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鳴動する大鉱山5

 陣の回復を待って、一行はさらに深い坑道に潜っていく。

坑道は深くなるほどにじめじめとし、高い温度と湿度が一行の体力を削っていった。


「構造的にもそろそろ大きな場所があるはずだけど……」


 ノーリがそう呟いてから少しした頃、陣達の目に大きく開いた空間が飛び込んできた。

右に陣とネレッド、左にグルスとノーリ、と別れて内部を見える範囲で注視する。時折壁に揺らめく、陣達以外の影が見えた。

 グルスがネレッドにハンドサインを出す、ネレッドは頷くと匍匐前進で広場全体が見える位置へと移動した。


(おっかしぃなぁ……)


身を隠したまま、頬に流れる汗を拭ってノーリは考える。


(こんな程度でここまで暑くならないはずだけど……)


 明らかに異常だった、到底人質担いだ人さらいが隠れ場所に選ぶ状況じゃない。

こんな場所に居を構えるのはロクなもんじゃ無い、ノーリの本能がそう告げている。それが合っているかどうかが判るのは、ネレッドが戻ってきてからだ。

-----------------------

 下の状況を確認しようと覗き込んだネレッドが声を抑えられたのは奇跡に近かった。

下を覗き込んで最初に目に入ってきたのは、巨大な溶岩だまり、そこに突き出た岩に連れ出されようとしているのが今回のお宝だろう、そこから更に先端近くにいるのがおそらく黒幕。距離があるのでよく見えないが、遠目からでも判るぞろりとしたローブはおそらく魔術師だ。

 仲間たちを振り返る、送るサインは「時間ナシ、強襲」

ノーリが、グルスが素早く、少し遅れて陣が配置に着く。

それを見ながら、ネレッドは機械弓を構え、ローブ姿に照準を合わせた。

-------------------------

 深い坑道の底で、彼らは祈りをささげていた。

忌み嫌われ、敵意と悪意に晒され続けた彼らは、そこにあるモノに救いを求めた。

それに捧げるための生贄をどうするかは難点だったが、幸いにもヒュムネの人さらい共が一人の少女を連れていたので、それを奪った。

 どうせ人さらいをするような悪漢だ、我々の大義の為に役立つなら死んでも本望だろう。

薄手の服を身に纏っただけの少女は気絶しているようで、暴行を受けた後もなかった。助かった、と彼らは安堵する。生贄が処女かそうでないかは大抵の場合結果に影響するからだ。


「これで……俺たちの悲願は……」

「馬鹿を言うんじゃない、これが始まりだ」


黒いローブを身に纏い、神官の待つ祭壇へと生贄を運ぶ。

彼らの髪からは、中途半端な長さの、尖った耳が見えていた。

-------------------------


「偉大なるエイグリズドよ!我らが声を聞き給え!」


 石造りの祭壇に少女を寝かせて、一際立派なローブを身に纏った男が声を上げる。ほかの怪しい見た目の連中の大将だとすると、あの祭壇に寝かされてるのが、マリアという娘だろう。

グルスに目を向ると、ちょうど陣を見ていたグルスが頷いた。

敵集団の位置はほぼ真下、5m少し

 グルスが小鬼達に使ったマジックアイテム、閃光石を投げた。陣は素早く自分が隠れている岩に身を寄せて目をつぶる、ネレッドやノーリもそうしているだろう。

すぐに強烈な閃光と衝撃が辺りを襲った。


「っらぁ!!」


 裂帛の気合と共にネレッドが放った矢は、狙いたがわずローブ姿の腕を射抜いた。痛みと衝撃に、そいつは手に持っていた錫杖を取り落とす。

ネレッドの視界の中で、3人の仲間が下へ飛び降りる。ノーリがドゥビット達の戦いの叫びを上げながら難を逃れた連中に襲い掛かり、倒れ、悶絶している連中を踏み越えてグルスが祭壇へ突っ走る。

陣の担当している側がノーリに比べて減りが遅い、陣の支援を重点的に行いながら、ネレッドは広間から出る通路の確保に向かった。

-------------------------


「っ……・この!」


たまたま無事だったり、ふらふらしつつも立ち直りつつある何人かを棍棒で殴って気絶させ、陣もノーリやネレッドと同じくその場を駆け回る。暑い暑いと思ってみれば足元は溶岩だまり、しかもそこに突き出た岩で生贄の儀式とは……


「シチュ作りすぎだっての!」


くらくらする頭を押さえながら立ち上がろうとする一人を棍棒で気絶させたとき、陣はそれに気づいた。

髪の間から出た、中途半端に長い、半端に尖った耳。


「……エル…ム?」


エルやリースと同じ種族……それに気づいた陣の動きが止まり、意識を取り戻した信徒からの反撃を許すこととなった。

後頭部に鉄杖の一撃を貰い、勢いを抑えきれず転倒する。


「こ……の野郎!」


意識を取り戻したエルムたちが、陣に攻撃を始めた。

-----------------------------

 グルスは行動不能になった連中を踏み越えて、生贄が……マリアが寝かされている祭壇までたどり着いた。


「貴様!」


祭壇に居た一際立派なローブを身に纏った男が振り向く、彼の目に片手半剣の刃が飛び込んできたのと、衝撃を受けたのはほぼ同時だった。


「ぐげっ!?」


顔面をしたたかに殴られ、後ろへとよろける、足が半分断崖から外れたのを感じて、ほぼ本能的に一瞬足元を確認する。

わずかな、しかしグルスを前にしては絶望的に大きな隙。


「うらぁっ!」


一瞬のためらいもなく、グルスの放った蹴りがローブの男を後方へ吹っ飛ばす。

足場を失ったローブの男は悲鳴を上げながら溶岩に落ちていく。

呑まれるまでのわずかな間に、そいつは悲鳴を意志の力で抑え込み、最後の一語を叫んだ。


「我らが悲願成就の為に!わが命を生贄とする!今ぞ在れ!」


-------------------------


 頭部に一撃食らった陣が攻撃されているのを見て、ネレッドはすぐさまその辺りに短弓で矢の雨を降らせる。突然の射撃に驚いて包囲が崩れたタイミングを狙って、ネレッドが突っ込んでいく


「てめーらぁっ!!」


 小柄、軽量という近接格闘においては絶対的な不利。その不利を小柄、軽量だからこそなしえる速度で補う。

持ち替えたダガーが血を引いて煌めく、戦うスペースを確保しても、陣の状況を見るほどの余裕を得るには至らない。


「おい!戦えるか!?」

「ぐ……!」


頭部をしたたかに殴られ、意識がもうろうとしているのか、陣からの反応は薄い。


(なんとか、するっきゃねーか)


ダガーを逆手に、相手から見えずらい様体に隠すように構える。

足元の小石を目の前の男の顔めがけて蹴り上げ、男が思わず手で目をかばった時、ネレッドの手にしたダガーが、その首を掻き切った。


「正面切っての戦いは苦手だってーのに……ったく!」


---------------------------


 ノーリが振り回す大槌の一撃が、彼女を取り囲んでいたローブ姿をまとめて吹き飛ばす。

何人かは悲鳴を上げながら溶岩に呑まれていく、岩に激突して昏倒したまま焼け死んだ者が居る。

それらに比べれば、打ち据えられ、折れた骨の痛みに悲鳴を上げている連中はまだ「マシ」な方だろう。

こと戦闘となり自身に敵対している以上、彼女は「敵」に容赦しない。手心を加えれば、待っているのは己の死。

まして、祭壇に供えられた聖印を見てしまえば、彼女がそいつらに手心をくわえる理由は無かった。


「エイグリズドの信徒ども……ドゥビットがお前たちを許すと思わないでよ!」


 地の底から炎を携えて現れるとされる邪神エイグリズドをあがめる邪教の一団と判ってから、ノーリの槌に容赦の二文字はない。

戦いながら、仲間たちの状況に視線を巡らせる。グルスが、救助対象を抱えて離脱を始めている。自分も撤退にかかるタイミングを探しながら、陣の姿を探す。見えない、ネレッドもだ。


「ジン君!ドチビ!!」

「誰がチビだこらぁっ!」


 撃てば響くような返答にあわせて、頭に矢を生やした男が倒れ込む。そこで初めて、ノーリの目に斃れた陣と、肩で息をする傷だらけのネレッドの姿が飛び込んだ。

声を上げる時間も惜しい、適当に狙った一人に向かって短槌を投げつける。狙いたがわず頭部に命中したそれは哀れな犠牲者の意識を刈り取る。


「うぅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


暴風のように暴れまわるノーリの姿に、信徒たちの包囲網が崩れる。


「ノーリ!目ぇつぶれ!!」


背後から聞こえたグルスの声に、ノーリは全力で後方に飛び、身を低くして目をつぶる。

次の瞬間、瞼の上から刺すほどの強烈な光と、衝撃が周囲を薙ぎ払った。

-----------------------------


「くそっ……」


 幼馴染の救出に成功はしたが、グルスもまた、信徒たちに動きを阻まれ、身動き取れずにいた。

米俵のように彼女を肩に担ぎ、空いた手で剣を大振りに振り回して周りをけん制しながら、なんとか脱出ルートへたどり着こうと足掻く。

大型の獲物を担ぐように、ノーリが陣を担ぎ上げて近づいてくる。道を阻もうとする信徒を薙ぎ払いながら。

 ほどなく、流れが変わってきたことに気付く。生き残っている信徒たちが逃げを打ち始めた。


「さんきゅ、グルス君、助かった」

「それより状況がひっくり返り始めた……たぶん荒れるぞ」


二人そろって生まれ始めた流れから少しずれた所に退避し、グルスが陣に気つけの回復薬をぶちまける。


「ジン!しっかりしろ!」

「ぐ……るす?」


意識を取り戻した陣がくらくらする頭を押さえながら立ち上がる。


「状況は判るか?痛みは?」

「……頭ドツかれた、くらっくらする……」

「……大丈夫だ、骨はダメージ受けちゃいない」


 少し割れてはいるが、それも回復薬ですぐに治るレベルだ、とグルスはポーションを陣に渡す。

それを反射的に飲むと、陣の口の中にアロエのしぼり汁を徹底的に濃縮したかのような苦みが広がった。

凶悪な苦みにこれまた脊椎反射で吐き出しそうになるのをこらえ、呑み込む。ドロリとした液体を飲み下すのに、妙に手間取った。

 空瓶を放り投げると同時に、猛烈な振動が坑道を襲った。激震に岩壁が崩れ溶岩へと沈んでいく。

煮えたぎる溶岩が、大きく揺れ、大波となって岩肌にぶち当たる。


「……皆、逃げるよ!あれはヤバい!」


 ノーリに促されるまでもない、これが噴火の予兆にせよ別の何かにせよ、ここに留まって良いことは無い。

信徒たちが逃げていった先に坑道へと戻る穴があり……そこが巨大な何かに塞がれる。

 燃え滾る、巨大な触手のようななにか。その根元をたどると、溶岩の中から姿を見せる巨大な化け物にたどり着いた。

 溶岩の中を泳ぐように蠢く、長大な体を持った、龍の頭を持つ化け物。全身の諸所から炎を吹き出し、頭部と思わしき場所にある複眼が陣達を捉える。両肩から延びる「腕」は体長に比しても長く、その先端は手ではなく、溶岩を纏った鎌となっていた。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 それはもはや吠え声や鳴き声、と言って良いものかもわからない。言うなれば岩と岩が擦れるような轟音。

それを上げながら、化け物は出口になっている横穴にたたきつけていた尾で、そのまま地面を擦る様に薙ぎ払う。

巻き込まれた信徒達が悲鳴を上げて押しつぶされ、溶岩に落とされていく。


「コレがあいつ等の神って事かよ!くそ!」

「と言っても、どー考えても召喚失敗してるけどな!」


「神」が現れたことで勇気づけられたのか、「異教徒」である陣達に襲い掛かってくるものも再び現れ始める、振り下ろされる斧をかわし、誰かが取り落とした剣を手に取って、陣は突き出された剣を受け止める。

反撃と切り付けるが、その動きは精彩を欠く。陣の動きに合わせてカウンターを入れようとした信徒に、ネレッドが機械弓を打ち込み、無力化する。


「大丈夫か?ジン、様子おかしいぜ?」

「……見たんだ、あのローブ姿の中に、エルムが……!」

「いやエルム位いるでしょ、基本的に排斥された連中が縋る邪神だし」


 今一的を得ない陣の言葉に、ノーリが返答する。


「排斥された……迫害されて追われた人たちと戦うなんて……!」

「だからってアタシたちがあいつ等に殺されやる理由はない、そして、ああいう連中に理屈は通じない」


陣の考えだって間違えてはいない、安全な日本であれば。

だが、この場ではノーリの言っていることのほうが正しかった。

陣だって頭で理解している、しかし子供の頃から刻み付けられてきた常識がそれを認めることを許さない。


「けど!」

「議論は生き残ってから!優先順位を間違えない!」


ぴしゃりと言い放って、化け物をにらみつけるノーリにつられ、全員で化け物に視線を送る。

まずは生き残る事、ネレッドも、グルスも、言葉には出さないがそう言っていた。


 陣もこの場は、と気持ちを切り替える。

カルネアデスの舟板ではないが、相手を殺さなければ自分が生き残れないし人種差別を気にしている場合じゃない。

これまで至上とされていた、触れただけでも罪に問われるようなものを踏み躙らなければ自分が死ぬ。

自分が死ねばその先を考えることは出来ない。

事が終わってからそれが法を犯していると責められたら……それはその時考えるべき問題だ。

-----------------------------

 化け物が吐き出す火球は、着弾点を中心に広範囲にマグマをまき散らした。避けた先に振り下ろされた鎌を、ネレッドは後方への跳躍で回避する。

彼が用いる事の出来る小さな矢では、化け物を傷つけることは出来ない。自分に襲い掛かってこようとした信徒の足を縫い留め、振りぬかれた鎌の軌跡となって襲い掛かってくる炎からの盾にする。

人の焼ける匂いと、悲鳴に眉をしかめながら、ネレッドは出口に向かって走る。


 ノーリは火球の効果範囲に入らないように、大きく迂回しながら出口を目指す。同じドゥビットのはぐれ者が襲い掛かってくるが、その一撃をいなし、大きな隙を見せた横腹に槌を叩き込む。吹っ飛ばされたドゥビットに、運悪く鎌が直撃した。陣やグルスに比べて歩幅がどうしても小さいノーリは、常に全力疾走していなければならず、その点でエルンやヒュムに対して不利だった。

ふいに、腰につけていた小篭から鳥の暴れる音がした。それまでも暴れてはいたが、それ以上に、大仰に暴れるその姿に、ノーリがはっとした顔になる。


「ジン君!グルス君!どチビ!こっち!!」


ドゥビットの低い叫び声は、混乱の中でも良く響いた。


「誰か!あの化け物の注意ひいて!」


そしてさらりと、無茶な指示が飛ぶ。


 仲間を化け物に殺され、それでも健気に化け物に尽くそうと襲い掛かってくる男に、半ばから折れた片手半剣を投げて突き刺し、グルスはそこに落ちていたルツェンハンマーを拾い上げる。


「気安く言ってくれるぜ……ったく!」


拾ったばかりのルツェンハンマーを投擲、狙いたがわず火球に直撃し、化け物の目の前に炎の花を咲かせる。


「マリアを置いてく……?できるかバカ」


頭の中にふと浮かんだ対策に心の中でつばを吐きかけ、さてどうするかと考えながら出口に向かって走り出す。

どうやら目の前での爆発は「神」の機嫌を損ねるには十分だったようだ、無機質な複眼が自分を捉えるのをグルスは感じた。


「……だから、頼むぜ……?ジン!」


呟きに答える様に、莫大な威力を持った閃光の槍が放たれた。


--------------------------


 掠めただけで自身の腕が片方消し飛ばされた。

血が出ないほど炭化した傷口を一度見てから、「神」は己を傷つけた閃光の出元を見やる。

そこには何もない……だが、複眼の一部は残っていた線路の上を突っ走るトロッコと、その上から第二射の用意をしている陣を捉えていた。

とるに足らない小さなものが、この身を傷つけた。

 それに怒りという感情があるかどうかは判らないが、ともかくそれは、反撃を開始する。

しかして吐き出した火球は、敵を捉える前に打ち出された閃光に貫かれて爆発する。余波が相手を煽りはするが、ダメージを負わせるには至らない。

それが「神」を、化け物を苛立たせた。


「くそっ……!しつこいっ!」


 猛烈な速度で突っ走るトロッコから振り落とされないようにしがみつきながら、陣は防御弾幕を止め、魔石を噛み砕くと再度化け物に狙いを定める。掌を中心にチャージが始まり、陣のイメージするところの重粒子砲が化け物の身体に直撃する。

化け物が痛みにのたうち回るたびに、溶岩のしぶきがそこかしこに跳ねまわり、誰かの躯が溶岩に呑まれ消えていく。

溶岩を自在に泳ぎ、人を塵芥のように薙ぎ払える化け物を屠るために、陣は己自身の化け物じみた魔力を振りかざす。

 魔石を噛み砕くたびに、軽減される精神的負荷が減ってきているのは感じた。限界は近いが、まだ化け物は大暴れに暴れている。ならば、と陣がイメージするのはレーザー、狙うのは、天井から無数に覗いている、尖った岩。


「でええええええええええええええええええええい!!」


レーザー削岩機のイメージで、岩の根元を切り落とし、化け物の上に岩の雨を降らせる。

一つ一つが人の何十倍という大きさの、先のとがった岩の雨に降られて、化け物はなお、短時間堪えて見せた。しかし、莫大な質量という事実にいつまでもあらがえるわけでは無い。押しつぶされながら、なんとか逃げようと唯一の逃走路……ノーリの指示した場所へ追われた蛇のように逃げ出していく。


「わり……任せた……」


もはや魔石では魔力の回復ができない。

鈍痛のする頭を押さえて、陣はトロッコの中で身を屈めた。

---------------------------


 ダメージから逃れる様に渡る逃げ場……そこが、トラップの最深部。

可燃性のガスが貯まった、空間そのものが爆発物となっている場所。

その場に逃げ込んだことが、すでに罠の起爆スイッチ。

体内を流れる溶岩が外にあふれる事で燃え上がる炎、それがガスに引火し、猛烈な爆発を引き起こした。


「……終わった?」


爆発が収まったのを確認して、ノーリが隠れていた岩陰から顔を出す。


「なんとかなった、みたいだな」


ひっくり返ったトロッコを持ち上げ、グルスがマリアと一緒に出てくる。


「今度こそ、なんとかなった~」


陣の乗っていたトロッコに隠れていたネレッドが、陣を引っ張り出しながら顔を出す。

 どうにか一区切り……と思いきや、突然地面が滅茶苦茶に揺れ始める。

持ち上がる溶岩と、岩が擦れるような音が辺りを支配する。


「なっ!?」

「冗談じゃねぇ……!」


片腕を失い、深手を負いながらなお、化け物は襲い掛かってきた。

ことここに至って、彼らに打てる手はない。手負いの獣は、幸いにして動きは遅い。


「逃げるぞ!」

「さんせい!長居は無用ってね!」


動けないものを背負い、一気に逃げを打つ。

背後から迫る、化け物の叫びに振り返ったネレッドが、血相変えて速度をさらに上げた。


「よ、よ、溶岩がぁぁぁぁっ!!」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」


一緒に後ろを確認したノーリとグルスも、走る速度を上げる。背後からは圧力によって押し上げられた溶岩に乗り、化け物が迫っていた。


「洒落にならん洒落にならん洒落にならん!!」

「大丈夫だ!この先は閉所、どうせあいつはそこで詰まる!」

「岩何て溶岩で溶けるに決まってるでしょ!!」


 無我夢中で坑道を昇っていき、出口から飛び出したグルス達を追うように、化け物が外に出ようとして入り口に引っかかる。中途半端に頭だけでた状態で化け物は大いに暴れまわり……結果、己の暴れっぷりが引き起こした落盤で体をつぶされ、頭をつぶされて息絶えた。

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