ホームシックにならないはずなのに帰りたくなる存在価値=俺
あの後も何回か歌って浄化の練習をした。
浮くって分かってれば違うもので、いや、じいちゃん見て浮くの分かってたんだけども!やっぱり初めては驚くじゃん!…すいません、俺がダメな子なだけです。まぁ、とにかく繰り返すうちに浮いたまま歌い続けることが出来た。範囲は変わらず、訓練所全部。
じいちゃん神子の話しだと神子によりその浄化の範囲も強さも違うとのことだ。あとは魔物自体が強ければ浄化も時間がかかるとのこと。
やはり俺は異世界の神子なだけあり浄化能力は高いって。あんな一瞬であの範囲はすごいって褒められた。
まぁ褒められたのは嬉しいんだけども…。
「…疲れる」
少ししか浄化してないのに疲れる。俺浮いて少し歌っただけなんですけど。
そんな俺の呟きに呆れたような声が届いた。
「当たり前だ。クーは魔力はあるが体力はないだろう」
「………え。魔力だけじゃなくて体力も使うのか!?」
冷たい視線が突き刺さるがそれは一つだけ。アルフとデュラはなるほどと頷いた。
「クーの世界って魔法はないんだよね」
俺がやってたゲームだと体力と魔力は別扱いが殆どだ。でもここは現実なわけで、魔法を使うと体力、魔力、精神力を使うとのことらしい。
確かに俺の世界でも何をするにしても体力と精神力は使った!テスト前とか特に!あ、テスト中も使ったよ!?まぁ分からなくて燃え尽きてる教科もあったけどな!!
そういえばテスト丁度終わった後だったわけだが、果たして結果を知ることが出来なくなったのは良かったのか。俺、あんまり頭良くないから。ふふっ。
よく考えてみればここにはステータスとか数字には現れない。自分の感覚だ。俺としても力はあるのに身体がダルいって感覚なのでエイトの言うとおり体力がないんだろう。よく見なくてもデュラでさえ筋肉がついてんのがよく見える。
体力作りもしなくちゃね、っというアルフの声に小さな声ではい、と返した。
「あ、ごめん…。クーは頑張ってるのに…」
「え…」
だが慌てたのはアルフだった。
今日はもう休もうなんて言い出す。
「いやいや、体力ないのは本当だし。少し休むだけで…」
そこまで言って気付く。アルフもおかしいがデュラの顔色も悪いではないか。あ、エイトさんは変わらないってかまったく分かりません。
心配して手をのばすと首を振り大丈夫ですと言われ後ずされる。
「……えぇ…?」
ごめん、ショック。デュラに避けられるってショック。
待って。考えるから。
俺何した。
浄化まではいい感じだったよな。でも体力ないってなって、アルフが体力作りしようってなって。…体力作りといえばさ、走るじゃん?俺マラソンとか走り込みって苦手というか嫌いなんだよな。サッカー部だったんだけど試合とか練習…つまりゲーム中に走り回るのは好きなんだけど、先生に、んじゃお前ら外周してこい!って言われるとすごく萎えるの。
それ思い出してやる気ない返事しちゃったけど…え、まさかそれじゃないよね。ね?
「前にも言ったが異世界の神子は俺達にとって何よりも大切な者だ」
「あ、はい」
俺が確認しようとする前にエイトが話し出す。具体的に言ってなかったな、なんて恐ろしい言葉を。
え、それまた言うの。僕それに関しては具体的も何も、もうお腹いっぱいですけどぉ。なんて言えるはずもく真剣な顔を頑張ってする。
が、続かなかった。
例えば、神子と子供がいる。それを魔物が狙ってる。騎士は悲しいがどちらかを選択しなければならない状況下なら神子を助けなければならない。
やだぁ。名前刻まれない理由が分かりやすい。
なんて思うか!やめて!
「しかし子供の方を助けてもこの場合裁かれない」
「え……まさか俺だと…」
「もれなくすべての国から裁かれる。あとクーの場合むしろ子供がお前を守るというか盾にならなければならない」
いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!
確かに皆が喜んで盾になるって前言ってたけど、ものの例えっていうかさ!あの状況で冗談だなんて思ってなかったけどさ!だから泣いたんだけどさ!
「そしてその状況にすることはないが国王と神子なら国王を選ぶ」
指揮がなければ崩れるからだそうだ。そしてつまりそれを言っちゃったってことは……。
「国王とクーなら国王直属の騎士でもクーを守る。というか国王が喜んでお前の盾になる」
「絶対それらの状況にしないで下さい」
コクリと頷くエイト。
お前絶対だからな!!
そしてアルフとデュラのその反応もよく分かった。
つまりそれだけ俺が尊い位にいるってことで。それだけの力があるってことで。分かってたけどまだ俺が充分に分かってなかったってことで…。
もし、俺がへそを曲げたりしたら世界が滅ぶとそういうことなのね。
改めてよく分かる具体例でしたよ!
「……ないけどお家帰りたくなる」
デュラだけでなく今度はアルフまで顔色が悪い。
救いなのはエイトが無理と即答したことか。
うん、まぁね、帰ったところでトラックにひかれるだけだしな。
前は俺達置いて逃げろって言われて泣いたけどここまでくるとむしろ笑えてくる。
つまり歴代の神子でそれを逆手にとる奴もいたってことだろ。
「……まだ今日だけだし信用はまだないの分かってるけど……あぁ帰らないって!本当!魔法使えて楽しいなぁ!とにかくさ、俺、大丈夫だよ。もっとフレンドリー…えっと親しみもってほしいっていうか…もっと近い距離でお願いします。俺寂しくて泣くぞ!」
そう言う俺にデュラは慌てて駆け寄って来て回復魔法をかけようとしたので今度は俺がチョップしてとめた。
「だから、そういうのが大丈夫だっつの!」
わしわしと頭を撫でると呆気にとられてたがそのうち嬉しそうに笑うもんだから可愛くてしょうがなかった。
「ごめん。……クーって気さくっていうか…単純で分かりやすくてつい対応もそうなって……体力作りの話しした時に異世界の神子様に……飽きられたらって思ったら……」
アルフ、お前は一回殴ってもいい気がする。
でも確かに訓練に関しては三日坊主じゃ困るもんなぁ。
というわけで学校みたいに時間割になりました。
といっても一時間勉強か訓練したら一時間休憩でかなり甘いです。でもその休憩時間は護り人の皆とのコミュニケーションの時間にあてるのでだらけてるってわけじゃないよ。
むしろこれからやってくなら一番重要な気がする。
まぁそんな感じで浄化したり四人で話したりと俺の1日は終わったのだった。
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「んじゃまた明日な」
夕飯も食べ、風呂も入らせてもらいネムネムな俺は部屋まで案内してもらいそのフカフカなベッドへダイブした。今日はエイトが当番なので二人はそれぞれの部屋に帰る。
ちなみにアルフは自分の部屋だけどデュラは隣の部屋だそうだ。デュラの時はエイトが。アルフの時は二人とも一緒に隣の部屋で寝るとのこと。
「明日は僕の番だからね」
「頼むな」
「えと、僕は違いますけど側にいていいですか?」
「もちろん」
「俺は寝てる」
「あ、うん。今日夜勤みたいなもんだしって今言うか!?」
エイトがマイペースってことがよく分かる1日だった。
あれ?俺浄化とか頑張ったのに全部エイトに持ってかれてないかね!?