俺が悪いけど悪くない
「おはようございます、クー様」
「…っぅひぃっっ!!」
昨日醜態を晒しまくった相手(8才)のドアップに悲鳴をあげる。
わざとではない。反射だ。避けるようにレオンがいる方とは逆に体が動く。
「クー様?」
「危ないよ、クー」
当然とは思いたくないが、ベッドから落ちそうになった俺を危なげもなくアルフが抱き抱える。
ねぇ、まさかその為に左右囲んでるの?
なんて言えばイエスと間髪を入れず帰ってきそうで何も言えない。
それよりもレオンの目が怖い。
俺は慌ててアルフの服を掴んだ。
「クー?」
「お願いだから察してくれ!!」
「え?何を?」
このポンコツ!と叫ばなかった俺偉い。
レオンは自分に非があると察したのか床に片膝をつけ頭を下げている。
おい!8才のが察してんぞ!!
「クー?」
男が首傾げても可愛くねぇんだよ!!
あ、嘘。イケメンはよく似合ってる。だがこの状況においては役にたたねぇ!!
アルフとレオンを交互に見る。
ねぇ、アルフさん、本当に察せない?
俺が言うの?ねぇ、俺が言うの?
首を傾げたままのアルフに殺意がわくがこのままレオンを放置しとく方が辛い。
アルフに下ろしてもらい背中に隠れてから口を開く。
「恥ずかしいんだよ、ばかぁぁぁぁ!!」
かつてない羞恥心が俺を襲ったのだった。
ーーーーー
原因の昨日に少し戻ろう。
あ、うん。俺が整理する為だけど何か?
あの後(王様と話した後)色々ムシャクシャして浄化しまくった。後悔はしてない。訓練だし誰にも迷惑かけてねぇしな!…いや、護り人達やレオンには休憩とるように何度も言われたし、無理矢理椅子にも座らされて水分やらおやつやら世話はやいてもらいました。
アルフにはそんなヤケクソでやるもんじゃないとも言われた。ごもっともだけども!分かってるけどやりたい時もあんだろ!お前にはなかったのか!って返したらなるほどって頷かれた。それにデュラが突っ込んだけどデュラにもあるでしょう?って純粋に返されたら黙ってしまった。
まぁそんなこんなでイライラしたまま続けた俺はふと思った。
このイライラを込めた魔法は使えないかと。
いや、だってさ、浄化って気持ち的には逆なわけですよ!イライラしながら子守唄歌えないだろ?
そんなわけでいちいち心落ち着けて浄化して疲れることで解消しようと思ったんだけどストレス半端ねぇんだわこれが。
魔法はイメージだっていってたし……光……光……雷とか?ドカーンとすれば気持ち良いかも!
なんてもはやストレス解消に魔法とかおかしいがもうそこまできてたとも考えられる。何も起きなくてもスッキリするし、大きな声で叫んどいて何も起きなければそれはそれで恥ずかしいがそもそも習ってないから当たり前だし、てかもうどうでもよかった。
俺は雷をイメージしながら叫ぶ。
「ライトニング!!」
アルフが叫んだ俺に驚くがすぐに俺の前で炎の壁を作った。デュラが慌てて結界を張る。エイトも一休みして戻ってきていたため闇の壁を炎の壁の後ろに張った。
え?そんな一大事じゃなくね?と思った俺が悪かった。
バリバリ!?
ドグシャ!?
雷が天から落ちてきたかと思ったらすごい振動と音。俺達の前には魔法の壁があるからか何もないけど、魔法の壁の横から茶色の塊が通りすぎてぐしゃっと嫌な音がした。
しばらくして土埃が消えた後には地面に大きな穴が開いていた。ついでに壁には穴があいてたり土がついてたりした。
「……え」
思わず放心した俺は悪くない、と思いたい。
「怪我は!?」
「な、ないです」
「よし。デュラ、僕の声を城全体に届けてくれる!?」
「はい!!」
デュラが何か唱えるとアルフを包む。
「全員に告ぐ!今のは異世界の神子様の光魔法である!魔物の襲撃ではない!各部隊はただちに担当場所の被害状況の確認をし部隊長に報告せよ!」
ビリビリとアルフの声が響き風が緑色に光ると城全体に拡がっていった。
「異世界の神子様が無事でなによりです」
後ろからの声に振りかえれば入り口に待機していた騎士達がいた。
心底ホッとしたとその表情で分かる。
……うん、本当にごめんなさい。
自国の王子よりも優先されてることに引きつりそうになるもそれだけのことをしたのだと真っ青になり頭を下げる。
騎士達が慌てるがそれをアルフが制し俺の前でしゃがんだ。
「異世界の神子様」
「……っ」
その呼び方だけで背筋が凍った。
「どうして光魔法を使ったのですか?ここは浄化の訓練場所であり攻撃魔法用の結界を張っていないのですよ?」
丁寧だが声はとても低い。
怖い。
それはそうだ、あの地響きだ、怪我をした人もいるだろう。
俺は震えて上手く口が動かないながらも必死に謝ろうとアルフを見つめる。
「……め、……ごめ、なさい。……ごめっなさい!お、俺…本と、に…まほ…使え、なって……お、おもってな…くてぇっ……み、なに…けっがさせ、きなってなかっ!」
アルフが俺を包む。
背中をポンポンと叩かれる。
……うん、しゃがんでんのに俺の背中叩けるのね、なんて片隅で思ったが余計に俺を泣かせる行為には変わりない。
ひっ、と嗚咽を漏らし鼻水でグチャグチャな俺の顔をどこからか出したハンカチで拭く。
あまりに高そうなそれにすぐに涙は引っ込んだが、次の言葉に思わず叫んでまた鼻水が出た。
「そうだよ、クーが怪我したらどうするんだ」
「そこじゃねぇだろぉぉぉぉ!!」
ーーーーー
ってなわけでその後はそれぞれの部隊長に謝りに行きました。呼ぶって言ったけど断りましたよ!原因俺だからね!
幸い城の結界で外には漏れなかったとのこと。中の人も誰も怪我もなかったとのことで本当によかった。
その事を伝えたらあれで怪我してたらこの城で勤めてられないと返され俺が引きつった笑みで返すことになった。
……そういえばここって執事さんでさえ戦えるもんね…ふふっ。
んで、その後は魔法の講義でした。俺は初めてというかまさか使えるなんて思ってなかったことを伝えるとすごく驚かれた。
「……そういえばクー様はさっきのが初めての光魔法でしたね」
デュラが何とも言えない表情で話すが俺も同じ気持ちだ。
まさか本当にイメージだけだとは思わなかったんだよ!!ほら、魔力の伝達とかさ!術式とかさ!って言ったら首傾げられた。すいません。
普通は魔力が足りなければ発動しないとのことだがなにせ俺神子様!腐るほど魔力あんだぜ!あ、すんませんした。
その後は慣れる為にやっとく?なんて軽く言われたが精神的に辛かったので断った。
でもモヤモヤは余計に溜まってるわけで。
俺は浄化の訓練場所にてひたすら走ることにしたのである。
ーーーーー
……うん、ここまではいいんですよ。
まぁ、ここまでも大問題だけどな!
とにかく走って走って精神的なもんもあり本当の本当に限界まで走った俺の意識はそこでなくなった。
……ふふっ…目覚めた瞬間が最悪だったんだよ!
せめて全部終わってから目を覚ませばいいものをどうして僕ちんはここで起きてしまったのですか!?
あ、混乱がよく伝わりましたか?
……うん、あのね、レオン君(8才)に全身洗われてるところで起きちゃったんだぁ。
うわぁぁぁぁあ!!
いやもう本当に叫んだ。
しかもさ、その声に護り人まで駆けつけてくれるのよ!うん!仕事熱心でいいけども!
俺 だ け 裸 !
うんぎゃぁぁぁぁぁ!!
そうなんだよ、レオンでさえっていうかがっつり軍服着てんだよ!
しかも本当全身洗ってくれてんだよ!全身泡まみれよ!
お前マットみたいなもんの上に裸で寝かされて8才の軍人に上半身支えられながら洗われてみろよ!
泣くわ!
喚くわ!
叫ぶわ!
しかもて、…てて…手で!
泡流す時まで丁寧に撫でながらやろうとすんのよ!
抵抗しても相手暗殺者よ!?綺麗に捌かれたわ!
お風呂まで姫抱きで連れてかれる時には俺のすべてが燃え尽きてたよ。
出てからは全身をまた丁寧に拭かれてさ、パジャマ一瞬で脱がせたくせに着替えすんげぇ丁寧にやるしな!
もう君その歳でドSの才能あるよ!!
もう泣きそうになりながらも、こんで泣いたら大切な物を失いそうでこらえたよ。
幸いにも疲れてたからベッド入ったらすぐ寝ちゃったし。
……うん、でもだからって昨日の今日で忘れるわけもなく。
ってかアルフが悪化させたわけで。
アルフとレオンそれぞれに一発ぶちこんでとりあえず落ち着いた。ってか落ち着かせるしかねぇけどな!
あ、いっとくけどレオンは頭ぺしんよ。8才殴れるか!
アルフは容赦しなかったけどな!