彼の視線と滲む視界。
五時間目に来なかった佐伯は休み時間になって教室に入ってきた。私の想い人を知っている数少ない友人の1人、恵理香が私の席に来た。
「ねぇ、佐伯くんなんか元気なくない?」
綺麗な黒髪を揺らし、私の耳に顔を近づけて彼女はそういった。佐伯の顔を見てみると確かにいつもより暗い顔をしていた。効果音で例えるならしょぼん、とした感じだ。
もしかしたら私のせいかも、そんな考えが頭をよぎった。けれど元はと言えば佐伯が悪い。そう自分の中で決めつけた。
「えーそうかな?恵理香の気のせいじゃない?」
佐伯に聞こえない程度に話す。恵理香はえぇ、そうかなーと口を尖らせて佐伯を見た。
私は佐伯のこと見るのが怖くなって机の中から取り出した小説を読むフリをした。すると恵理香があ、と声をあげた。
「佐伯くん、あんたのこと見てるよ?」
恵理香に言われて佐伯の方を見る。バッチリと目が合ってしまった。それと同時に視界が歪んだような気がした。恵理香がちょっと、と言っているのが聞こえた。佐伯の目が見開いたのがわかった。そして自分の頬に生暖かいものが流れていくのがわかった。
「いきなり泣いてどうしたの?まさか何かあった?」
驚いた恵理香が焦った様子で私に問いかけた。
答えようとするともう六時間目を告げるチャイムがなりそうな時間なのに気づいた。
「あとで話すね。」
私は制服の袖で涙をゴシゴシと拭いて恵理香に笑いかけた。納得していない様子だったけれど教室の時計を見て不満気に自分の席に戻っていた。