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閑話 最近の新人冒険者事情

「エリオ これからどうするんだ?」


「トーシュ とりあえず、領都ニクマンを目指そう」


「そうだな あそこは大きな冒険者ギルドもあるし、仲間も見つけやすいかもな」


「二人じゃ何をするにも不安だよな…」


俺たちは二人とも十二歳になったのを期に村を出ることにした


もともと、嫡子ではない俺たちは村にいても農家は継げない


大農家なら農地を分ける事も出来るだろうが


小さな土地しか持たない俺やトーシュの家ではそれも出来ない


両親に家を出ると告げると、わずかなお金と古ぼけた短剣を渡された


いずれこういう日が来ると考えていたのか涙はなかった…


トーシュも同じだったらしい




村から少し離れて


もう帰ってくる事も無いだろうと村の方を見ると誰か走ってくる


「トーシュ、エリオ まってえー」


そいつは俺たちを大声で呼んでいる


村長の娘ジュリエッタだった


息も絶え絶えの彼女に


「エッタ どうしたんだ?」


トーシュが聞くと


「ニクマンに行くんでしょ?あたしも行くわ」


「ナニ言ってんのお前?俺たちもう帰ってこないぞ」


俺がエッタにあきれ顔で言うと


「うん あたしも冒険者になる こんな田舎で一生過ごすなんて嫌」


「…村長は知ってるのか?」


一応聞いてみる


「置手紙してきたよ」


「なんて?」


「「あたしは冒険者王になる!」って」


開いた口がふさがらない なんだよ?冒険者王って…


「ダメだ!連れていかない 帰れ!」


トーシュが怒鳴る


エッタは涙を浮かべるが


「一人でも行くもん 絶対帰らないっ!」


コイツは一度言い出したら絶対意志を変えない…


「エリオどうする?こうなると本当に一人でも行くぞ」


「仕方ない 連れていこう」


どうせ途中で村長が迎えに来るだろ…


「エッタ… 仕方ないから連れてってやる」


「旅の準備は出来てるのか?」


大きな肩さげカバンを持っているが…


「うん 着替えとか携帯食とか…あとお金?」


エッタは大人の握りこぶしくらいある革袋を出す


中には銀貨がいっぱいに詰まってた…


「…お前、これどうしたの?」


「六歳の時に村を出るって決めてからずっと貯めてた」


そんなに前からかよ… 


俺たちに引き留める資格なんかないじゃないか…


「エッタ 人前でそれは出すなよ 面倒なことになる可能性が高い」


「面倒なこと?」


「盗まれたり、すられたり…」


「うん わかった…」




「じゃあ、行くぞ」


気を取り直して再スタート


ここからニクマンまで徒歩で四日ほどかかる


道中いくつか小さな村はあるが、路銀が乏しいので野宿する予定


最初はハイキング気分だった…


でも二泊目を過ぎた辺から俺の体調が悪くなった


朝方焚き火が消えてたからな…


よく凍死しなかったもんだ…


そして、無様に草原のど真ん中で倒れた


二人が駆け寄ってくるのを見ながら、意識を手放した…




…気が付くとベットに寝かされ、知らないお姉さんが俺を見てた


「大丈夫?どこか痛いところはない?」


身体はまだだるいが、痛みは感じないので


「はい 大丈夫です」


お姉さんはにっこり笑うと


「キミたちお友達はもう大丈夫よ」


と言った


死角からトーシュとエッタが出てきて


倒れた後のことを教えてくれた


道端で途方に暮れていると、この馬車の持ち主のミルファと言う人が助けてくれて


わざわざ、さっきの治療師のリムさんを呼んでくれたそうだ


リムさんが金髪のきれいなお姉さんと話している


「ミルファ 峠は越えたけどまだ安静が必要だから…」


「わかった リム、非番に悪かったな」


「良いのよ じゃあ、私帰るから エリオ君、お大事にね」


「「ありがとうございました」」


トーシュとエッタがお礼を言うと、俺も頭を下げた



「おい。エリオって言ったっけ?なんか食えそうか?」


ミルファさんがその可憐な顔から想像もつかない粗暴な言い方で聞いてきた


「まだあまり食欲が…」


「まあ、少しでも腹に入れとけ ジュリエッタ、スープを食わせてやってくれ」


「ハイっ ミルファさん」


「二人には話したんだが、俺もニクマンに向かう途中だ ついでだから乗せて行ってやる 明日の昼には着くからそれまでノンビリ休め 良いな?」


「そこまでご迷惑をかける訳には…」


俺が恐縮してそういうと


「これは決定事項だ お前らに拒否権はない 飯を食ったらとっとと寝ろ」


と言ってミルファさんが外に出て行こうとする


「ミルファさん どちらへ?」


トーシュが聞くと


「今日はココで泊まりだ 野営の準備をしてくる」


「俺も手伝います」


トーシュもついていった


「なんか、すごい人だな」


俺がそういうと、横にいたエッタが


「でもすごく優しい人だよ…」


「そうだな…」


そういいながら俺は眠りに落ちた





「それじゃあ、俺はここまでだ」


冒険者ギルドの前に、馬車を止めて俺たちを下ろしてくれる


「入会したら必ず新人講習は受けろよ そのままだとすぐ死ぬぞ あと金がないならギルドの寮に入れ いいな?それから…」


ミルファさんのアドバイスが止まらないw


「ミルファさん もう何遍も聞きましたから…」


俺がそういうと


「そうか じゃあ、何か困ったことがあったらここに来い」


住所の書かれた一枚の紙を渡された


「それじゃあ、頑張れよ またな」


遠くなっていく馬車に


「「「ありがとうございました」」」


三人で見えなくなるまで頭を下げた




それから新人講習が終わるまでは地獄だった…


俺は治癒術師 トーシュはスペルユーザー エッタは戦士になった


でも、最初の苦労の甲斐あって安定した生活が出来た


ベテランの人たちは、昔は新人はもっと死んでたと言っていた…


あるクランが出来るとギルドは急に新人教育に力を入れる様になったという


そのクランは教会とは別の治癒師の組織を創ったり、農業にも力を入れていると…


そのクランにも感謝はしているが、俺たちにはミルファさんと言う大恩人がいるからな


今度、この住所に近況報告と改めて御礼を言いに行かないと…





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