簡単なお仕事 「お手数懸けます」
「フィナ… フィナ!起きなさい」
身体を強くゆすられ、意識が覚醒する…
「…あ、クレアさん おはようございます」
「…おはようじゃないわよ 身体は大丈夫?」
クレアさんはあきれた顔をした後、心配そうに聞いてきました
「身体…?」
…思い出した あの変な武器を持ったお兄さんに薬を盛られて…
咄嗟にパンツの中に触れます 犯されてはいないようです
次に服を調べてみると スカートのポケットに固い小さなものが入っていることに気づきました
金貨でした…
「クレアさん、こんなものが…」
彼女に金貨を見せると
「…そう、アンタも…」
クレアさんも金貨を見せてくれます
「もしかして、ジーナさんも?」
「うん…」
そういえば、ジーナさんがいないことに気づき
「ジーナさんは?」
「今、洞窟の中を調べてもらってる」
「危ないですよ 盗賊に見つかったら…」
「…誰もいないわ ここにいるのは私達だけよ」
戻ってきたジーナさんが、教えてくれます
「クレア フィナにあれを見せた?」
「まだ… フィナ、これあの背嚢の上に置いてあったの 読んでみなさい」
部屋の隅に置いてある三つの背嚢を指して 一枚の紙を手渡されました
紙には
『薬は入ってないよ 気を付けてお帰り』
と書いてあります
背嚢の中には 三日程、旅が出来るモノが入っていました
「…どう思うフィナ?」
あのお兄さんの顔を思い出します
「多分、大丈夫だと思います あのお兄さんは信用できる気がします」
「あたしたちに薬を飲ませたのに?」
「あの時、私達が付いて行ったり、勝手に動かれると邪魔と言うのは事実ですし…」
クレアさんは難しい顔をした後、にこっと笑い
「三人とも同意見ね あのお兄さんに感謝して、ありがたく使わせてもらいましょう」
背嚢を背負い、洞窟を出口に向かいます
洞窟の中はいたるところに赤黒いシミがあり、武器が散乱しています
でもどこにもけが人も遺体もありません
「二人とも、使えそうな武器を持ちなさい」
ジーナさんが短剣を拾いながら私達に指示しました
「「はい…」」
ここは、まだ森の中 人里に近いとはいえどんな魔物がいるかわかりません
私達が武器を持ったところで出来ることなど知れていますが素手よりましです
ひとつルールを決めました
もし魔物に会ったら全員バラバラに振り返らず逃げる
当然です 少しでも生存確率をあげなくてはなりません
洞窟を出て30分ほど歩いたでしょうか…
横の雑木の茂みの中から木を掻き分ける音がします
「なに?」
三人ともへっぴり腰で短剣を構えます
出てきたのは、討伐ランクAのレッドベアでした
私達では間違いなく三人とも彼?のエサです
「「「きゃあああああああ」」」
悲鳴を上げて三人チリじりに逃げだしたのですが
「あう」
私は木の根につまづいて転んでしまいました
覚悟を決めたとき
「フィナ!」
「早く立って!」
二人が戻ってきて助け起こしてくれました
でもこれで、私達は三人そろってあのクマさんのエサ決定です
「どうして戻ってきたんですか…」
震える手で短剣を構えるクレアさんが
「ホントバカよね でもずっと後悔するよりいいわ」
「ホントね」
「ジーナさん、クレアさん…」
クマさんはあと10mほどで私たちの所にきます
折角、盗賊から助かったのに… こんな所で死ぬなんて…
頬を涙が伝います
諦めが心を支配したとき
光の壁が私たちの前に現れ、壁とクマさんの間で大爆発が起こりました
クマさんは遠くに吹っ飛び、右後脚がなくなっています
呆気にとられていると光の壁の向こうに大きな剣を持った少年と大きな盾を持った青年、そしてあのお兄さんと似た武器を持ったシーフの少年が立ちふさがります
「だいじょうぶですか?」
私達の横にはいつの間にか、白いローブを羽織ったおっとりした感じの子と黒いローブを着た元気そうな女の子が立っていました
クマさんは私達が見ている前でみるみるバラバラにされ、最後は戦士の男の子に首を刎ねられて絶命しました
「よっしゃ 状況終了」
戦士君が背中のさやに剣をしまいます バスターソードでしょうか?
「膝を見せてください」
白いローブの子が私の擦りむいた膝に回復呪文をかけてくれました
「「「ありがとうございます 助かりました」」」
三人で助けてくれたパーティーの方たちにお礼を言うと
「良いのよ あたしたちもお仕事だからw」
黒いローブの子が朗らかに受け答えてくれました
「お仕事ですか?」
彼女はハッとした顔をすると
「うん あたしたちこの森に猛獣討伐に来たの」
しどろもどろになりながら言い訳?
「君たち、どうしてこんな所にいるんだい?」
シーフの子が聞いてきました
詳しく事情を説明すると
「俺たちも帰るところだから、村まで一緒に行こう」
盾職の男の子が誘ってくれました
「ぜひ、お願いします」
これで死なないで済みそうです
帰り道はいろいろお話しました
「アンナちゃん その肩の紋章は何?」
「これ? ウチのクランのマークだよ 「はぐれ雲」って言うの」
「…もしかして、アンナちゃんが「異界の魔王」様なの?」
「違うよ 小夜ちゃんはあたしのお師匠様 小夜ちゃんが呪文を唱えたら、この辺全部焼野原だよw」
それって笑いながら言う事ですか?
村に着くと 故郷に帰る馬車まで手配してくれました
「みなさん 本当にありがとう あと…」
「あと?」
「あの太った優しいお兄さんに本当にありがとうと伝えてね」
「…うん わかったよ」
アンナちゃんはすこし困った顔をした後、快諾してくれました
「じゃあ、アンナちゃんリムちゃん またね」
「またね」
評価、ブックマークありがとうございます