合います、その時にこちらが強ければ、水が低きに流れる如しです』

「それは良いが、逆にこちらの夢が相手に侵食される事にはならないか?特に夢を繋げてしまえば、逆にナイトメアに対しては無防備になるような気もするが」


 アルフとシャルルの会話に、ギムリットが意見を飛ばす。


『勿論その危険はあります』

「となれば、相手を上手くだまくらかすか……」

「一気呵成に押しつぶすかだ」


 アルフとギムリットが顔を見合わせて頷く。


『高位のプリエスティエが使える方がいらっしゃれば、結界を張って多少は防ぐことができるかもしれません』

「あ~……神の盾な……ありゃ俺には無理だ、そっちの嬢ちゃんはどうだった?」

「リアラは元々見習い神官で、ようやく正規の神官よ?素養はあるみたいだけど、察して?」


 ウルリックの問いかけにユーリルが肩をすくめる。


「……シャルルさん、その、夢の精霊に守ってもらうってのは、可能ですか?」

『気まぐれですからね、そもそも会話ができるかどうか……』


 陣の方を振り返りながらの言葉は、途中で途切れた。


『……蒼炎の紫水晶……そんなものをお持ちとは』

「は?」


 シャルルのこぼした言葉に、ユーリルの目が点になる。


「……ユーリル、それってそんなに凄いのか?」

「本物なら洒落や比喩じゃなく国が買えるわ」


 ユーリルの返事に、ギムリットがへぇ……と少しばかり驚いた声を上げる。

 そんな所に、将司とリアラが帰ってきた。


「あぁ、マサシ……どうだ?彼女は落ち着いた?」

「……すみません、やはりまだ気持ちの整理は付かないらしく……」


 将司の代わりに答えたのはリアラ、その雰囲気から、今のリアラは女神の方のリアラだな、とギムリットは察しを付ける。


「……そう言えば、神官じゃなくても、大本……居たね」


 アクイラの言葉に、将司とリアラを除くその場の全員がはっとした。


***


「なるほど、レティシアさんから夢魔を払う間、ナイトメアが夢を渡らない様に壁を張れば良いのですね?心得ました」


 説明を受けると、間髪入れずに即決だった。神官のリアラの方だとぐずっただろうから、正直アルフとギムリットは胸をなでおろしている。


『しかし、意外でした……何かとこちらを滅ぼそうとする女神教の女神が、こう物分かりが良いとは』

「話を聞きましたからね、より脅威であり、悪意を持って襲ってくるものが居るなら、そちらを叩くは現実的な事でしょう?」


 実際、淫魔と呼ばれる者たちがする事で、人が死ぬような事は殆どない。

 ほぼ風評被害、というか人間方で色々とやらかしている事の責任を被せているだけだったりする。


『女神の神力と蒼炎の紫水晶……これだけのものが有れば行けるかもしれません』


 改めて、とシャルルが口を開く。


『水晶を持つ……えぇと、ジン、さんの夢を使いレティシアさんの夢に入り込んだナイトメアを排除します』


 静かに、陣が頷く。


『夢の中は心の外縁です。そこで起こった事は多少なりとも心に影響します』

「変な事するな、って事ですね」

『はい、人格のゆがみ程度で済めばいいですが、最悪心が崩壊する可能性までありますので』


 頷くシャルルに向けて、アクイラがつぶやく。


「……入れるのは、一人?」

『どうやっても、夢から夢ですからね……ほかの方が見ている夢と完全に同じ夢を見るのは、基本不可能であるのと同じように、不可能かと』

「……わかった、私たちは、ジンくんとレティシアの体を守る、ね」


 身動きできない陣の護衛を買って出たアクイラを、ニールが苦笑しながら見る。


『判りました、ではジンさん、眠ってくだされば夢を私が誘導します』

「判りました」

『今のうちに言っておきます、夢はどうやっても夢ですので、何があっても不思議じゃありません……特に、夢の交わる場所からは、レティシアさんの夢を操る、ナイトメアとの夢の取り合いになります』

「どうすれば?」

『夢の鍵を探してください、それで扉を施錠してしまえば、ナイトメアはその範囲への干渉が不可能に近くなります』

「鍵……」

『勿論、夢ですから素直に鍵の形をしているとは限りません、ジンさんの観察力に期待します』


 眠りの砂という魔道具で陣は直ぐに眠りにつく。

 それを見たシャルルが、何かを誘導する様に手を動かし、魔力を張り巡らせた。


『さぁ、来なさい……ナイトメア』


 失敗すれば、ナイトメアは警戒し、より深い夢の中へ逃げ込むだろう。

 そうなってしまえば、追うのには更なるリスクを冒す事になる。


 陣の、そしてシャルルの乾坤一擲の賭けが始まった。

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