のんきな彼に。
こんにちは。
短いです。
好きにはいろんな意味がある。
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「ねえ、私君のことが好きなの。」
「奇遇だね。俺も君のことが好きだよ。」
屋上に風がビュウ、と吹く。
それと一緒に私たちの髪も揺れた。
私は昼休み一世一代の告白をした。
相手は同じクラスで仲のいい男子の佐伯。
顔はイケメンではないけれど美少年と言われればたしかにと納得できる。
つまり程よくモテるのだ。
性格はとても優しい。気だるそうな目からあまり想像できないけれどレディーファーストだし頭だっていい。
完璧男子というのはこういうやつのことを言うのだろう。
そんな彼に告白をするのだから、と準備はみっちりしてきた。
いつもはしない化粧。
いつもは伸ばしているスカート。
手入れを少ししかしていなかった髪も可愛くしてもらった。
そして佐伯の返事はある意味私が欲しかった言葉だ。けれどその割に表情の変化がない。
元々感情表情が豊かというタイプではなかったけれど
何かしらの反応はするものだと思っていた。
「佐伯の好きってどういう好き?」
「普通の好きだよ?」
首をかしげてそう答える。
こんなに佐伯は鈍感だったっけ。
「そうじゃなくて、恋愛とか友達とかあるでしょ。どれ?」
「え、好きに恋愛とか友達とかあるの?」
眩暈がしそうだ。
こんなに鈍感な人は今まで見たことがない。
「本当にわからないの?キスしたいなーとかっていうのが恋愛で一緒にいるの楽しいのは友だちってことだよ」
私は大雑把だか佐伯に説明をする。
一応わかりやすく言ったつもりだった。
「ごめん、よくわからない。でも俺は君のこと友達として好きなんだと思う。キスしたいと思う人はいないかな。」
それでも彼は首をかしげながらそう言った。
遠回しでもなんでもなく普通にあっさり私はふられた。
「そっか。まあ知ってたけど教室行こう。寒い」
結果はわかっていたことだとしても好きな人からふられたのだ。少しそっけなく佐伯に話しかけてしまった。
「うん、そうだね。そういえば今日いつもと違うね?」
私が素っ気なく話した事は気にしていないのか
元々気づかなかったのか何食わぬ顔で佐伯は私にいう。
ちょっとだけ彼に腹が立ってしまった。
「そんなの当たり前じゃない。告白するんだから。」
ちょっと怒ったように私は彼に言う。相変わらず気だるそうな目をした彼は私が怒っていることに戸惑ったのかわずかに驚いていた。
「なんで怒ってるの?」
私の心など無視して佐伯は整った顔を傾げた。
似合うのがとても腹立つ。
「別に怒ってないよ!早く行こ!!」
「やっぱり怒ってる。」
佐伯の声を無視して私は歩き出した。
鈍感にも程があるだろうと思う。今まで恋というものをしてこなかったのだろうか。いやそれにしてもしらなさすぎる。
「ねぇ、やっぱり怒ってるでしょ。」
私が教室に向かうときずっとふてくされていると彼がそう言った。彼も私と同じように頬をふくらませて私のことを冷ややかな目で見てきた。
そんな佐伯に私は先程と同じ言葉で返す。
「怒ってない。」
本当はとても怒っていたし腹が立っていたけれどそれを彼に言うのはなんだか負けたようで嫌だった。私なりの意地というやつだ。
私の返答に佐伯は不満だったのかまたむすっとした顔をした。
「ねぇ、なんでそんなに怒ってるの?俺好きって言ったじゃん」
佐伯は不満気にそう言った。また私は彼に腹が立った。どうしてこんなにも鈍感なのだろうか。今まで好きになった人は何人かいたし告白もしたこともある。結果はどうであれみんな言葉の意味を理解していたし私もそれが当然だとおもっていたのに。
『好きに恋愛とか友達とかあるの?』
頭の中でさっき彼が言った言葉がリピートされた。こんな返事は初めてでどう反応していいかわからない。挙句の果てに私は振られてしまったのだ。自分勝手だとは思うけれど彼と前と同じように話すなんて無理に決まっている。
それは今までの人たちもそうだった。私に振られた人や私を振った人たちは私のことを避け、私も彼らのことを避けていた。
それが普通だと私は思っていたのだ。
「怒ってないってば。三回目だよ。好きと言われたけど佐伯の好きと私の好きは違うの!」
自分で言って涙が出てきてしまった。こんなこと言わせないで欲しかった。私は佐伯を置いて廊下を走り出した後ろから佐伯の待って、という声も聞こえたけれど振り向こうとは思わなかった。
教室のドアを開けて自分の椅子に素早く座り机に突っ伏した。心はズキズキと痛んでいたしお腹も空いた。けれど何もする気になれなかった。
泣きながら入ってきた私を心配して友人達が話しかけてくれていたけれど誰とも話す気になれなくて大丈夫だよ、とだけ笑ってまた突っ伏した。
昼休みはずっと静かに泣いていた。
佐伯は五時間目の授業が始まっても戻っては来なかった。
これから宜しくお願いします。