含笑のない
逢いたくないわけではない
いつでも逢いに行けるから。
知らないわけではない
近くに線路がある場所で
いつも月に顔を背けているのを。
逢いに行けばすれ違う事を
昼間の月は知っていた。
近くの線路の上を
大きな風だけが走っている。
逢いたいといえば嘘になる
いつかがこの瞬間になれば
もう逢えなくなるから。
二人の命を閉じ込めた小さな小屋では
今日もカーテンが閉じていた。
隙間から明かりが漏れることもなく
時間と叫びが見えるのかもしれない。
あの日のまま
まだ生きているんだね。
赤ん坊は
まだ赤ん坊でいるんだね。
月が夜に晒されて、割れた鏡に炙られる。
逢いたくないわけではない。
逢いたいわけではない。
逢いたいと言わなかっただけなのだ。
逢いたいと呟くその刹那。
近くの線路上
風が行き場を喪った。




