逃亡者の勇者
「つまり、君たちはぼく達にどうして欲しいんだい?」
「元の世界に戻してもらえませんか?」
今、ぼくの前にはブレザー姿の高校生男女二名ずつ計四名がいる
「…どういう事か詳しく説明してくれるかな?」
「はい あれは一週間前のことでした…」
いつもの通学路… 幼稚園時代からの幼馴染4人組
おなじ文学部の活動を終え、夕やみ迫る神社に続く道を歩いているときでした
「あのライトノベルどう思う?」
ぼくは、本田颯太 田舎の高校に通う特徴はメガネと言うごく普通の学生
「異世界転移かぁ… 実際巻き込まれたら怖いよね…」
そういうのは、ぼくの双子の妹本田真鈴 学業運動は普通だが ぼくの妹とは思えないほど容姿がいい
けれど人見知りが激しく、学校でこのメンバー以外と話しているのを見たことがありません
「真鈴ったら… あんな事、本当にあるわけないじゃない」
笑いながら、真鈴の頭を撫でるのは豊田望愛 本校の生徒会長 明るい性格で教師達からの人望も厚い優等生
「でもさ、ちょっと憧れるよな 異世界に勇者として呼ばれ魔王と戦う ロマンだよな」
夕焼けの空を見ながらそういうのは鈴木隼 運動神経抜群で容姿端麗 性格もよく、どうして文学部にいるのかよくわからない変なヤツ
この四人の共通点は、程度の差こそあれ「オタク」という事
共通の夢は「いつかコミケに行って、同人誌を買いあさる」である
「そうだな かっこいいよな 最後は魔王を倒してお姫様と結婚して…」
「…颯太に魔王が倒せるわけないでしょw運動神経ゼロじゃない」
「わかんねえだろ 神様にチート能力とかもらえるかもしれないだろ!」
「お兄ちゃん 死んじゃったら大変だよ 危ないことしちゃダメ…」
大きな瞳に涙を浮かべる真鈴
「おまえ、こんな話で泣くなよ…」
「真鈴、大丈夫だ お前ら、兄妹は俺が守ってやる 安心しろ」
「準… あたしは守ってくれないの?」
「お前は、俺より強いだろ 望愛」
「ひどい… か弱い乙女に向かって… こうしてやる」
準の腕を後ろ手にひねりあげる望愛
「ぎゃああああ 折れる、折れるから!」
「お、おい なんだこれ?」
「え?」
足元に黒い魔方陣が突然浮き上がり、そこに4人とも吸い込まれました
「「きゃあああああああ」」
真っ暗な穴をおちていく時、聞こえたのは
「愛しい我が子達…
あなた達は邪悪な者たちにわが手の届かぬ世界に呼ばれてしまいました
これから大変な苦労があなた達を襲うでしょう
ですから、私が出来る限りの力をあなた達に与えます
守ってあげることはできませんが、この力で生き延びてください
今生の別れです… 守ってあげられなくて本当にごめんなさい
もし、自分たちの手に余る困難に出会ったら「ホムラ様」を頼りなさい
我が名「コトリ」を言えば必ず助けていただけます
諦めてはだめですよ お願い、生きて」
そこでぼくは意識を失って…
「勇者さま、御目覚めください」
目が覚めるとそこにいたのは牧師のような恰好をした胡散臭いおじさんでした
「…ちぇ お姫様じゃないのか…」
「は?なんでしょう?」
「いえ なんでもありません ここは何処ですか?」
「ここはスィートランド王国王都ワガシの神聖慈愛教団大聖堂です」
周りを見回すと一緒にいた三人が、まだ倒れていました
「おい お前ら大丈夫か?」
「勇者さま… その方たちは?」
「ぼくの妹と友達です おい、起きろ」
「うっ…あれ、颯太 いったい何があったの?」
「あたま、いてえ ここどこだ?」
「おにいちゃん! ここどこ?」
三人とも無事なようでした
「どうやら本当に異世界召喚されたらしい…」
「みなさま、お気づきになられたようですね
教皇様がお会いになりたいと申しております こちらに…」
さっきの胡散臭い神父に促され 豪華な廊下を歩いていく
その先の謁見室で聞かされたのは
この教団はある組織と敵対しており、非常に形勢が悪い
その組織の「邪教の魔犬」アルフェリオ、「異界の魔王」サヨ、「赤眼の悪魔」ホムラを討伐してほしい
その三人を倒してくれれば、元の世界に戻してやる
と言うモノでした
「わかりました 引き受けましょう」
「うけてくれるか!」
「他に選択肢はありませんからね」
「おにいちゃん?」
「今日はいろいろあって疲れたので休ませてください」
「おお、それは気が付かなくてすまなんだ すぐ用意させよう」
4人に個室が与えられましたが、すぐに真鈴の部屋に集まり
「…颯太 貴方、おちてくるときの言葉聞かなかったの?」
「聞いたさ」
「ならどうして…」
「逃げるにしても情報は必要だろ?しばらくはココの世話になって情報取集しよう」
「教皇のおっさんの最後の「赤眼の悪魔」さんの名前にも聞き覚えがあるしな」
「その辺を中心に情報収集しよう 「ホムラ様」の所在が確定したら逃げるぞ」
「「「うん」」」
しばらくは従順に剣や魔法の修行に打ち込みました
「コトリ様」に頂いた力はスゴイ物でした
歴戦の騎士を数日の修行で打ち負かし、
魔法はどの教団魔導師もぼく達の足元にも及びませんでした
もちろん、修行中も情報収集を続け
ついに「ホムラ様」がこの街にも事務所がある「はぐれ雲」と言う組織にいることを突き止め
ぼく達は脱走しました
「ホムラさん コトリと言う名に聞き覚えは?」
「…あります 貴方たちのことはコトリ姉様に聞いています」
「では…」
「残念ですが、あなた達はもうあの世界には帰れません」
ホムラの言葉に顔色が悪くなる四人…
「ど、どうしてですか?」
「人の魂は二度の強制時空転移に耐えられません もう一度転移したら魂が霧散してしまいます」
全員、呆然とする
「そんな…」
「じゃあ、返してくれると言うのは?」
「嘘ですね それとも無理矢理送り返して消滅させようと思っていたのかもしれません」
「ひどい…」
「どうしようお兄ちゃん…」
大きな瞳に涙を浮かべる真鈴君
「…諦めるしかないだろ」
颯太君はうつむいて両手を見つめる
「だな…」
準君は天井を見つめている
「お父さん、お母さん…」
望愛君がうめくようにつぶやいた
「うわぁああああああああああん」
真鈴君の鳴き声が部屋に響く
「これからどうするか しばらく、この事務所に泊まってよく相談するといい」
「コトリ姉様の使徒であるあなた達を私は見捨てません 自暴自棄にならないように…」
テーブルに今晩の食事「親子丼」を並べ、仮設ベット四つを事務所内に持ち込み
「お休み 事務所内は絶対に安全だからのんびりしていいよ」
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