表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/136

再会の白い翼


 旅人は流離い、一所(ひとところ)に留まる事は無い。

 それは、異世界からの旅人であったとしても同じ事。

 旅装束の4人が、もう一度、とジルコニアを振り返る。

 戦いの傷も癒えぬ都市は、それでもその荘厳な姿を崩すことは無かった。


 ジルコニアから鉄工街までは、直接向かえばそれほど遠い訳ではない。

 しかし二つの町の間には地竜小山脈が横たわっており、結局のところそれなりの遠回りを強いられる。


 陣達も例にもれず、地竜小山脈を回避する街道を進んでいた。


「さて、出来るだけ急いでいきたいってのが皆の共通認識だと思うけど、アクイラ、このルート選んだ理由は?」

「超えるの?地竜峠、私たちの体力で?」

「ごめん、あたしが悪かった」


 アクイラの発した言葉に、ニールが速攻で白旗を上げる。

 凶暴な竜種の魔物が群れる地竜峠は、そこを超える事が出来れば、鉄工街までの道のりをほぼ半分にできるという場所にある。

 険しい山道と、絶え間なく襲ってくる竜、という難題にどう立ち向かうかという最大の問題があるが。


「ま、竜車も使ってるんだ、普通に歩くよりゃ早く着くさ」


 そんな二人の会話に、手綱を取りながらウルリックが入り込む。


「後半日も行けば最初の宿場だ、今日はそこまでにして休むとしようや」


 そんな会話を聞きながら、陣は先日の手紙に目を落としていた。

 懐かしい、故郷の字。

 そんな風に思えるほど、ここに来てからの時間は濃いものだった。

 手紙を折りたたみ、懐にしまう。

 幌の開口部分から見える空は、異世界でも青かった。


 不意に、視界がぼやけている事に気づく。

 視界の中に、別のフィルターが被さっているような、違和感。

 左目を閉じる、これまで通りの青空。

 右目を閉じる、青空を背景に、何かが見える。


「……アクイラ」

「なに?ジンくん」


 それを見たまま、アクイラに声をかける、寄ってきたアクイラに、そらの一部を指して


「この辺りまで、竜って来るのか?」

「……そんなの、居ない、よ?そもそも地竜峠の竜は、地竜って言葉通り空を飛べない……」


 言いながら、陣の見ている先を見てなにもない、と返す言葉は、途中で止まった。


「ジン、くん……?左目の水晶って……?」

「あぁ……帝国から逃げた後に、なんか……」


 陣が言い終わるよりも早く、アクイラの顔が陣の顔のすぐ近くにあった。

 ちょっとした揺れで唇が触れてもおかしくない、そんな超至近距離に、陣が硬直する。

 ついそっちに目をやったニールも、硬直していた。

 そんな事はお構いなしとばかりに、アクイラが陣の目を、正しくは左の眼窩に埋め込まれた水晶を見る。


「……どこで、どうやって、見つけたの?」

「見つけた、というか、気づいたら入れられていたというか……多分、精霊ってのの仕業だと……」


 陣から一歩離れ、ぺたん。とアクイラが座り込む。


「ち、ちょっとアクイラ、どうしたの急に!?」


 何を想像していたのか、うっすらと頬を赤らめたニールが、慌ててアクイラを支える。


「そうえんの……しすいしょう……」


 呟いたアクイラの言葉に、ニールが眉を顰める


「炎精の炎を地精が鍛えて水精が清めるってあれ?そのおとぎ話がなんの……」

「おとぎ話……だと、思ってたよ、わたしも……今、この瞬間まで」


 あり得ない、そう言いたげにニールが陣を見る。


「本当なら、国が買える程度じゃすまないレベルのお宝なんだけど」

「ニル、目の前に、ある、よ?」


 もし、それが本当に、おとぎ話に出てくるあれならば……とニールは「見える」と意識して二人が見ていた空を見る。


「……いる、多分、鳥竜(グラフェン)……こっちを、見てる?」


 妖精の隠れ蓑で姿を隠された、純白の羽毛を持つ竜の姿を認めて、ニールが警戒を促す。


「……マナは全てを見通す」


 アクイラも何か呪文を唱え……おそらく、不可視の存在を見えるようにするものだろう。ニールと同じく空を見る。


竜鳥の鳥竜(ドラグナ・グラフ)……?……まって、あれは……」


 そういうと、アクイラは大きく息を吸い込んだ。

 何かに気づいたニールが陣とウルリックに「耳塞いで!」と警戒を促す。


ラーズ・ヴ・ルィ(降りてきなさい)ドラグナ・グラフ(竜鳥の鳥竜)・リーンヴルム!!』


 彼女の愛らしい口から出たとは思えぬ、「竜の咆哮」が響き渡った。


***


『……わりぃ、レティ。バレた』

「えぇ……」


 空の上、ジルコニアから出たとある一団を上空から追っていたリーンヴルムとレティは、バレた事に頭を抱える。


「……どう説明付けんのよ」

『判らん、けど、どっちにしても降りるぜ?俺お嬢とはやり合いたくねぇ』


 はぁ、と聞こえるため息一つ。それを聞きながらリーンヴルムはゆっくりと高度を下げていった。

 ややあって、止まっている竜車の前に降り立つ。乗っていたであろう4人が、既に立っていた。

 分厚い鎧を身に纏い、身長と同じくらいの盾を担いだ重戦士。槍斧を持ち、動きやすい鎧で身を固めた戦士。 そして知己の二人、ニールとアクイラ。


ファル・ナールス(呼びかけに答え)ゴム・リーンヴルム(参上いたしました)

エルメティア・ウル(囁きで話しなさい)ロト・ヒュムネ(ヒュムネもいます)


 リーンヴルムが周りを見回し、目を閉じて数秒沈黙する。


『わ~ったぜ、お嬢』

「……お嬢はやめて、あと、ちゃんと皆に伝わる様にしてる?」


 諦めた様に、もう一度リーンヴルムが目を閉じ、集中する。


「お?なんだこりゃ」

「相変わらず……独特、だね。あなたの『囁き』」


 直接耳にささやいてくるような、頭の中に響くような「声」にウルリックが驚き、アクイラが呆れる


『お嬢と一緒にせんでくれ……俺ぁしがないグラフなんだからよ……相棒に鍛えられて大分通じるようにはなってるんだぜ?』

「お嬢はやめて、それで、その相棒は?」


 言われて、リーンヴルムの背後から一人の少女が現れる。


「……初めまして、アクイラ・リル・シエラヴルム、私はレティシア・アーセニック、このリーンヴルムと共に世界を巡る旅を……」


 うやうやしく一礼して、視界に彼の姿が映ると、レティはその動きを止めた。

 腰まである長い銀髪が揺れ、まるで彼の存在が幽霊でない事を確かめるかのように、頬に触れる。


「え、えと……あの……?」


 混乱する陣は、彼女の目にうっすら涙が溜まっている事に気づいて、二の句を継げなかった。


「あなた、生きてたの!?あの状況からどうやって!?というか言葉通じてる!?」


 矢継ぎ早に発せられる言葉に押されて、少し下がりながら、彼女の名前を思い出し……。


「アーセニック……お姉さんか妹に、エル……エルネットって、居ませんか?」


 その名が出た時、レティははっきりと狼狽した。


「どういう事……?なんで、姉さんの名前、知ってるの?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ