中学生の頃
もともと一人で空想することが好きだったんだと思う。
授業や登下校、ご飯を食べてる時やお風呂に入っている時、人と話している時でさえ、いつもどこかに意識が飛んでいってへんてこりんな物語を作り上げていた。
アニメやゲームの影響を多大に受けながら、こんな話はどうだろう、あんな話だったら面白いとか一人でニヤニヤしながらずっと生きていた。
それを何かに書き出すことはなかった。
それを人に話すこともしなかった。
そんな風に妄想をこっそりとため込んでいた自分に転機が訪れたのは、ちょうど中学2年の冬だった。
理由は忘れてしまったが、その日は自習があった。しかもその時は先生が教室に不在だったため、教室の空気は緩みに緩みまくっていた。
「暇だわぁ……」
そう呟いて自分は机の上に突っ伏した。単なる独り言のつもりだった。だが、すぐ前の席のTはしっかり聞いていたみたいだった。
「じゃあ、何か書いて」
そういってTは振り向くと、ルーズリーフを2枚差し出した。
「はい?」
予想外なTの行動に思わず突っ伏していた体を起こした。
「お話」
Tはそれだけ言った。説明が遅くなったが、Tはよく休み時間に二次創作的な話をよく書いている奴であった。まぁいわゆる話を創作するのが趣味なやつだったのだ。とはいえ、それまでまったく話など書いたことがない自分に暇なら何か書けばと勧めてくるというのは、Tは相当変わったやつだったのだろうと今になって思う。
「ふーんいいよ。で、どういうのを書けばいい?」
そして、その提案をさっそく受け入れて書こうとする自分は、それ以上の変人であった。
「じゃあ、シリアスなのがいい」
自分とTの話を聞いていたSが急に話に割り込んできた。
「シリアスって?」
無知な自分は聞いた。
「血がいっぱい出てきて、人がたくさん死ぬ話だよ☆」
Sはそう笑顔で答えた。
「うんわかった」
少々ずれたSのシリアスの解釈を聞き、自分はさっそく書き始めた。
……私はがれきの街を歩いていた。いろんなところに死体が転がっている。人々はこのありさまを見て、ぼうぜんとしていた。血だらけの街……。そこにあるのは地獄そのものだった。そして、その地獄をつくったのは私……。
そこまで書いて、自分はTに見せた。
「いいんじゃない」
Tはそっけなく言った。それをのぞき込んだSはうっとりとした笑顔で
「私、これ好きー」
と言った。
褒められていい気になった自分は再び続きを書き進めていった。
最初に渡された2枚のルーズリーフはすぐに文字で埋まった。
続きを書くために、Tにルーズリーフをねだり、話を書き、友人二人に見せ、また新しいルーズリーフをTにねだった。そんなことを何回か繰り返し、ルーズリーフの数が10枚近くになった頃、自分はそれ専用のノートを買った。
これが黒歴史ノートの始まりである。