港町での日常
今、ぼくはニクマンの街の貴族の邸宅で、立木の剪定をしている
ニクマンの街は剣聖の里から西に350㎞ 海沿いの中規模の港町
最初は冬の味覚、海産物を食べるためにやってきた
「マサキさん、休憩しましょう」
ホムラが足元から声をかけてくる
ホムラと二人、木陰で休憩していると
「マサキ君、ごくろうさま」
人のよさそうな初老の紳士がねぎらいの言葉をかけてくれる
彼はこの街一帯の領主イ・ムラヤ伯爵
この世界の貴族では珍しく、良政を行う清廉潔白な名領主として有名な人物
そのせいか、この町はとても治安が良く暮らしやすい
気が付けば3か月も滞在していた
「ホムラちゃんもお兄さんのお手伝いごくろうさま」
どういうわけか、この伯爵様はホムラと小夜をぼくの妹だと勘違いしている
「小夜はともかくホムラは髪も目の色も違うし、血縁があるように見えないだろ?」
とホムラに聞いたら、この地域は どういうわけか「アルピノ」が珍しくないそうだ
たぶん、ホムラも先天性色素異常アルピノだと思ったのだろう
顔のつくりが雲泥の差だが、ホムラも東洋人顔だから・・・
「今日は他のお嬢さんたちはどうしたのかね?」
ホムラの頭をなでながら ぼくに聞いてきた
「あの子たちは、近くの山に危険生物の討伐に行ってます」
「そうか、少し心配だね」
「ミーアがついているので心配ありませんよ 彼女はBランク冒険者です」
「ほお、幼いのにBランクとはすごいね」
彼はびっくりした顔をする
「あの子24歳ですよ?」
伯爵様は口を開けたままフリーズした
「伯爵様?」
「おお、すまん 人は見かけによらんものだな」
まあ、ミーアを見て成人していると思う人はいないから仕方ありませんよ
「しかし、残念だ」
「なにがですか?」
「一度、アルフェリオ君のあのフカフカのシッポをモフモフさせてほしかったのだが・・・」
あのシッポはぼくのだから伯爵様でもダメです
アルフェリオが左腕をレッドベアに食いちぎられる
が彼女は全然ひるまず、クマの側頭部にまわしげりをくらわせる
クマは一瞬体勢を崩すが即座に持ち直し、アルフェリオを殴ろうと右腕を振り上げる
「シオ、右腕をつぶせ」
私の命令と同時に、シオの大剣がクマの右腕を切り飛ばした
私は、その隙にクマの首に短剣を突き刺すが・・・浅い
左腕で薙ぎ払われて身体を裂かれ、内臓をぶちまける
横に転がる自分の下半身を見ながら
「小夜・・・やれ・・・」
彼女のウィンドカッターが発動、クマは首を刎ねられ息絶えた
クマが倒れるのを見届けて、私は意識を手放した・・・
「・・・アさん、ミーアさん起きてください」
小夜に体を揺らされて、意識がはっきりしてくる
「・・・みんな、いきてる?」
「どうしたら、死ねるのか教えてください・・・」
シオが苦笑いしながら答える
ご主人様を殺せば死ねるが、そのためにはホムラ様を倒さなくてはいけない 絶対無理だ・・・
ましてや、シオや私は制約で殺意を向けることすら出来ないし、大恩あるご主人様を殺すなどあり得ない
私は、身体が完全に再生されているか確認して
「アルフェリオ 左腕は大丈夫?」
「うん なおったよ」
アルフェリオが左腕を振り回す
「やっぱり、討伐ランクAは強いね」
アルフェリオがつぶやく
「小夜さんが制約なしで呪文を使えれば、楽勝なんですけどね」
シオがクマを解体しながらいう
四人で行動を開始したばかりの頃、小夜の呪文の威力を見誤って4人そろって爆死したことがあった
ホムラ様が激怒して、小夜の指輪の制約を強化してしまった
1)詠唱をしないと呪文が発動しない
2)マサキの許可がないと指輪を外せない(マサキは知らない)
「ごめん・・・」
小夜が落ち込むと
「あ、そんなつもりでは・・・」
シオが焦って訂正する
「まあ、与えられた条件の中でやるしかないから頑張りましょう」
やるしかない というかウチは実力的にはAランクの上位に匹敵すると思う
「さて、これからどうする?」
「え?帰るしかないですよ というか迎えに来てもらわないと・・・」
「もう少し頑張れると思うけど・・・」
「ミーアさん 自分の格好見てください・・・」
小夜に言われて初めて自分を見る
下はスカートがなくなってパンツだけ、上半身は服がボロボロで胸が隠れてない・・・
ポーチから無線機を取り出し
「ご主人様・・・今すぐ迎えに来てください・・・(泣)」




