神喰いのZ
漫画の文章プロット用に執筆したものです。
-事の始まりは世界各地の教会に神が舞い降りたことから始まる。
神は言った。
「我ら各地の教会で眠り、
契約者となりうる器の人間を待とう。
我々が契約を望むとき、その者の前に姿現さん」
神はそう告げて各地の教会に姿を隠した。
神と契約を許された人間を"契約者"と呼び、
契約者は契約した神を意のままに服従させることが許された。
実質それは神の持つ魔力を
意のままに行使できるとともに、
神の力を手にしたことを意味した。
第一章.邪教の街
-100年後
街の看板には‶ウェルカム イン ダークシティ‶と書かれた看板がある。
1900年代のアメリカの街がそのままタイムループして来たかのようなレトロな街造りの中に、女神像や宗教的な造物がひと際目立って混ざっている。
宗教的なものには、どれも目玉の中に星が入ったポップ調のようで何処か魔方陣のようなデザインのマークが貼られていて、よく見ると建物の目立つところに同じマークがポスターのように貼られている。
何かの宗教マークのようだがそれにしても街を覆いつくしている。
夜のこの町に雨が降りやまない中、黒いフードコートを被った男が街の路地に足を踏み入れた。
高校生くらいで何処か人と違う―‥邪気をまとっているようなオーラがある。髪は金髪だがフードを深く被って顔は見えない。それでも美少年だというのは判断できる。
フードの少年が雨に紛れて道の奥へ進もうとすると、偶然にも神父たちがそれを目撃した。
「おい、待てそこの者!」
神父は3人で、白いカトリック系の制服を着用した少し厳つく、ガタイの良い男達だった。
よく見ると神父の制服には町のあちらこちらに貼りめぐされていた、宗教マークが組み込まれている。街を覆いつくしていたところを見ると、相当な権限を持っている組織で、警察的な役割も任されている大型な組織なのだろう。
男たちは全員銃を持っていて手錠も装備している。男たちは少年を遺憾な表情で睨みつけ、今にも少年に向け構えた銃を発砲しそうな勢いだった。
ー男たちの怒りの矛先は何なのか?神父たちをよく見ると、その目線は少年の首元を向いている。
少年の首元には、何やら黒い蛇のような模様がS字状ににカーブし、白く神聖感ある十字架の模様に突き刺さって一つのマークのようにしてアザになっていた。
「その首元…契約者の証だな?」
「契約者は街に踏み込んではならんと決まりだ!」
勢いよく接近してくる神父たちを他所に、少年は静かに立ち止まって緊張感なく振り向いた。口元には棒キャンディを含み、少しニヤリと笑ってペロペロとなめている。
少年は手を上げるが、どこか友達に合図を売っているかのようなおちゃらけ感がある。でも手元は繊細でかつ、筋が通っていて綺麗だ。
少年は、そう怒ってたら減らないものも減ってしまうぜ、と言わんばかりになだめる口調で神父たちに答えた。
「ただの旅人でやす。一服するのに街を訪れただけでして」
反抗するか逃げるかと思っていた神父たちは、少年の意外な物言いに「ふっ」っと笑ってしまった。もう十分に狙い撃ちできる距離まで来ている。神父たちは銃を構えると、余裕の笑みを浮かべて少年にゆっくりと近づいた。
「どんな理由であろうともこれが街のルールなのだ」
神父はそう言うと、弾をカチッと切り替えて引き金に指を置いた。指を押せばすぐに少年に銃弾が発射される。神父はそれを想像し、ニヤリと喜びの笑みを浮かべた。契約者を始末する事は我が教団の教えの一つで、神への貢献である。神父の気持ちは喜びで気立っていた。
「そして我が神の教えだ!」
少年は、そんな乱暴な教えを広めるその神とやらに愛想をつかせて微笑んだ。このままでは射殺を免れないだろう。
仕方なく戦う事を選んだ少年は、神父達を相手として睨んだ。目は、契約者だからなのか三白眼で、赤い瞳と青い瞳が輝いている。魔眼だ。フードで顔の上半分が影になっている分、光がより鮮明に見えた。
少年は微笑したまま、何か呟くようにぼそっと口を開けた。
神父は引き金を引いた――はずだった。
撃ちぬかれているはずだった。確かに銃口は…引いたのか、外れたのか?少年に弾が当たっていないのは確かだ。
だがそれ以上の事が起きている。邪神だ。影の塊が黒い蛇のような姿を作っている。少し悲しげに少年の後ろ側に呼び出されたそれは、発射された銃弾を尾でガードした。
邪神が呼び出されたと共に、辺りの景色はまるで闇の世界が引きずり出されたような情景に包まれ、黒い霧が竜巻のようにあたりを囲んでいる。それは少年が操る邪神の魔力で、オーラに包まれた少年は宙を舞う。
少年が手を差し伸べると、辺りの魔力は操られるように形を成し、神父達を追う影の槍として貫いた。神父達は血を吹き出し、次々と刺されていった。
神父達は悲鳴を成す暇もなく、代わりに口から血を吹き出す。吹き飛ばされ、倒れこんだ神父達だったが、一人は思いあった節があって、息をこらえて少年を眺め目を丸くした。
「…まさかこの力…邪神なのか?」
口が血で溢れる中、必死に問う。その発言に、倒れ込んでいたもう一人も反応した。
「邪神⁉あんなの噂なんじゃ…」
一人はそう言うが、しかしこんなことを出来るのはあの噂の人物しかいない。
少年は返事をしないままだが、確信を持っていた神父は恐怖を抱きながら尊敬の居も込めて”あの名”を口にすることにした。
「ああ…見事だ…神食いの…」
神父はまた血を噴き出して咳をした。倒れた神父の地面には血が溜まっている。少年の顔にも返り血が付着していた。
少年はその血を舌で舐めまわした。――美味い。邪神と契約したからなのか、少年は美味しそうに血を舐めまわしている。
神父は哀れな姿だったが返事くらいはマナーだろう。舐めまわすのに夢中ではあったが、こんなことが日常茶飯事の彼にとっては、これがせめてもの礼儀だったのだ。
「ジーン」
そう名乗ると、ジーンは再び道の奥へと進みだした。神父達は、言葉を聞いた時にはもう既に力尽きていた。
ザァァと雨はさらに降り注いだが、血の溜まりを洗い流してくれている。幸いこの音で気付いた者もいないようだ。
突然のトラブルであったが、血を頂いてしまったのだ。ジーンはお礼を言い忘れたと、神父たちに振り返る。さよならの挨拶も済ませていない。
「お粗末さん」
微笑を続けたまま、さよならのポーズを取って、豪雨の街の奥へと進んで行った。邪神の召喚は、ぱっと消えたが、収めきれていないのか影が少しジーンから突き出ている。
神父たちの傍には一輪の花が咲いていた。返り血を浴びていたその花をジーンは流し目で見つめた。
。。2へ